⚪︎×探偵事務所

らいむこーら

文字の大きさ
上 下
2 / 13
1 浮気じゃない浮気調査

もしかしてただの浮気調査?

しおりを挟む
「はーい。」と僕は声を出し、ドアを開けた。
その先には、20代後半から30代前半ぐらいの女性が立っていた。

「ここが探偵事務所って聞いたんですけど…」

言っちゃ悪いが、幸薄そうだ。というより真面目っぽい。
薄縁の丸眼鏡に、まぶたあたりで切りそろえられた前髪、腰ぐらいまで伸ばされた髪は三つ編みにされている。
服は、ひらひらとしたトップスにロングスカート。よく考えれば、真面目でもないかもしれない。落ち着いている、という感じだ。ああ、いけない、見すぎた。

「どうぞ、お入りください。」と営業スマイルを浮かべた。

その間の探偵2人はというと、慌ててテレビを消し、髪の毛を整え、ソファーの乱れを直し、お菓子のゴミを隠していた。忙しい人たちだな。てかゴミは隠すんじゃなくて捨ててくれないか?あとで言っておこう。

「お座りください。」と仕事用の向かい合って並んだソファーに案内した。やっと2人の準備も終わったようで、ソファーに向かってきた。
僕はキッチンに向かいお茶を注ぎ始めた。3人が話し始めた。

「えっと…探偵事務所って聞いたので…依頼に来たのですが…。」
「ええ、ここは探偵事務所で間違いないですよ。」
「それではお名前と依頼内容をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

探偵事務所と言われて嬉しかったのか、相馬さんはドヤ顔だ。なので暁さんがいい対応をしてくれている。
僕は3人にお茶を並べ、近くの椅子に座って、依頼者の言葉をメモする準備をした。

「松田杏子です。浮気…なんです。」

「え?」と探偵2人が声を揃えた。

「私…2つ年下の彼氏がいるんですけど…最近様子がおかしくて…浮気かもしれないって…。これ…写真です…。」

彼女が渡してきた写真には、どこで彼女と知り合ったのか、というぐらいに違うジャンルの男性がいた。
どう見てもチャラい。金髪に赤いピアス、ワックスで跳ねさせた髪に、肘より少し長いくらいのTシャツ、ズボンに付けられたチェーン。え、チャラ。見れば見るほどチャラい。え、めっちゃチャラいじゃん。なんで彼女と接点が。

「彼…私を助けてくれたんです…。上司のパワハラに耐えかねて、バーで1人で呑んでいた時…声をかけてくれたんです…!本当に神様かと思いました…。上司が怖くて、同期も部下も助けてくれなくて、精神的に疲れていた私の相談に乗ってくれたんです…!彼もバーの客でした。彼は私を楽しませてくれるばかりか、それからも何度か相談に乗ってくれました…。上司の机にはパワハラについて書かれた本を匿名で置いておきました。彼のアドバイスだったんです…。それから上司が、誰が置いたのかと問いましたが、答えませんでした。誰のものでもないなら引き取ると言って、持って帰ったようですが、翌日から上司の態度が一変したんです…!書類を提出すると、私の顔を伺うように見ていました…。彼のおかげ…彼のおかげなんです…!」

ものすごい熱弁だ。大好きなのだろう。少し彼女も、一区切りついたのか、お茶を飲んでいた。

「コホッ。…その後も彼とは食事をしていたんです。すると…一緒に住まないかと言われました…。私は彼に惹かれていたので、すぐにでも、と言いました。彼は、私との時間を増やすために飲食店のバイトを辞めて…私が帰宅したらご飯を作ってくれていて…休みの日には遊びに行ってくれたんです…。楽しい毎日でした…。でも最近、帰宅しても家にいないんです。彼はバイトを辞めてしまったので、昼食代や夕食代、買い物でお金を使うだろうと思い、私の銀行口座を教えました…。だから…お金がないというわけではないはずなのでどこかで食事はしているのでしょうが…。そしてこの間通帳を見た時に、大金が引き落とされていました…。どうしたのかと思っていた矢先、外回りだったので、取引先から帰っていたら、彼が知らない女といるのを見たんです…。きっとその女にブランドのバッグでも買ったのだと思い、確信を持って依頼に来たんです…。」

うわあ、残酷だあ、などと思いながら、彼女の言葉をメモした。てか確信あるのに依頼て…。

「分かりました。それでは恋人のお名前をお聞かせください。」と暁さん。

「はい。彼は、神崎恭弥くんです。」

ちなみに無言の相馬さんはというと、彼女の熱弁の情報量が多すぎて、頭が追いついていないようだ。間抜けな顔をしている。まあとりあえず、浮気調査ってことでぱぱっとやっちゃいますか。
しおりを挟む

処理中です...