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『チョコは甘く、現実は世知辛く』
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――待って!
先に行く彼の背中に向けて、心の中で叫んだ。それに気づいてくれたのか、彼はこちらを振り返り、優しく微笑んでくれた。
畦道には誰もいなかった。世界に私と彼以外は存在しないと思えた。後ろ手に持っている箱が小刻みに震える。私は彼にチョコレートを作ってきたのだ。
料理やお菓子作りなんてしたことがない私は悪戦苦闘の末、やっとの思いでチョコレートを完成させた。
この努力を報わせたかった。
遠くから季節外れの風鈴の音が聞こえてくる。
駄々っ子のような私の頭を彼は優しく撫でてた。
――ああ、神様、もう少しこのままでいさせてください。
彼は私の作ったチョコレートを箱から取り出し、一つ食べた。
違う……。
世界が歪み、渦巻いていく……。
りりん、りりんりん、りんりん。
「はーい! お客様! 終了のお時間ですよ! 初恋体験ゲーム『マジトロ』はいかがでしたしょうか? あの恋をもう一度をコンセプトにあなたの思い出の場所をインプットし、フルダイブ体験で憧れのあの人との甘いひと時、いかがでしたか?」
耳に当てているスピーカーからそう流れてきた。
私は機械のアイマスクを取った。さっきまで居た、田舎くさい道の景色が一転して、真っ白な部屋の中とベットが置かれているだけであった。
「お母さーん! どうだった?」
娘が部屋に入ってきて、私のところまで近づき、感想を聞いてきた。
「そうね。懐かしかったし、ドキドキもしたわ。でも……」
「でもどうしたの?」
「完璧な再現じゃなかったわ」
「え、うそ! ここのVRシステムはお母さんの脳にリンクして、過去の景色や人を完璧にビジュアル化するって」
娘がびっくりした様子であった。
「うん。外の風景、彼の見た目、あの当時そのままでびっくりしたわ。でも彼、手作りの物が食べれないから私から受け取ったチョコレート、そのまま道端に捨てたのよ」
「ひどすぎない!」
娘の顔が引きつっていた。
「そうなの。酷かったの。それでもあの人を好きだった私は、完璧に恋の盲目に陥ってたのね。決めたわ。私、お父さんと離婚する」
娘は肩を落とした。
「お母さんがそう決めたのなら仕方ないか」
「ごめんね。実は私、チョコレートは好きじゃないのよ。好きでもないのに無理なんてしちゃだめね。恋は砂糖、甘さを抜いたらただ苦いだけ」
その後、このゲームをプレイすると、離婚や男女間のトラブルが増えるという噂が立ち、販売元が販売を中止した。
先に行く彼の背中に向けて、心の中で叫んだ。それに気づいてくれたのか、彼はこちらを振り返り、優しく微笑んでくれた。
畦道には誰もいなかった。世界に私と彼以外は存在しないと思えた。後ろ手に持っている箱が小刻みに震える。私は彼にチョコレートを作ってきたのだ。
料理やお菓子作りなんてしたことがない私は悪戦苦闘の末、やっとの思いでチョコレートを完成させた。
この努力を報わせたかった。
遠くから季節外れの風鈴の音が聞こえてくる。
駄々っ子のような私の頭を彼は優しく撫でてた。
――ああ、神様、もう少しこのままでいさせてください。
彼は私の作ったチョコレートを箱から取り出し、一つ食べた。
違う……。
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「はーい! お客様! 終了のお時間ですよ! 初恋体験ゲーム『マジトロ』はいかがでしたしょうか? あの恋をもう一度をコンセプトにあなたの思い出の場所をインプットし、フルダイブ体験で憧れのあの人との甘いひと時、いかがでしたか?」
耳に当てているスピーカーからそう流れてきた。
私は機械のアイマスクを取った。さっきまで居た、田舎くさい道の景色が一転して、真っ白な部屋の中とベットが置かれているだけであった。
「お母さーん! どうだった?」
娘が部屋に入ってきて、私のところまで近づき、感想を聞いてきた。
「そうね。懐かしかったし、ドキドキもしたわ。でも……」
「でもどうしたの?」
「完璧な再現じゃなかったわ」
「え、うそ! ここのVRシステムはお母さんの脳にリンクして、過去の景色や人を完璧にビジュアル化するって」
娘がびっくりした様子であった。
「うん。外の風景、彼の見た目、あの当時そのままでびっくりしたわ。でも彼、手作りの物が食べれないから私から受け取ったチョコレート、そのまま道端に捨てたのよ」
「ひどすぎない!」
娘の顔が引きつっていた。
「そうなの。酷かったの。それでもあの人を好きだった私は、完璧に恋の盲目に陥ってたのね。決めたわ。私、お父さんと離婚する」
娘は肩を落とした。
「お母さんがそう決めたのなら仕方ないか」
「ごめんね。実は私、チョコレートは好きじゃないのよ。好きでもないのに無理なんてしちゃだめね。恋は砂糖、甘さを抜いたらただ苦いだけ」
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