奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

文字の大きさ
194 / 554
Part2

А.в 慰労会と称して - 07

しおりを挟む
 さすがに、食事中だったり、挨拶をしているギルバートの邪魔をするわけにはいかない。

 今はまだ、王子殿下という高位の立場にあるギルバートに、呼ばれもしないのに近寄ってくるわけにはいかない。

 礼儀知らずの令嬢、などと思われては、元も子もないからだ。

 幸い、今夜は騎士達の集まりである。

 副団長を務めているギルバートの立場なら、部下達だって、簡単に近づいてくることはできない。
 他の騎士団の団長や副団長以外なら。

 それなら、ギルバートの元に押し寄せてくるうるさい貴族の令嬢達も、セシルに近寄ってくるうるさい虫も、かなり牽制できることだろう。

 ああ……、これでこの一曲が終わってしまうなど、なんと寂しいことだろうか……。

 ギルバートの感傷を知らないセシルは、ギルバートと向き合って、ゆっくりとお辞儀する。

 そんな些細な動き一つに、仕草に、全てに、目が奪われていく。

 今夜は、もう……、ギルバートの心臓が持たないかもしれない。

「食事などいかがですか? お腹は、空いていらっしゃいませんか?」
「いえ、それほどでも……」

 なにしろ、ストレス過多の夜会で、ヘマもできなくて、気を緩める暇もないので、とてもではないが、お腹が空いて、食事ができるような精神状態ではないのだ。

「では、なにか軽食でもいかがですか?」
「はい」

 セシルをエスコートしながら、ずらりと並べられた料理のテーブルに向かう。

 たくさん並べられた豪華な料理の前で、何も食べないわけにもいかず、適当に、簡単に食べられそうな軽食を自分の皿に乗せ、ギルバートに促され、テーブルの奥の長椅子を勧められた。

 立食形式ではあっても、談話用の椅子や、座って食事ができるテーブルは、会場の隅の方に用意されている。

 フォークもナイフも出されているし、結局は、カトラリーを使っての食事をする貴族が多いのだ。

「ワインでも?」
「いえ、どうか、お気になさらずに」

 頷いたギルバートは、やって来た給仕係に、ブドウジュースを頼んでいた。

「お疲れではございませんか?」
「いいえ。昨日と今日は、ゆっくりと、休ませていただきましたので」

 ギルバートが自分の皿のサンドイッチを口に入れていくのを見て、セシルも、一口を口に入れていく。

「王国に戻ってから、トマトの味付けの料理を食べると、チーズを思い出してしまいました」

 コトレア領で食べた時の料理を、思い出しているのだろうか。

「まあ、そうですの?」
「ええ、チーズは、おいしかったです」

「ふふ。そうですわね」
「あのお店では、季節ごとに、メニューが変わるのですか?」

「普段は、それほどでもありませんの。秋は収穫の時期で、メニューが少し増えますわね」
「他の食事どころでも、そうですか?」

「そうですわね。普段からの味付けなどはあまり変わらず、その時で、野菜が増えたりしますわ」
「ご令嬢は、全部の食事処やレストランを、訪ねられたのですか?」

「もちろんです。観光用の“宣伝”には、自領のことを知っていなくては、できませんもの」
「そのお話から察すると、ご令嬢が、ご自分から“宣伝”なさっているのですか?」

「いいえ。“宣伝”できそうなアイディアなどを、たまに」
「なるほど」

 それでも、領地があれだけ繁栄を見せているのだから、“宣伝”は、きっと、セシルが率先しているものだろう。

 大抵の民など、そんな考えさえ思い浮かばないはずだ。

「実はですね、以前より不思議に思っていたことがございまして。なにか――質問して良いのか判らず、それで、今も、まだ不思議なままなのですが」

「なんでしょう?」

「あの領地では、領地の騎士達も――他にもよく見かけたのですが、なにか、こう、胸の前にぶら下がっていますよね? ご令嬢も、似たようなものをぶら下げていらっしゃいましたが、ご令嬢は背中にかけていらっしゃった」

「ショルダーバッグのことですの?」
「ショルダーバッグ、ですか? あの――こう、胸にかけていたやつでしょうか?」

「ええ、そうです。領地で流行はやっていますのよ」
「あれは、何なんでしょう?」

「バッグの一つですわ。人によっては、「ウェストバッグ」 と呼ぶ人もいますけれど、まあ、あの領地では、「ショルダーバッグ」 と呼んでおりますの」

「小さい、バッグを、身に着けるのですか?」

「ええ、そうです。小物などを入れて持ち運びが簡単ですので。例えば、騎士達なら携帯食のスナックなど、後は、食事ができるくらいの小銭や財布、メモ帳も入れると、便利でしょうね」
「メモ帳? それは?」

「これくらいの大きさで、紙を繋げたものですの。鉛筆をそのサイズに合わせて一緒に入れていますので、なにか、覚えておきたいことなど、メモを取る時に便利ですのよ」

 へえ、とギルバートがすぐに興味を引かれていく。

 セシルの領地にはいつも知らない知識が詰まっていって、見慣れないものが盛りだくさんで、話を聞く度に、興味が引かれていってしまうのだ。

「メモ帳は、雑貨屋の“なんでも雑貨屋”で売っておりまして、ショルダーバッグは“便利なかばん屋”で売っておりますの。私は携帯食などに、ヒマワリの種や、ナッツ類を携帯しておりますわ。今年は、カボチャの収穫がたくさんありましたから、カボチャの種も」

「移動中には、そのようなお気遣い、ありがとうございました」
「騎士の皆様、きっと、困惑していらっしゃったでしょうね。なぜ、種を食べるのだろうか、と」

「ええ、そうですね。ですが、いただいたものですので、全員、きちんと食べていました」
「ふふ。本当に、皆様、律儀な方なのですね」

「そんなことはありませんよ。せっかく頂いたものですから。ヒマワリの種も、疲労回復などに?」

「うーん、それはどうでしょうか。たぶん、全体的な栄養なら、そうなるのかもしれませんが、ヒマワリの種は、栄養価が高い植物なのですよ。ドライフルーツやナッツ同様に」

「ドライフルーツ?」
「皆様は、食べませんの?」

「いえ、初めて聞きました」

「うちでは、ブドウを干してレーズンや、アプリコットを干したものなどが多いですわ。今は、アーモンドの生産も少しずつできましたので、ナッツ類なら、アーモンドなど。くるみは、あまりないのですけれど」

「そういったものは、携帯食になるのですか?」
「ええ、そうです。皆様、きっと、お仕事中であれば、ほとんど何も口になさらないことが多いのでは?」

「そうですね」

「領地の騎士も、そう言った傾向があったのですが、スナックの摂取は必要なのですよ」

 なにも、休憩してお菓子を食べろ、と言っているのではないのだ。

 体を動かす時は、体内に蓄積された栄養素を必要とするから、エネルギー源がなければ、体を動かす力だって作れないものだ。

「ですが、食べなくても動ける、と無理をするのは、実は、考えている以上に、体に負担をかけてしまっているのです。酷使しても、長続きはしませんもの。ですから、メインの食事と食事の間に、軽いスナックを摂ることは、理に適っています」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

転生令嬢はやんちゃする

ナギ
恋愛
【完結しました!】 猫を助けてぐしゃっといって。 そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。 木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。 でも私は私、まいぺぇす。 2017年5月18日 完結しました。 わぁいながい! お付き合いいただきありがとうございました! でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。 いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。 【感謝】 感想ありがとうございます! 楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。 完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。 与太話、中身なくて、楽しい。 最近息子ちゃんをいじってます。 息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。 が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。 ひとくぎりがつくまでは。

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子
恋愛
自分によく似た攻略対象がいるからと、親友に勧められて始めた乙女ゲームの世界に転移してしまった雫。 けれど実は、自分はそのゲームの世界の住人で攻略対象の妹「ロゼ」だったことを思い出した。 その世界でロゼは他の攻略対象、そしてヒロインと出会うが、そのヒロインは……。 ※小説家になろうにも投稿しています

処理中です...