短いお話

クイン

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『木下 乙女』

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――ガーーガーーガガッ……

『みなさん、こんばんわ! DJヤマチのお悩み相談。今回もリスナーの方からの相談どんどん聞いていくよ』

 深夜0時から始まるラジオ番組を聞きながら、僕は実家の裏山にある桜の木を目指していた。

『さあ、今回最初のお便りは、木下(きのした)・乙女(おとめ)さんからです。ありがとうございます。早速読ませていただきます』

 イヤホンから流れるラジオの愉快な声を聴きつつ、山の斜面を登っていた。傾斜は厳しくないのだが、やはり疲れる。

『――私は今、独りぼっちです』

 若い時はアイツとよくこの道を歩いたもんだ。実に感慨深い。木々や草・土の匂いすべてが懐かしい……。足元が湿って不安定なのも変わらない。獣道を月明かりがやさしく照らしている。柳の木がある。そういえばアイツはこの木を幽霊と見間違えていたな。そのたびに僕の腕にしがみついていた。幽霊の正体、枯れ尾花とはよく言ったものだ。

『紅い桜の木の下で来るのを待っています――いいね! ロマンチックだよ。これは誰を待っているのかな? 彼氏さんかな? 彼氏さん聞いているなら今すぐ彼女の元に行ってあげて!』

 道が平坦になり、頂上に着いた。僕は手に持っていた荷物を地面に置く。

「また来たよ」

 僕は目の前にある桜の木を一望した。その桜は珍しく、桃色というより紅であった。何度も交わした約束を思い出す。毎年この桜を見にこよう。あの約束からもう五年……。別れ際の彼女の言葉が今も頭の中を巡る。

『この投稿で思い出したんですけど、最近SNSで真っ赤な桜が、日本のどこかにあるらしいんですよ。桜なのに本当に真っ赤なんですって、突然変異なのかな? どこにあるかはまだわからないみたいですけど、もしこれが本当なら、土の中に何か問題があるみたいなので掘り返すそうです』

 僕は一服を終え、持ってきたシャベルを持ち、桜の木の下を掘る。

『この話を聞くと、梶井基次郎の「桜の樹の下には」っていう小説を訪仏させますね。埋まっているのは死体』

――ガッ
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