短いお話

クイン

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『あとがき少年』

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 午前六時五十分、鈍行、進行方向前から三両目。発車ベルが鳴ったと同時に、車両に乗る。入ったと同時にドアが閉まった。ごとりと車両が揺れ、つり革が一斉に横に動き、そしてもとの位置に戻った。誰もいない車両の長椅子に座った僕は、移りゆく景色に、ただ……想いを馳せていた。

 

  *

 

 田舎町の唯一の図書館に漫画を借りに来た。僕は肩を落としたのと同時に腹を立てていた。どうしてかというと、僕が読みたかった続きの巻が誰かに借りられていたからだ。

 図書館司書のお姉さんにいつ借りたのかを尋ねると、僕がお姉さんに質問した十分前に借りていたと教えてもらえた。

 借りられる期間は長くて二週間ほど、その期間をただもんもんと待たなくてはならない。お小遣いもろくに貰えない僕は、その漫画を買うこともできないため、こうして図書館に通って漫画を借りることが唯一の楽しみであった。字だけの本にあまり興味が沸かず、すごすごと帰ろうと図書館を出た瞬間、人とぶつかってしまい相手がもっていたバックの、中身が飛び立してしまった。

「すいません」

 僕はあわてて、拾おうとしてそれが目に飛び込んだ。僕の欲していた漫画の続きの巻であったのだ。拾い上げ、まじまじとそれを見ていると

「君はこの漫画が好きなのかい?」

 と話しかけられた。僕は、視線を相手に向けてぎょっとした僕とぶつかった人物は、道化師の面をつけていたからだ。

「なんで」

「どうして、この漫画が好きだとわかったかだって? それは君がその漫画を見つめて今も離さないからね」

 笑っているように見えた、実際お面を付けているからわからないが……。しかも僕が驚いたのはそこではなく、あなたのその道化師の面だ。僕は冷静になってこんな人と関わらないでおこうと決めた。拾った物を渡し、頭を下げ道化師の男を横切ろうとした時、肩を掴まれた。

「ねぇーアルバイトしてみないかい?」

 その言葉で僕の頭は混乱した。

「えっと、」戸惑う僕に気を使ってか道化師は大げさな動作で、

「大丈夫だよ。恐がるような内容でもない。ある人物に手紙を書いて渡して欲しいんだ」

 優しい口調で道化師は話し始めた。アルバイトの内容は誰かも知らない相手に手紙を書いて渡すと言う物であった。手紙の内容というのは自分の夢を書けばいいと言ってくれた。

「郵便屋さんに頼めないんですか?」

と質問すると、

「配達員の人が、駅にくるお客に直接渡すことなんてできないよ」

 そんなことはわかっている、だけどわざわざ駅で渡すことはないのではないか?

「その人誰にも何も告げず、黙ってどこかに行こうとしちゃう人なんだ。だから家に届いた時には、もうその人は遠い所にいってしまっているかもしれないんだ」

 そうなんだ……変な違和感があるものの、僕は、それなら仕方ないと納得した。

 

 朝言われた通りの電車に乗って、目的地を目指す。列車は駅で止まり、発進を繰り返した。車内はどうしてか人がいなかった。普段から電車に乗る人なら気味が悪く感じるかもしれないが、僕は滅多に電車を利用しない。なので、移りゆく車窓の景色に魅せられていた。

 景色は木々が生い茂った所から、住宅街へと移り、普段見ている景色とは別世界で、まるでタイムマシーンにでも乗っているかのようであった。気がつけば、車両の中は人ですし詰めとなっていた。何故か僕は、急に怖くなり、心細さを感じた。心の底から家に帰りたいという衝動が込み上げてきた。

『次は~〇〇駅~』

 はっとした。アナウンスで流れた駅名は、あの道化師の男が告げた駅名であったからだ。しかし降りたくても降りられない状況であった。

 人人人人人人人人人人……

人が永遠に続いているようで、その顔は皆、暗い影を落とし、無表情であった。電車はゆっくりと速度を落としつつある。僕は手の汗を服で拭い、お腹に力を入れ、勇気を出して

「降ります!」

と声を上げた。泣きそうな顔の僕。何人かはそれに気づき、人としての表情を取り戻し、道を開けてくれた。ほんの少しの隙間を縫うようにして僕は外へと飛び出した。

 降りると男性が一人立っていた。僕は持っていた手紙を渡した。男性は受け取り、僕は逃げるように反対の乗り場に走ったのだった……。

 

  *

 

上京して、十年が経ち、夢半ば、私は友人だと思っていた者たちに裏切られ、もう何もかもがどうでもよくなっていた。そんな精神状態で、まともなことを考えることができない。今止まっている列車が発進して次の列車が来たら飛び込もうと決めた。そんな時であった。

 電車から降りてきた田舎臭い変わった服装のガキが、俺に手紙を渡してきたのだ。反射的に受け取ったものの、見ず知らずのガキから手紙等もらういわれは無い。もう一度ガキの方を見ると、ガキは反対のホームにいて、すぐに電車がきてそのまま姿が見えなくなった。

 俺は手紙を開け、読む。そこには

ーー漫画家になって、図書館に自分の漫画を置く。

 と書いてあり、俺は目頭が熱くなった。自分がなぜ上京したのか、忘れていた……。踵を返し、そのまま原稿用紙とGペンを買って帰ろうと決めたのだった。

 

  *

 

道化師の男にアルバイト代と待望の続きの巻を渡された。

「ねえ、この作者って自殺しようとしてたんでしょ? そこで駅で知らない子どもに手紙を渡されたことで、漫画家をもう一度目指したんでしょ? あとがきに書いてた。今日の僕のやったことと似てるね」

「そうさ! この漫画家の命を救ったのはまさしく君なのさ!」

と道化師に指をさされた。僕はため息をついた。

「あのさ、これってけっこう昔の漫画でしょ? この人を救ったのは、僕な訳ないじゃん。子どもだからってバカにしないでよ」

 僕は、頬を膨らませる。道化師はそんな僕を嘲笑うかのような表情で、

「どんな時でもファンからの声援が一番勇気づけられるのさ」

 と道化師は語り、春風が桜の花びらを舞わせ、幻想的な彩りが僕の目を奪った。気づけば道化師の男はいなくなっていた。
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