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第四章

理不尽な扱い

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 とにかく康夜を探そうと、未令は宮殿内の回廊を走った。
 後ろからは「待ちなさい!」と制止の声を上げながら五人の女性が追ってくる。
 回廊を歩いていた人々は何事かと見てくるが、それらの視線も、後ろから追ってくる血族の女性も振り切って回廊を走った。

 そうしてしばらく宮殿内をぐるぐる巡っていると、回廊を曲がった先に康夜の姿を見つけた。

「康夜!」

 声をかけると、康夜はぎょっとしたように未令を見、次いで険しい視線を投げかけた。

「ここをどこだと思っているの?」

 厳しい声で応対され、未令は勢い込んで走っていた足を止めた。
 康夜は赤い絹の上質な衣を纏い、同じ衣を着た隣の少女へ、「わたしの従妹の未令よ」と紹介する。

 「佐代子よ」と名乗ったその少女は、未令の着る木綿のお仕着せに目を留めた。

「術者ではないのね……」

 その言葉に最も反応したのは康夜だった。未令の着る木綿のお仕着せをまじまじと見つめ、なぜか満足そうに口端をつり上げた。

「力には目覚めなかったの? 未令」
「……うん。わたしには力はなかったみたいだよ」
「……そう、そうなんだ」

 ゆっくりと噛んで含むように頷き、「あのね、康夜―――」と話しかけた未令の言葉をぴしゃりと遮った。

「―――誰に向かって口をきいているの? まずは跪きなさい」
「えっ……?」

 伸ばした手も弾かれ驚いて康夜を見れば、康夜は胸を反らせてこちらを睨んでいる。
 突然の仕打ちに訳が分からず、呆然と立ち尽くしていると、後ろから血族の女性たちが追いついてきて後ろから羽交い絞めにされた。

「やっと捕まえた。いい加減になさい」
「放して! わたしは康夜に話が―――」
 
 そう言ったとたん、羽交い絞めにされたまま強い力で押さえつけられ、跪かされた。
 膝をついて康夜を見上げると、その頭も床に押さえつけられる。

「申し訳ございません、康夜さま、佐代子さま。まだこの者は教育が終わっておらずご無礼なことを。よく言い聞かせますのでお許し下さい」

 未令を押さえつけた血族の女性が謝り、未令も謝罪するようにと強要してくる。

 力のない血族の地位は低いとはこういうことなのか……。

 話に聞いた時には思い至らなかったが、地位が低いということはこの国ではこういう扱いを受けるということだ。
 別に悪いことはなにもしていない。
 ただ康夜と呼びかけ、話をしようとしただけだ。
 この理不尽にどう返せばいいのかと、頭を押さえつけられながら動けないでいると、頭上から別の声が割って入った。


 
 
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