奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

文字の大きさ
191 / 554
Part2

А.в 慰労会と称して - 04

しおりを挟む
 もしかして――今、セシルの名を省いてくれた?

 ノーウッド王国の伯爵令嬢でも、誰も、セシルの身元を良く知らない。以前も、名を呼ばれなかった。
 その点だけは――今でも、セシルの身元を、全部は明かさないでいてくれたらしい。

 名前一つ、と思うかもしれないが、セシルの名前が判らない以上、セシルは「伯爵令嬢」 と呼ばれるし、覚えられるだけだ。

 個人的にセシルの名前を憶えているような貴族は、どこにもいない。

 ギルバートにエスコートされ、セシルも、煌々こうこうと照らされた会場内に足を踏み入れた。

 ザワッと、扉側に注意が向けられていた会場全員から、一気にざわめきが上がっていた。

 それも、そのはず……。

 初っ端から、目立つエスコート役を伴って、他国の全く見知りもしない令嬢が、やって来たのだ。

 一瞬、全員が驚愕して息を詰めているか、口を半分空けているか、そんな落ち着かない気配が簡単に伝わって来た。

 壇上にいる国王陛下と王妃の場所までは、大きな会場を、端から端まで横切らなければならない。

 その長い道のりをゆっくりと進んで行くセシルは、すでに、ヤケクソ状態である……。

 もう、今夜は絶対に逃げ切れない――最悪の状態で、最高のエスコート役を伴い、最低の長い夜になるのは……間違いなかった。


(……この、会場から、生きて帰れるかしら…………)


 すでに、溜息ためいきをこぼすこともできやしない……。

 壇上近くまで進んで行き、セシルは、そっと、ギルバートから腕を外した。

 ドレスを摘み、ゆっくりと、深くお辞儀をしていく。

 恥にならないように。恥をかかないように。昔、どれだけの時間をかけて、マナーのレッスンに取り組んだことだろうか。

 あの元侯爵家のバカ息子に、いらぬケチをつけられないように、文句を付け入る隙を与えない為に、マナーとエチケットの練習だけは、徹底してやった。

 まさか、あの無駄な苦労が、今、報われることになろうとは……。今のセシルの姿を見た父なら、涙を流して喜んでいたことだろうに。

 目の前にやって来たセシルをずっと凝視していた国王陛下であるアルデーラは、さすがに――顔には出さなかったが、驚いていたのだ。

「――なんと……」

 それは、漏らしたとさえ言えないほどの囁きに近く、アルデーラの傍に控えている者にも、聞こえてはいなかった。

 ゆっくりと壇上に向かって歩いて来たセシルを見つめながら、アルデーラも、胸内で、うーんと、唸ってしまっていた。


(ドレス一つで、ここまで化けるとは――――)


 いや、ドレスだけではないだろう。
 そのかもし出す雰囲気も、外見も、容姿も――全く予想もしていなかっただけだ。

 そして、アルデーラもギルバート同様、一番初めに気づいたことがある。

 当然、それは、あのセシルの癖のない銀髪の髪の毛だ。


(かつらであったか――)


 最初に出会った時から、かつらまで使用し、変装して、アトレシア大王国にやって来ていたのだ。

 慎重な性格だろうから、自分の身元を隠していた事実には不思議はないが、それ以上の理由が――今、目のあたりになっていた。


(あれで――普通に出歩いていたら、絶対に目を引くことだろう)


 もう、疑いようもない事実だった。

 ギルバートが骨抜きにされて、個人的な私情が入って、かの令嬢のことを「とても美しい……」 と、感嘆していたばかりと考えていたのに、まさか、それが事実だったなど、アルデーラも予想していなかったのだ。

 容姿を見るだけなら完璧で、あれなら“絶世の美女”のたぐいにいれられても、全く不思議ではない。

 現に、夜会の大広間に集まった招待客も、騎士達全員も、ギルバートにエスコートされて会場に入ってきたかの令嬢に、目が釘付けである。

 壇上のすぐ手前で控えていた騎士団の団長達も、呆然としているようだった。

 まさか、あの勢いのある奇天烈なドレスを着ていた令嬢が――こんなに変貌して、一体、どこの誰なんだ……! ――と、激しく葛藤していたなど、団長達以外は、誰も知らないことだろう。

「遠方よりよく来られた。今宵は戦勝祝い、慰労会を兼ねた内輪の夜会だ。気張ることはない。楽しんでいってもらいたい」
「ありがとうございます」

 挨拶が終わり、セシルが顔を上げていく。

 そして、ゆっくりと身体を起こしていく動きに沿って、サラサラと、癖のない長い銀髪が肩を滑り、背中を流れ、煌々こうこうと照り輝くシャンデリアの光に反射して、まるで、セシル自身が光に包まれているかのように輝いていた。

 ギルバートのエスコートで、ギルバートの腕に手を乗せているセシルは、壇上側から静かに離れていく。

 その間だって、会場中からの攻撃的な視線が投げられ、突き刺さり、セシルの動かす動作一つだって見逃さないほどの、じーっと、絡まりついてくるような視線攻撃が止まない。

 壇上から離れていく間も、すでに、セシルはゲッソリである。

 まだ、会場入りして数分もしていない。
 今、新国王陛下に挨拶を済ませたばかり。

 まだまだ――(拷問のような) 長い夜は続いていくのだ。

「こちらをどうぞ」

 もう、すでにゲッソリと(精神的に) やつれているセシルは、ドリンクどころではない。

 だが、ギルバートから細長いグラスを手渡され、断るわけにもいかない。

「もし、お酒を好まれないようでしたら、今は、ただ、グラスを持っている真似だけしてください」
「なぜですか?」

「これから、国王陛下が、騎士達へ祝杯を上げますので」
「そうでしたの。わかりました」

 そうしているうちに、壇上にいる国王陛下が立ち上がり、一歩前に出た。

 威風堂々たる風格で、国王陛下が会場全体を見渡していく。

「今夜は、よく集まってくれた。昨年、起きた戦での騎士達の活躍と貢献により、我が国は、侵略者からの暴虐を食い止めた。その戦勝祝いとして、ここに祝杯を上げる。そして、日頃から、その身を我が国に尽くし、貢献してくれている騎士達への礼として、今宵はくつろいでもらいたい。これからも、そなた達の献身を期待している。そなた達の忠誠は、我が国に、王国の為に!」

 しっかりとした強い声が、会場の端まで伝わっていく。

「乾杯」
「「乾杯っ!」」

 グラスを持った全員が、国王陛下の祝杯と同時に、同じようにグラスを高く上げて呼応した。
 それぞれに、持っているグラスを口につけていく。

 ギルバートも自分のグラスを口元に持っていき、少しだけ、口をつけているようだった。

 その機会を待っていたかのように、すぐに軽やかな音楽が流れだす。

「グラスは、よろしいですか?」
「ええ、お願いいたします」

 ギルバートは目立つ動作もなく、洗練された動きのまま、セシルの手からグラスを抜き取り、自分のグラスと合わせ、サッと、後ろのテーブルに置いていく。

 そして、何事もなかったかのように、セシルの隣でセシルに向き直った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

転生令嬢はやんちゃする

ナギ
恋愛
【完結しました!】 猫を助けてぐしゃっといって。 そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。 木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。 でも私は私、まいぺぇす。 2017年5月18日 完結しました。 わぁいながい! お付き合いいただきありがとうございました! でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。 いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。 【感謝】 感想ありがとうございます! 楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。 完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。 与太話、中身なくて、楽しい。 最近息子ちゃんをいじってます。 息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。 が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。 ひとくぎりがつくまでは。

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子
恋愛
自分によく似た攻略対象がいるからと、親友に勧められて始めた乙女ゲームの世界に転移してしまった雫。 けれど実は、自分はそのゲームの世界の住人で攻略対象の妹「ロゼ」だったことを思い出した。 その世界でロゼは他の攻略対象、そしてヒロインと出会うが、そのヒロインは……。 ※小説家になろうにも投稿しています

処理中です...