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Part1
* Е. б 初めてのお買いもの *
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「さあ、今年、“初めてのお買いもの”ができる子供達は、どなたかしら?」
ぼくです!
あたしも!
何人かの子供達が、元気に手を上げて、セシルの注意を引こうと必死だ。
セシルは、ふふ、と笑いながら、
「では、“初めてのお買いもの”ができる子供達は、前に出て来て、一列に並んでください」
はーいっ、と元気な返事が返って来て、小さな子供達が前に駆け出してきた。
「ああ、リロはダメなのに」
「リロは、まだ5さいじゃないのに」
一番端っこにいた男の子には、一緒に手を繋いでいる小さな子供がいる。
子供達が指を差したり、文句をこぼしていた。
それで、手を繋いでいる小さな子供が泣き出してしまう。
「にーちゃ……」
「ああ……、リロ、泣いちゃダメだよ……」
「あらあら。これから楽しいことがあるのに、泣いていたら、楽しいことが逃げてしまいますよ」
セシルは全く動揺した様子もなく、泣いている小さな子供の前で、しゃがみ込んだ。
「リロ君は、お兄ちゃんと一緒がいいんだものね」
「うん……」
「じゃあ、お兄ちゃんのお買い物をするところを、一緒に見ましょう」
「いい、の……」
「もちろんですよ。ただ、泣いている子供には、楽しいことが遠ざかってしまいますねえ」
「も……、なかない……」
「そうですね」
よしよしと、セシルが小さな子供の頭を撫でて上げて、ゆっくりと立ち上がった。
「皆も、年が違っていようとも、一緒に行動することは、なんの問題でもないのですよ。そういう場合は、「付き添い」 と言うのです。買い物をする子供と、付き添いをする子供。お兄ちゃんや、お姉ちゃん達の場合は、付き添いの子供、となりますね。ですから、何の問題もありませんよ。解りましたか?」
「わかり、ました」
「わかりました」
それで、子供達はちゃんと納得したようだった。
「さあ、今から、ボーデンさんに、皆のお金を渡してもらいましょう」
それを聞いた子供達が、シャキッと背筋を伸ばし、その顔が緊張と、期待感で興奮している。
「名前を呼ばれたら、前に出てきてくださいね。大事なお金を受け取ったら、次に、私からの贈り物を差し上げます」
「「はいーっ!」」
セシルの隣で、きちんとした燕尾服に身を包んでいる年配の男性が、前に出て来た。
そして、その男性の隣にいる年配の女性が抱えている箱から、何かの包みを取り出した。
「では、アンナちゃん」
「はいっ!」
小さな女の子が前に出て来て、年配の男性から、小さな包みのようなものを受け取った。
そして、それと一緒に紙切れも。
「――あれは、何ですか?」
その光景を遠くから見守っているギルバートが、つい、質問していた。
「あれは、子供達が貯めたお金です。今日の豊穣祭で、今まで貯めたお金を使い、“初めてのお買いもの”ができるんです。お金を渡している男性は、銀行の頭取です」
「銀行――は、確か、視察で見学しました。国庫、この場合は、領地の資金を管理する場所だと、説明されましたが」
「そうです。銀行は、領地の資金だけではなく、個人資産も管理する、領地の財務・金融の施設となっております。この領地での銀行の頭取とは、銀行を運営するに当たり、業務執行の取り締まり代表役、という立場にあたります」
なるほどと、ギルバートもまた真剣にシリルの説明を聞いている。
「子供達が今まで貯めて来たお金は、全て、銀行で管理されています。今日の為に、そのお金を下ろしましたから、紙切れの方は、その預金明細書なのです」
「預金、明細書?」
「はい、今まで預金していた金額がいくらで、今回、お金を下ろした金額がいくらで、そして、その差額が提示されている証明書です」
「ああ、なるほど。それなら、自分自身でいくらお金が動いたのか、確認できますね」
「そうです」
その考えは、金銭管理に、とても便利だと、ギルバートも思う。
他人が自分のお金を管理しているだけに、そう言った記録がなければ、お金を盗まれたり、横取りされても、証拠がなくなってしまう。
「子供にも、そのような証明書が必要なのですか?」
「もちろんです。どんなに小さな子供であろうとも、いずれ成長し、大人になっていきます。その時に、自己管理もできず、金銭管理もできずに社会に出てしまっては、問題になってしまうでしょう。今から、大人達がしていることを経験し、知識を身に着け、一人ででも生きて行けるように練習していくことが、とても大切なのです」
「それも、ご令嬢の政策ですか?」
「そうです。ですから、子供達は、この日の為に、ちゃんと、預金明細書の読み方を教わっています。数字は、もう、読める子供がほとんどですから、明細書の確認も、それほど問題ではありません」
「そうですか」
初歩の読み書き、計算は、ほぼ、領民の全員ができると聞いていた。
その政策だけでも驚きだったのに、そういった政策がきちんと行使されているだけに、日々の生活でも、子供達はきちんとした行政や、金融の仕組みを、難なく学ぶことができている。
「すごい、ですね」
この領地では、そういった政策が、なにもかも、一貫しているように見えるのだ。
「姉上がおっしゃるには、子供には、何度も同じ躾が必要らしいのです。何度も、同じことを繰り返し、同じことを説明し、そうやって、自然と身についていくまで、何度も繰り返すことが、重要なそうなのです」
へえ、とギルバート達は素直に感心している。
ここに揃っている騎士達は、全員、独身で、子供の世話などした経験はない。子供の躾だって、したことはない。
大人の概念で、決まり事を教えるくらいはできるが、社会に出て生活できるように――なんて、セシルみたいに躾ができるか、と問われれば、それはかなり疑わしくなってくる。
「この世界では、生き抜くことは容易いことではありません。ですから、生き抜く為には、色々な知識を身に着け、経験を積んで行かなければならないのです。この領地では、幼い時から、そう言った教育が徹底しています。子供達も、一人で世間に出て行けるように、姉上が、そう教えてくれていますから」
たった一人で、たくさんの子供達に生き抜く術を教えるなど、到底、簡単にできることではない。
セシルの場合、領地の子供達だけではなく、領民全員に、自らの知識や経験を授けているほどだ。
それは、全て――生き抜いていける為に、と言うセシルの政策からなのだろう。
それでも、たった一人でこなすには、あまりに大事業で、あまりに責任が大きい立場ではないのだろうか。
セシルの肩一つに、たくさんの領民の生活がかかっているだけではなく、その領民達の将来までも、セシルは責任を持って、面倒みなければならないのだから。
それから、十人程の子供達が、全員、お金を受け取ると、その場に揃っている、もっとたくさんの子供達も連れて、皆で大通りに戻って行く。
「では、豊穣祭で移動する時の決まりごとは、なんですか?」
「「「おにいちゃんと、おねえちゃんと、ぜーったい、てをはなさないこと、ですっ!」」」
「そうですね。楽しいものがあるからと言って、一人で、走りだしてはいけませんよ」
「はいっ!!」
「お金を使う時は、どうしますか?」
「ちゃんと、おさいふをてにもったまま、はなさいんですっ」
「そうです。では、お金を使い終わったら?」
「ちゃんと、おさいふにしまって、バッグにいれるんですっ」
「その通りです。皆、よくできましたね」
うわぁいっ――と、はしゃいでいる子供達は元気一杯だ。
「では、付き添いのお兄ちゃんやお姉ちゃんは、しっかり面倒みてくださいね」
「はあいっ」
それで、大きな子供達からも行儀のよい返事が上がる。
「他の皆は、“初めてのお買いもの”が終えたら、露店回りをしていいですよ。ただし! ――なにをするんですか?」
「グループで行動すること」
「じゅんじゅんに」
「必ず、人数をかくにんして」
「その通りです。さあ、皆で、豊穣祭を楽しんできましょう?」
「「「はいっ」」」
子供達が、全員、嬉々として歩き出す。
小さな子供達が、大きな子供達と手を繋ぎ、揚々と露店に向かいだす。
ぼくです!
あたしも!
何人かの子供達が、元気に手を上げて、セシルの注意を引こうと必死だ。
セシルは、ふふ、と笑いながら、
「では、“初めてのお買いもの”ができる子供達は、前に出て来て、一列に並んでください」
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「にーちゃ……」
「ああ……、リロ、泣いちゃダメだよ……」
「あらあら。これから楽しいことがあるのに、泣いていたら、楽しいことが逃げてしまいますよ」
セシルは全く動揺した様子もなく、泣いている小さな子供の前で、しゃがみ込んだ。
「リロ君は、お兄ちゃんと一緒がいいんだものね」
「うん……」
「じゃあ、お兄ちゃんのお買い物をするところを、一緒に見ましょう」
「いい、の……」
「もちろんですよ。ただ、泣いている子供には、楽しいことが遠ざかってしまいますねえ」
「も……、なかない……」
「そうですね」
よしよしと、セシルが小さな子供の頭を撫でて上げて、ゆっくりと立ち上がった。
「皆も、年が違っていようとも、一緒に行動することは、なんの問題でもないのですよ。そういう場合は、「付き添い」 と言うのです。買い物をする子供と、付き添いをする子供。お兄ちゃんや、お姉ちゃん達の場合は、付き添いの子供、となりますね。ですから、何の問題もありませんよ。解りましたか?」
「わかり、ました」
「わかりました」
それで、子供達はちゃんと納得したようだった。
「さあ、今から、ボーデンさんに、皆のお金を渡してもらいましょう」
それを聞いた子供達が、シャキッと背筋を伸ばし、その顔が緊張と、期待感で興奮している。
「名前を呼ばれたら、前に出てきてくださいね。大事なお金を受け取ったら、次に、私からの贈り物を差し上げます」
「「はいーっ!」」
セシルの隣で、きちんとした燕尾服に身を包んでいる年配の男性が、前に出て来た。
そして、その男性の隣にいる年配の女性が抱えている箱から、何かの包みを取り出した。
「では、アンナちゃん」
「はいっ!」
小さな女の子が前に出て来て、年配の男性から、小さな包みのようなものを受け取った。
そして、それと一緒に紙切れも。
「――あれは、何ですか?」
その光景を遠くから見守っているギルバートが、つい、質問していた。
「あれは、子供達が貯めたお金です。今日の豊穣祭で、今まで貯めたお金を使い、“初めてのお買いもの”ができるんです。お金を渡している男性は、銀行の頭取です」
「銀行――は、確か、視察で見学しました。国庫、この場合は、領地の資金を管理する場所だと、説明されましたが」
「そうです。銀行は、領地の資金だけではなく、個人資産も管理する、領地の財務・金融の施設となっております。この領地での銀行の頭取とは、銀行を運営するに当たり、業務執行の取り締まり代表役、という立場にあたります」
なるほどと、ギルバートもまた真剣にシリルの説明を聞いている。
「子供達が今まで貯めて来たお金は、全て、銀行で管理されています。今日の為に、そのお金を下ろしましたから、紙切れの方は、その預金明細書なのです」
「預金、明細書?」
「はい、今まで預金していた金額がいくらで、今回、お金を下ろした金額がいくらで、そして、その差額が提示されている証明書です」
「ああ、なるほど。それなら、自分自身でいくらお金が動いたのか、確認できますね」
「そうです」
その考えは、金銭管理に、とても便利だと、ギルバートも思う。
他人が自分のお金を管理しているだけに、そう言った記録がなければ、お金を盗まれたり、横取りされても、証拠がなくなってしまう。
「子供にも、そのような証明書が必要なのですか?」
「もちろんです。どんなに小さな子供であろうとも、いずれ成長し、大人になっていきます。その時に、自己管理もできず、金銭管理もできずに社会に出てしまっては、問題になってしまうでしょう。今から、大人達がしていることを経験し、知識を身に着け、一人ででも生きて行けるように練習していくことが、とても大切なのです」
「それも、ご令嬢の政策ですか?」
「そうです。ですから、子供達は、この日の為に、ちゃんと、預金明細書の読み方を教わっています。数字は、もう、読める子供がほとんどですから、明細書の確認も、それほど問題ではありません」
「そうですか」
初歩の読み書き、計算は、ほぼ、領民の全員ができると聞いていた。
その政策だけでも驚きだったのに、そういった政策がきちんと行使されているだけに、日々の生活でも、子供達はきちんとした行政や、金融の仕組みを、難なく学ぶことができている。
「すごい、ですね」
この領地では、そういった政策が、なにもかも、一貫しているように見えるのだ。
「姉上がおっしゃるには、子供には、何度も同じ躾が必要らしいのです。何度も、同じことを繰り返し、同じことを説明し、そうやって、自然と身についていくまで、何度も繰り返すことが、重要なそうなのです」
へえ、とギルバート達は素直に感心している。
ここに揃っている騎士達は、全員、独身で、子供の世話などした経験はない。子供の躾だって、したことはない。
大人の概念で、決まり事を教えるくらいはできるが、社会に出て生活できるように――なんて、セシルみたいに躾ができるか、と問われれば、それはかなり疑わしくなってくる。
「この世界では、生き抜くことは容易いことではありません。ですから、生き抜く為には、色々な知識を身に着け、経験を積んで行かなければならないのです。この領地では、幼い時から、そう言った教育が徹底しています。子供達も、一人で世間に出て行けるように、姉上が、そう教えてくれていますから」
たった一人で、たくさんの子供達に生き抜く術を教えるなど、到底、簡単にできることではない。
セシルの場合、領地の子供達だけではなく、領民全員に、自らの知識や経験を授けているほどだ。
それは、全て――生き抜いていける為に、と言うセシルの政策からなのだろう。
それでも、たった一人でこなすには、あまりに大事業で、あまりに責任が大きい立場ではないのだろうか。
セシルの肩一つに、たくさんの領民の生活がかかっているだけではなく、その領民達の将来までも、セシルは責任を持って、面倒みなければならないのだから。
それから、十人程の子供達が、全員、お金を受け取ると、その場に揃っている、もっとたくさんの子供達も連れて、皆で大通りに戻って行く。
「では、豊穣祭で移動する時の決まりごとは、なんですか?」
「「「おにいちゃんと、おねえちゃんと、ぜーったい、てをはなさないこと、ですっ!」」」
「そうですね。楽しいものがあるからと言って、一人で、走りだしてはいけませんよ」
「はいっ!!」
「お金を使う時は、どうしますか?」
「ちゃんと、おさいふをてにもったまま、はなさいんですっ」
「そうです。では、お金を使い終わったら?」
「ちゃんと、おさいふにしまって、バッグにいれるんですっ」
「その通りです。皆、よくできましたね」
うわぁいっ――と、はしゃいでいる子供達は元気一杯だ。
「では、付き添いのお兄ちゃんやお姉ちゃんは、しっかり面倒みてくださいね」
「はあいっ」
それで、大きな子供達からも行儀のよい返事が上がる。
「他の皆は、“初めてのお買いもの”が終えたら、露店回りをしていいですよ。ただし! ――なにをするんですか?」
「グループで行動すること」
「じゅんじゅんに」
「必ず、人数をかくにんして」
「その通りです。さあ、皆で、豊穣祭を楽しんできましょう?」
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