奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

文字の大きさ
340 / 560
Part 2

Е.д これからは - 04

「そうやって世話をして、普通の生活ができるように、生きていくことをお教えなさっているのが、ご令嬢だということを知りました。最悪の時は……、腕を噛まれるほど暴れたそうです。長い年月をかけ、そうやって、「人」 として生きて行けるように、ご令嬢が子供達の世話をしている、という事実を知りました」

「なるほど」
「長い年月――最高でも四年はかかったそうですよ。ねえ、兄上? 一体、いつからで、いつから子供を救ってきたのでしょうね?」

「さあ。私には、知り得ようもないな」
「ですから、私は、もう、ご令嬢には、頭が上がらないのです」

「それは知っている。運命の女性など、早々、見つかるものではないだろう?」
「そうですね」

「特別クラスの視察を、許されたのか?」
「いえ、知ったのは偶然です。豊穣祭前に、ご令嬢自身が王都に戻り、のある孤児を引き取らなければならなかった為、いつにも増してご多忙であられた為、私達の前で、眠ってしまわれたからです」

「ほう? 随分、信用されるようになったじゃないか」

「いえ、違います。もう、あの場で、気力が切れてしまっていたのでしょう。体力は――たぶん、豊穣祭前から続いてはいなかったのでしょうが、まあ……、(例年のごとく)無理をなさっていらっしゃったのです。ほぼ徹夜状態が続いていたと、聞いていますので」

「なるほど。確か、ノーウッド王国の王都も、北側に位置していたような?」

「そうですね。馬車なら、五日ほどかかるそうです。それの往復で時間を費やし、孤児の世話で更に時間を取られ、通常のお仕事をなされていたのは、たぶん、夜中だったのでしょう」

「豊穣祭は、多忙なのだろう? それなのに、孤児の世話を?」

「もちろんです。ご令嬢以外、一番初めに、事情のある子供の世話をできる者はおりません。今回は、言葉を喋れない子供ですから、尚更に」
「なるほど」

「なぜ、そういったことを――想像を超えるほどの努力や忍耐があるのに――自慢なさらないのでしょうね。領民に約束したから。「人」 として生きていくこと、選べることを与える為に領主になったからと、普通は違うものではないのですか?」

 その問いは、兄のレイフに問いかけられているような感じでもなかった。
 ただ、自問しているまま、口から出てしまった。そんな感じだったのだ。

「領主になったのは――ご令嬢の場合は、事情が事情でしたが、貴族の爵位を授かっているから領地があるのであって、それで、領地を治めなければならないのが、貴族の義務でしょう?」

「普通はな」

「ええ、そうですね。ですが、ご令嬢は、義務ではないのに「領主」 として領地を治め、「領主」 になったから、領民全員に生き抜いて、生き延びることを教えていらっしゃる。それも無償で。自分の知識を最大限に生かし、その知識を与えることにも、一切の躊躇いもなく、ただ領民達に、「人」 としての生を与える為に「領主」 になる。なぜでしょう?」

「それを私に質問する方が、間違っている。私は、かのご令嬢ではない。お前の言葉を引用すれば、私は王族だ。王族であるから、その責任があり、立場があり、国を統治する。それだけだ」
「そうですよね。私もそうです」

 でも、セシルだけは――全部が全部、違っていた。

 自分の知識も経験も、それを誰にでも簡単に授け、それを全く苦とも思っていない。それが自分にできることだと、誰よりも理解している一番の人だったから。

 自分にできることも、能力も、誰よりも一番に理解していて、それを使うことに、一切の躊躇いもない。

 試行錯誤だから、なんて、何度もトライする根気だって、若さだけでできるような簡単な事業でもない。

 でも、セシルにとっては、そんな試行錯誤だって、苦になっていない。
 苦労することも、辛いことも、その全てが全て、「生」 を生きている証だと、セシル自身が言っていた。

 明日に生きていく為に。

 前進していける力が、とても眩しい、と思う。
 眩しくて、輝かしくて、とても暖かくて、手に入れたいと思う。

「せっかくの長い髪だったのに、お切りになってしまいました……」

 突拍子もない話題の転換だったが、ポロっと、ギルバートの口から洩れていた。

「髪を切った? なぜ?」
「邪魔だから、だそうです」

 そして、あまりにきっぱり言い切られて、「ええぇ、そうですかぁ……?」 と、反論する余地もないほどだった。

「昔は、あのようなサラサラの銀髪は、貴族の貴婦人の間で高く売れる為、売り払っていたようですが」

 それを聞いて、レイフの顔が微かに引きつっている。

「さすが、令嬢らしからぬ令嬢だなあ……」
「そうなんです。ですが、勿体ない……。あのようなきれいな髪だったのに……。あの領地では、いつでも、毎回、驚かされてばかりですが、このような驚き方は、あまり、嬉しくないかもしれません」

 そして、セシルのことを考えているだけに、またも、ポロっと、自分の感情がこぼれていたギルバートだった。

「ああぁ……、あのようなきれいな髪だったのに、勿体ない……」

 いえ、邪魔ですから。

 あの (魔の) 一言に尽きる。

 はあ……、そうですか――以外、一体、何が言えようか。
 残念なことである。

感想 1

あなたにおすすめの小説

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

思い込み、勘違いも、程々に。

恋愛
※一部タイトルを変えました。 伯爵令嬢フィオーレは、自分がいつか異母妹を虐げた末に片想い相手の公爵令息や父と義母に断罪され、家を追い出される『予知夢』を視る。 現実にならないように、最後の学生生活は彼と異母妹がどれだけお似合いか、理想の恋人同士だと周囲に見られるように行動すると決意。 自身は卒業後、隣国の教会で神官になり、2度と母国に戻らない準備を進めていた。 ――これで皆が幸福になると思い込み、良かれと思って計画し、行動した結果がまさかの事態を引き起こす……

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん
恋愛
 魔法大国と呼ばれるレーベン王国。  家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。  ……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。  自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。  ……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。   『小説家になろう』様にも投稿しています。 『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』 でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。

わたしさえいなければ、完璧な王太子だそうです。

ふらり
恋愛
人並外れた美貌・頭脳・スタイル・武勇を持つウィンダリア王国の25歳の王太子は、完璧な王太子だと言われていた。ただし、「婚約者さえいなければ完璧な王太子なのに」と皆が言う。12歳の婚約者、ヴァイオレット・オルトニーは周囲から憐みの目を向けられていた。 「私との婚約は、契約で仕方なくなのかい? もう私に飽きてしまっている? 私は今でも君にこんなに夢中なのに」 13歳年下の婚約者少女に執着溺愛する美貌も能力も人間離れした王太子様と、振り回される周囲のお話です。小説家になろうにて完結しております。少しずつこちらにもあげていくつもりです。ファンタジー要素はちょっぴりです。