やっぱりやらねば(続)

Anastasia

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アイラと廉

その8-03

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* * *


「あら……、随分、立派な所に住んでいるのねぇ」
「ほう……、随分、いい家具が揃っている……」

 アイラの父親は建築技術者の管理顧問ではあったが、それでも、造りの良い建物や、そういった素材の置き物を見て、一目で、その価値を見極めてしまうのである。

 アイラの母親は母親で、期待してやって来たのはいいが、車に乗っている間に、通り過ぎていく隣近所を見渡しても、この部屋に通されている今でも、随分、裕福な――上流階級が集まった場所に、廉とアイラが住んでいるので、驚きと一緒に、かなりの戸惑いも見せていたのだった。

「いい家具なんだろうけど、私は、ものだけあって好きじゃないわ。いずれ変えたいし」
「それは――勿体無いねえ」

 椅子に腰を下ろしながら、アイラの父親は、本当に勿体無さそうに、ふーむと、まだ、周囲の家具を見渡している。

「――ねえ、ここがレンの家だったの? レンの両親が――買った家で、家賃がいらないって――話していたでしょう……」

「そう。レンがこのアパートを買い取るって、話をしたらしいんだけど、今は好きに使っていいって、レンの両親も言ってるらしくて。タダのうちは、お金を無駄にしない方がいいって、レンの両親が心配してるみたいなの」

 さらっと、そんなことを説明するアイラに、へえぇ……と、これにはアイラの母親だけではなく、父親も揃って、感心しているのか、不思議な相槌を返していた。

 廉はアイラより一つ年下だというのは、二人とも覚えていることである。

 その話を聞いた時は、


「えっ、嘘でしょう?」


とかなり疑ったものだった。

 あの――淡々とした態度というか、妙に大人臭い風格というか、そんな廉を見ていると、アイラが一つ年上であろうと――年下には、全く、見えなかったのだ。

 今年で25歳になる娘の一つ年下で、誰が見ても、高級マンションの類に入る一角を両親から買い取る――というような話題まで出てくるとは、アイラの母親と父親は、全く予想していなかったのである。

「どうぞ」

 廉がそこに戻ってきて、アイラに要求されたジュースをお盆に乗せて、全員にそのジュースを配るように、手前のテーブルに並べ出していた。

「あら、ありがとう。レンは気が利くのね」

 外見からはそんな風には見えないが、廉は、かなり一般的な家事の役割をこなしているそうだと、アイラから話は聞いている。

 外食ばかりではないだろうかと、若い二人を心配していたアイラの母親に、


「だって、レンが作るモン」


 その一言の説明を聞いて、アイラの母親は、目を飛び出さんばかりに驚いていたのだ。

 自分の息子達には、早くからきちんと教育して、一人暮らしでも困らないように、ある程度の家事は教え込んできた。

 いつでも、どこでも、一人になって困らないように、息子達全員が、ある程度の料理はできるように、育て上げたのである。

 だから、息子達が料理するのは、さほど驚くことではない。
 ただ、予想もしていない廉が、食事の支度をすることを聞いて、さすがのグレナも、驚きを隠せなかったのである。

 この淡々とした態度のせいか、どうも、家事全般をこなしている廉の想像ができなくて、本当に、驚きもしたものである。

 アイラから話は聞いているが、どうも、まだまだ抜けている部分がかなりあり過ぎて、今回は、その全部を聞き終えるまでは絶対に帰らないわよ――とのグレナの意気込みが、更に強まっていたのだった。
 質問攻めをしていると思われようが、知りたいことは知りたいのである。

 母親として、知らなければならないことだって、あるのである。

 そんなアイラの母親の意気込みを知ってか知らずか、廉はジュースを並べ終えて、アイラの隣に、スッと、腰を下ろしていた。

「ねえ、Dad とMum は疲れてる? 今夜は、食べに行く? それとも、家で食べる?」
「私は、どっちでもいいのよ。パパ――も、どっちでもいいわよね」

「そうだね」
「じゃあさ、シーフードのおいしい店があるわよん。シーフードプレートがやめられないんだから」

「へえぇ。いいわね」
「いいわよん。だから、今夜はそこにしようよ」

 まだ夕食まで時間があったが、夕食の予定を決定して、ホクホクのアイラである。

「ねえ、Dad だって、後1週間くらい伸ばせば?」
「そうだね。――でも、仕事があるからね」
「残念ねぇ」

 アイラがクルっと横を向いて、
「Dad は、明後日に帰るのよ」

「そうか」
「でも、Mum は、1週間いるけど」

「そうか」

 廉は、アイラの母親が1週間もステイすることになっても、然程、驚いた様子もなく、嫌悪する様子もなく、相変わらず淡々としている。

 当初は、2~3日くらいかしら? ――との予定を立てて、その旨をアイラに話していたグレナだ。

 しかし、アメリカに来て以来、それでは短過ぎる――と悟ったグレナが、急遽、その予定を変更したのだった。

 だから、廉が、突然、今知らされることになって、悪かったかしら――と、心配しているグレナの前で、廉はいつもと全く変わらぬ態度で、淡々と、おまけにあっさりとしていた。

「ごめんなさいね、レン……。アイラと久しぶりに会うものだから、つい、懐かしくて」
「別に、俺は気にしてません。NZにいた時なら、ほとんど会う機会もなかったでしょうし」

「そうなのよ……」
「どうぞ、好きなだけステイして下さい」

「本当? ――そう言ってもらえて、私も助かるわぁ……。アイラに会うのだって――4年ぶりね」

 それを考えて、アイラの母親の顔が妙に真顔になり、ジロッと、アイラを睨め付けていた。

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