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キーンコーンカーンコーン。
最後の授業の鐘が鳴り生徒達が教材を片付け始める。教師もまた黒板に書いた授業内容を消してクラスを出る準備をしている。俺、神原遊人もまた教材を片付けを始めた。といってもノートの類はほとんど取っていない。手元には携帯用のゲーム機器が起動したままの状態で置かれている。授業中は教材で隠してずっとゲームをしていた。廊下では授業が終わって教室から出てきた他クラスの生徒たちの話し声でにぎわい始めていた。教師が片づけを終えたと同時に俺は立てていた教材を携帯ゲームの上に被せて見えないようにする。そのまま廊下へ出て見えなくなったのを確認すると俺は再び携帯ゲームを手に取って続きを始めた。俺にとってゲームは命だ。そのため教師への警戒は切らしてはいけない。ゲームの一時停止を解こうとした瞬間に俺の背後からのびてきた手にゲーム機を持って行かれた。教師が出ていくのはしっかりと確認した。まさか何か忘れ物を取りに戻ってきたのか。どのみち今の俺は後ろの人物に命を握られてるも同然だどうしようもないと察して体をそらすようにして後ろを見る。そこには如何にも不機嫌ですといった顔をした女子がいた。
「遊ちゃん!授業中にゲームしちゃダメだってあれだけ言ったでしょ!」
肩ほどまで伸びたポニーテールを揺らして怒っている女子。こいつは本宮小夜。俺の家の隣に住んでいる幼馴染だ。俺の命を握っているのが教師でないことにホッとする。
「別にいいじゃないか。お前だって好きだろ、ゲーム。勉強なんてテストの直前に一夜漬けすれば何とかなるもんだ。だから早くそれを返してくれ。」
そういうと小夜は余計に怒りをあらわにした。
「それで点数が取れてないからダメなんでしょ! この前のテストの点数はどれだけだったか言ってみなさい!」
そう言われて一番記憶に新しいテスト期間をどう過ごしていたのかを思い出してみる。確かテスト一週間前になって家に帰ってそれから……。駄目だ、ゲームをしていたことしか覚えていない。
「すまん。覚えてない。」
「世界史と日本史以外全部赤点だったでしょ!ゲームも良いけどそれで勉強がおろそかになっちゃったら意味ないよ。」
そうだった。思い出した。ついでに世界史と日本史ができているのはゲームには歴史をモチーフにしたものが結構ありその知識で何とか乗り切った。だけど俺には関係ない話だ。
「分かった分かった。分かったから早く返してくれ。俺は今すぐに続きをやりたくてたまらないんだ。」
さっきから会話をしつつゲームを取り返そうと何度も手を伸ばしているのだがことごとく躱され続けている。
「はぁ。分かったよ、遊ちゃんは何を言ってもダメみたいだね……。」
ようやく諦めたみたいだ。それじゃあさっさと返してもらおうか。そう思ったが小夜は俺のゲーム機を持ったまま自分の席へと戻っていった。
「おい待て、何故ゲーム機を持っていく。何故俺のゲーム機をお前の鞄の中に入れるんだ。」
「言っても分からないなら体に覚えさせるまでです。これから遊ちゃんの家で二人で勉強会をするよ!それが終わるまでこれは私が預からせてもらうからね。ほらっ、行くよ!」
そう言うと小夜は鞄を持って出口へと向かって行った。
「ちょっと待て小夜。もう少しここに居たほうがいいぞ。っと、言うのが遅かったか。」
教室を出ようとしていた小夜が人とぶつかるのが見えた。うちのクラスの担任だ。
「どうした本宮、終礼も終わって無いのにもう鞄を持つなんて気が早いぞ。さっさと席に戻れ。」
「は、はい……」
担任に言われて小夜はこちらを恨めしそうに睨みながら席へと戻っていった。自業自得だ。ざまあみろだ。俺のゲームを持っていくからこうなる。
「みんな今日も一日お疲れさん!明日の予定は……」
いつも通りの終礼の挨拶が始まる。いつもなら隠れてゲームをするのだが生憎今は手元にない。仕方がないので教師の話を聞いてみようか。
「清掃委員の担当者は明日の朝は早めに登校して働いてくれ。体育委員は明日は休憩時間のあいだに体育の授業の準備をしておいてくれ。それから……」
ここまで聞いて完全に聞く気を失くした。俺はゲームをする時間が無くなるので、どの委員会にも所属してない。なのでこういった委員会仕事とは全く縁がない。周りの無所属や別の委員会の生徒も本を読む、隣の生徒と話す、寝るなどしてまともに聞いていない。小夜の奴は自分に関係ない委員会の話も真面目に聞いているようだ。
「よし、今日の終礼はここまでだ。気をつけて帰れよ!さようなら!」
周りの様子を観察していたら終礼が終わっていた。聞いても俺には関係ない話だったので問題はないだろう。終礼が終わったと同時に小夜が俺の方へと向かってくる。
「遊ちゃん、一緒に帰ろ! 今日やった授業が理解できるまで帰さないから覚悟してね~?」
小夜は嬉しそうな表情で言った。そこまでして俺に勉強を教えたいのか。まったく物好きなものだ。断るわけにはいかないのでそのまま一緒に玄関まで歩いていく。終礼が終わっても学校は終わらない。廊下では数人で固まって雑談をしている生徒やこれから部活の準備をするのだろう生徒たちとすれ違う。
「遊ちゃんは部活とかはやらないの?」
下駄箱で靴の入れ替えをしているときに唐突に小夜が聞いてきた。
「興味ないね。部活をやる時間があるなら俺はゲームをするよ。そういう小夜こそ何か部活やらないのか?」
「うーん、私も部活よりこうやって一緒に帰って遊ぶのが好きかな。」
小夜は照れ隠しするように笑った。小夜は委員会には所属しているが部活には所属していない。詳しくは聞いていないが月一に集会があるぐらいらしいで大抵はこうして一緒に帰宅している。
「何だ、結局お前も入る気が無いんじゃないか。」
「うぅ、そう言われるとそうなんだけど…。」
そのまま何か言い返すことなく引っ込んでしまった。いったい何がしたいんだ。
会話はそこで一旦区切れて校門を出た。学校の周りは住宅街になっており、二人でアスファルトの道路を歩いて帰る。そこからは二人でゲームの話をしながら帰った。今度発売のゲームはどうだ。この前教えたゲームはどうだった。そうやって二人でゲームの話をしつつ家へと歩を進める。小夜は明るく活発な印象の外見だがゲームにもかなり関心がある。というより俺が関心を持たせた。小学生の頃に俺と小夜はお隣ということでよく二人でゲームをして遊んでいた。それからずっと一緒にゲームをし続けてきた。そういうわけで小夜のゲームの知識は俺には及ばないもののかなりのものになっている。
「着いたよ。遊ちゃん!」
話していたらいつの間にか到着していたみたいだ。さて、ここからどうやってゲームを取り返しつつ小夜を帰せるか。
「お邪魔しまーす!」
そう考えているうちに勝手に家に入っていった。
「おい。ちょっとは遠慮しろよな…」
俺も遅れて小夜の後を追いかける。うちの両親は仕事で夜まで帰ってこない。そのため家で遊ぶときはその親が帰ってくる時間までというのが俺たちの中で決まっている。小夜はもう二階の俺の部屋に向かったようだ。俺は台所に入り手頃なお菓子とお茶を持って二階へと向かう。自分の部屋のドアを開けると小夜は部屋の戸棚を眺めていた。部屋の戸棚には今までに集めた俺のゲームが詰まっている。RPG、アクション、ノベル、ホラーなど、一部を除いた様々なジャンルが集まっている。
「やっぱり遊ちゃんの部屋ってすごいね。いろんなゲームでいっぱいだぁ。あ、これってもしかしてこの前発売した新しいゲーム?」
そう言って一つのゲームを小夜は取り出した。
「よく分かったな。そいつは先々週に発売したファイナルエクスタシーシリーズ(通称FE)の最新作だ。」
「やっぱり~。最近CMとかでよく見るんだよね~。あれ。でもなんで戸棚にしまってあるの?まだプレイ中じゃないの?」
「もうクリアしたに決まっているだろう。俺にとってゲームはどんなゲームでも長くとも2週間、短ければ1日でクリアできる。」
もしも学校という忌まわしいものが無ければこの時間をさらに短縮することができるのだがな。
「すごーい! 私はそこまでできないなぁ。クリアまで行くゲームもあるけど半分以上は途中で終わっちゃうんだよね。」
「人によって得意不得意はある。気にするな。もしかしたらそのゲームが少し難しいのかもしれない。このゲームはそこそこ簡単で楽しいからやってみるといいぞ。」
そうして俺は小夜に『夢幻の泉』というゲームを渡した。キャラクターが全体的にマスコット的で可愛らしくアクション性も富んでいる小中学生向けのゲームシリーズの一つだ。今でも新しい作品が出続けており昔からのファンの人気もあって大人から子供まで楽しめる作品だ。これなら小夜にもクリアできるだろう。
「わぁ。良いの、遊ちゃん?」
「構わん。ゲームに興味を持ってもらえるのは俺にとっても本望なことだ。今度感想を聞かせてくれ。」
「うん!ありがとう、遊ちゃん!」
小夜は嬉しそうに笑っている。さて、そろそろ俺のゲーム機を返してもらわないとな。
「今から一緒にやらないか?やり方を少し教えてやるよ。だからゲーム機を一旦返してくれないか?」
「うん!分かった!」
そう言って小夜は何晏の中を漁りだした。しかし途中で何かに気づいたようにハッとしていた。
「駄目だよ遊ちゃん!私は今日勉強をやりに来たんだよ!危なかった…、もうちょっとで騙されるところだった…。」
チッ、駄目だったか。若干天然入ってるから行けると思ったんだがな。
「ほら、教科書とノート出して! 今日の復習やるよ!」
そうして俺と小夜の勉強会が始まった。結果だけ言うと勉強は全く捗らなかった。小夜の言っていることの大半が理解できずに相槌を打つくらいしかできなかった。そうやって一時間ほど経過した。
「……遊ちゃん、本当に先生の話を聞いてないんだね。」
小夜はあきれたような顔で俺を見る。逆に俺はこいつがなぜここまで勉強とやらに集中できるのかが理解できない。こんなものの知識を詰め込むくらいなら俺は遊ぶ。
「はぁ、これじゃあ勉強どころじゃないよぉ……。」
小夜が疲れたように仰向けに倒れる。
「よし、ならば休憩にゲームやろう。何かあったかな……。」
ゲームの話となって急にイキイキし始めた俺を見て小夜がため息をついている。
「もう、遊ちゃんったら…。ゲームのことになるとすぐこれなんだから……。」
小夜が何か言っているが気にしない。立ち上がって戸棚に収まった大量のゲームをのぞき込む。二人でプレイするのも良いが片方がプレイしているのを見るのも良いものだ。何が良いかと思い眺めていると一つだけ見覚えのないゲームがあった。タイトルは『夢現の狭間』。おかしい。小夜が持っているゲームが紛れ込んだのだろうか。
「小夜、このソフトに見覚えは無いか? 俺の物じゃないはずなんだが。」
小夜も覚えが無い様で首を横に振っている。パッケージには夢現と書かれている。
「そうだな、俺の知らないソフトが置いてあるのも気味が悪いな。今日はこれをやってみるか。」
そう言って俺はゲームソフトをゲームハードに挿入した。隣では小夜がワクワクした表情をしている。テレビを起動して画面を切り替える。ゲームの画面には特に開発した会社の名前などは特に表示されず、タイトル画面が表示された。若干の違和感を感じたが俺は気にせずに続ける。
「ありゃ、なんかレトロな感じのゲームだね。いつもはもっときれいな感じなのに。」
ゲームは少し前にはよく見かけた2D横スクロールアクションだった。主人公のプレイヤーキャラクターは銃を駆使して敵を倒していき、ステージの最後にいるボスを倒せばステージクリアとなる。グラフィックも最近のように鮮明なものではなく作品レベル的には10年前くらいのものだろうか。ますますこのゲームが俺の部屋の棚に置いてあったことが不可解になる。
「あっ、あそこにアイテムあるよ。あっあっ、敵来てるよ! やばいよ! もう死んじゃうよ! あっ。あーーーーーーーーーっ!」
「うるせえ! もうちょっと静かにできないのか! 集中できないだろうが!」
「はうっ! ご、ごめんなさい……」
小夜があまりにうるさいので一喝するとしょんぼりとして静かになった。しかし数分後にはすぐに騒がしくなり、俺が一喝するのを繰り返す。これが俺たちのいつも通りの日常だ。こういうのもなんだが俺は小夜と二人でゲームをするのが結構好きだ。以前は一人でも十分に楽しめると思っていたが今では二人でやった方が楽しく感じる。そんなことを思いながら二人で進めているうちにゲームもいつの間にか終盤に差し掛かっていた。ゲームにストーリー性自体は無くひたすらステージを進めていくだけのゲームだった。アイテムを拾って装備を強化するといった機能もよくあるもので一般人がつくったゲームだと言われても納得できる出来だ。
「うーん、もう終わりかー。案外すぐ終わっちゃったね。」
「そうだな。別段ボリュームもあるわけじゃない、単調なゲームだった。」
俺も小夜も物足りなさを感じていた。そうして画面の操作キャラが最後のボスを銃で撃ち抜く。ボスは爆発して消滅し、奥の扉が開く。奥にはお姫様が囚われていた。檻を破壊してお姫様を救い出す。
Thank you for playing! Go to next challenge!
画面に文字が表示される。どうやらこれでゲームクリアの様だ。
「隣で見てるだけだったけれどどうだった、小夜。つまらなくなかったか?」
「ううん、見てて面白かったよ!遊ちゃんすっごく上手だったしつい見入っちゃった。」
小夜も楽しめたようだし、時間も親が帰ってくるちょうどいい時間帯だ。
「う~ん、私もこんな風に王子様に助けてもらえるお姫様になってみたいな~。」
「そんな夢みたいなこと滅多にあるかよ。ほら、だいぶ暗くなってきたし帰る準備をしな。」
「むぅ~、そんなにはっきり言わなくても…。」
軽口を叩きあいながら小夜は帰り支度を始める。俺もゲームの片づけを始めようとした。
しかしそこで異変が起こった。
「あれ、なんかテレビ画面が変じゃない? 画面が途切れ途切れになってる。」
小夜が言った通りテレビの画面がぷつぷつと映ったり消えたりしている。このテレビもかなり長い間使っているからな。修理に出すか新しいものを買うかしないといけないな。
「故障かな? そうだ遊ちゃん、こういう時にどうすれば直るか私知ってるよ。何かわかる?」
小夜は笑顔で俺に言う。まあこいつのやりそうなことは大体わかる。分かった上で敢えて聞く。
「何だ。言ってみろ。」
「それはね~、たたいて直すのだ! えいっ、えいっ!」
そう言うと小夜がテレビの角を叩き始めた。大まか予想通りの行動だ。これで直るなら良いし直らなくてもどっちみち修理に出すから問題ない。なんども叩いているがテレビが直る様子は無かった。
「うーんなかなか直らないなぁ。他の部分も叩いてみよう。」
そう言うと小夜は液晶部分を叩こうとしていた。流石に修理箇所を増やされるのは勘弁なので止めに入る。
「おい、画面に傷をつけるのはやめ……ろ………?」
結果として小夜が画面を叩くのを止めることはできなかった。しかし小夜が画面を叩くことは無かった。何故なら小夜の手が液晶画面の中に吸い込まれていたからだ。俺も小夜も呆然とその状況を見ていた。
「えっ……、なに……これ………。」
何がどうなっているのか理解できない。何故小夜の腕が液晶の中に埋まっているのか。頭の中の整理がつかない。だが状況は俺のことは待ってくれない。小夜が錯乱して慌て始める。
「ねえ! これ、どんどん吸い込まれてるよ!」
「クッ、小夜! 今助ける!」
状況は理解できないままだがそれでも目の前で幼馴染が危険な状況なんだ。どうにか小夜を引きずり出そうと腕をつかんで引っ張る。しかし引きずり込む力の方が強くどうにもならなかった。画面が俺のつかんでいる箇所まで来たが俺の腕は画面に引っかかり画面の中に入ることは無かった。小夜の体がどんどん画面に飲み込まれていく。
「遊ちゃん! 遊ちゃん! 助けて! たすけっ……。」
小夜の頭が画面に吸い込まれた。叫んでいた小夜の声はもう聞こえなくなり、さらに胴が吸い込まれようとしている。
「クソッ! なんなんだ! どうなっているんだ!」
無駄だと分かっていても必死に足を引っ張る。何か奇跡が起きてくれ。小夜を助けてくれ。心の中で叫び続ける。しかし願いが届くことは無かった。小夜が完全に画面に飲み込まれる。俺は見ていることしかできなかった。今での前で起きたことが信じられない。
「ただいま~、ゆうとー、小夜ちゃん来てるのー?」
一階から仕事から帰ってきた母親の声が聞こえる。俺は小夜の居なくなった部屋で俺一人が立ち尽くしていた。
「なんなんだよ、いったい……。」
最後の授業の鐘が鳴り生徒達が教材を片付け始める。教師もまた黒板に書いた授業内容を消してクラスを出る準備をしている。俺、神原遊人もまた教材を片付けを始めた。といってもノートの類はほとんど取っていない。手元には携帯用のゲーム機器が起動したままの状態で置かれている。授業中は教材で隠してずっとゲームをしていた。廊下では授業が終わって教室から出てきた他クラスの生徒たちの話し声でにぎわい始めていた。教師が片づけを終えたと同時に俺は立てていた教材を携帯ゲームの上に被せて見えないようにする。そのまま廊下へ出て見えなくなったのを確認すると俺は再び携帯ゲームを手に取って続きを始めた。俺にとってゲームは命だ。そのため教師への警戒は切らしてはいけない。ゲームの一時停止を解こうとした瞬間に俺の背後からのびてきた手にゲーム機を持って行かれた。教師が出ていくのはしっかりと確認した。まさか何か忘れ物を取りに戻ってきたのか。どのみち今の俺は後ろの人物に命を握られてるも同然だどうしようもないと察して体をそらすようにして後ろを見る。そこには如何にも不機嫌ですといった顔をした女子がいた。
「遊ちゃん!授業中にゲームしちゃダメだってあれだけ言ったでしょ!」
肩ほどまで伸びたポニーテールを揺らして怒っている女子。こいつは本宮小夜。俺の家の隣に住んでいる幼馴染だ。俺の命を握っているのが教師でないことにホッとする。
「別にいいじゃないか。お前だって好きだろ、ゲーム。勉強なんてテストの直前に一夜漬けすれば何とかなるもんだ。だから早くそれを返してくれ。」
そういうと小夜は余計に怒りをあらわにした。
「それで点数が取れてないからダメなんでしょ! この前のテストの点数はどれだけだったか言ってみなさい!」
そう言われて一番記憶に新しいテスト期間をどう過ごしていたのかを思い出してみる。確かテスト一週間前になって家に帰ってそれから……。駄目だ、ゲームをしていたことしか覚えていない。
「すまん。覚えてない。」
「世界史と日本史以外全部赤点だったでしょ!ゲームも良いけどそれで勉強がおろそかになっちゃったら意味ないよ。」
そうだった。思い出した。ついでに世界史と日本史ができているのはゲームには歴史をモチーフにしたものが結構ありその知識で何とか乗り切った。だけど俺には関係ない話だ。
「分かった分かった。分かったから早く返してくれ。俺は今すぐに続きをやりたくてたまらないんだ。」
さっきから会話をしつつゲームを取り返そうと何度も手を伸ばしているのだがことごとく躱され続けている。
「はぁ。分かったよ、遊ちゃんは何を言ってもダメみたいだね……。」
ようやく諦めたみたいだ。それじゃあさっさと返してもらおうか。そう思ったが小夜は俺のゲーム機を持ったまま自分の席へと戻っていった。
「おい待て、何故ゲーム機を持っていく。何故俺のゲーム機をお前の鞄の中に入れるんだ。」
「言っても分からないなら体に覚えさせるまでです。これから遊ちゃんの家で二人で勉強会をするよ!それが終わるまでこれは私が預からせてもらうからね。ほらっ、行くよ!」
そう言うと小夜は鞄を持って出口へと向かって行った。
「ちょっと待て小夜。もう少しここに居たほうがいいぞ。っと、言うのが遅かったか。」
教室を出ようとしていた小夜が人とぶつかるのが見えた。うちのクラスの担任だ。
「どうした本宮、終礼も終わって無いのにもう鞄を持つなんて気が早いぞ。さっさと席に戻れ。」
「は、はい……」
担任に言われて小夜はこちらを恨めしそうに睨みながら席へと戻っていった。自業自得だ。ざまあみろだ。俺のゲームを持っていくからこうなる。
「みんな今日も一日お疲れさん!明日の予定は……」
いつも通りの終礼の挨拶が始まる。いつもなら隠れてゲームをするのだが生憎今は手元にない。仕方がないので教師の話を聞いてみようか。
「清掃委員の担当者は明日の朝は早めに登校して働いてくれ。体育委員は明日は休憩時間のあいだに体育の授業の準備をしておいてくれ。それから……」
ここまで聞いて完全に聞く気を失くした。俺はゲームをする時間が無くなるので、どの委員会にも所属してない。なのでこういった委員会仕事とは全く縁がない。周りの無所属や別の委員会の生徒も本を読む、隣の生徒と話す、寝るなどしてまともに聞いていない。小夜の奴は自分に関係ない委員会の話も真面目に聞いているようだ。
「よし、今日の終礼はここまでだ。気をつけて帰れよ!さようなら!」
周りの様子を観察していたら終礼が終わっていた。聞いても俺には関係ない話だったので問題はないだろう。終礼が終わったと同時に小夜が俺の方へと向かってくる。
「遊ちゃん、一緒に帰ろ! 今日やった授業が理解できるまで帰さないから覚悟してね~?」
小夜は嬉しそうな表情で言った。そこまでして俺に勉強を教えたいのか。まったく物好きなものだ。断るわけにはいかないのでそのまま一緒に玄関まで歩いていく。終礼が終わっても学校は終わらない。廊下では数人で固まって雑談をしている生徒やこれから部活の準備をするのだろう生徒たちとすれ違う。
「遊ちゃんは部活とかはやらないの?」
下駄箱で靴の入れ替えをしているときに唐突に小夜が聞いてきた。
「興味ないね。部活をやる時間があるなら俺はゲームをするよ。そういう小夜こそ何か部活やらないのか?」
「うーん、私も部活よりこうやって一緒に帰って遊ぶのが好きかな。」
小夜は照れ隠しするように笑った。小夜は委員会には所属しているが部活には所属していない。詳しくは聞いていないが月一に集会があるぐらいらしいで大抵はこうして一緒に帰宅している。
「何だ、結局お前も入る気が無いんじゃないか。」
「うぅ、そう言われるとそうなんだけど…。」
そのまま何か言い返すことなく引っ込んでしまった。いったい何がしたいんだ。
会話はそこで一旦区切れて校門を出た。学校の周りは住宅街になっており、二人でアスファルトの道路を歩いて帰る。そこからは二人でゲームの話をしながら帰った。今度発売のゲームはどうだ。この前教えたゲームはどうだった。そうやって二人でゲームの話をしつつ家へと歩を進める。小夜は明るく活発な印象の外見だがゲームにもかなり関心がある。というより俺が関心を持たせた。小学生の頃に俺と小夜はお隣ということでよく二人でゲームをして遊んでいた。それからずっと一緒にゲームをし続けてきた。そういうわけで小夜のゲームの知識は俺には及ばないもののかなりのものになっている。
「着いたよ。遊ちゃん!」
話していたらいつの間にか到着していたみたいだ。さて、ここからどうやってゲームを取り返しつつ小夜を帰せるか。
「お邪魔しまーす!」
そう考えているうちに勝手に家に入っていった。
「おい。ちょっとは遠慮しろよな…」
俺も遅れて小夜の後を追いかける。うちの両親は仕事で夜まで帰ってこない。そのため家で遊ぶときはその親が帰ってくる時間までというのが俺たちの中で決まっている。小夜はもう二階の俺の部屋に向かったようだ。俺は台所に入り手頃なお菓子とお茶を持って二階へと向かう。自分の部屋のドアを開けると小夜は部屋の戸棚を眺めていた。部屋の戸棚には今までに集めた俺のゲームが詰まっている。RPG、アクション、ノベル、ホラーなど、一部を除いた様々なジャンルが集まっている。
「やっぱり遊ちゃんの部屋ってすごいね。いろんなゲームでいっぱいだぁ。あ、これってもしかしてこの前発売した新しいゲーム?」
そう言って一つのゲームを小夜は取り出した。
「よく分かったな。そいつは先々週に発売したファイナルエクスタシーシリーズ(通称FE)の最新作だ。」
「やっぱり~。最近CMとかでよく見るんだよね~。あれ。でもなんで戸棚にしまってあるの?まだプレイ中じゃないの?」
「もうクリアしたに決まっているだろう。俺にとってゲームはどんなゲームでも長くとも2週間、短ければ1日でクリアできる。」
もしも学校という忌まわしいものが無ければこの時間をさらに短縮することができるのだがな。
「すごーい! 私はそこまでできないなぁ。クリアまで行くゲームもあるけど半分以上は途中で終わっちゃうんだよね。」
「人によって得意不得意はある。気にするな。もしかしたらそのゲームが少し難しいのかもしれない。このゲームはそこそこ簡単で楽しいからやってみるといいぞ。」
そうして俺は小夜に『夢幻の泉』というゲームを渡した。キャラクターが全体的にマスコット的で可愛らしくアクション性も富んでいる小中学生向けのゲームシリーズの一つだ。今でも新しい作品が出続けており昔からのファンの人気もあって大人から子供まで楽しめる作品だ。これなら小夜にもクリアできるだろう。
「わぁ。良いの、遊ちゃん?」
「構わん。ゲームに興味を持ってもらえるのは俺にとっても本望なことだ。今度感想を聞かせてくれ。」
「うん!ありがとう、遊ちゃん!」
小夜は嬉しそうに笑っている。さて、そろそろ俺のゲーム機を返してもらわないとな。
「今から一緒にやらないか?やり方を少し教えてやるよ。だからゲーム機を一旦返してくれないか?」
「うん!分かった!」
そう言って小夜は何晏の中を漁りだした。しかし途中で何かに気づいたようにハッとしていた。
「駄目だよ遊ちゃん!私は今日勉強をやりに来たんだよ!危なかった…、もうちょっとで騙されるところだった…。」
チッ、駄目だったか。若干天然入ってるから行けると思ったんだがな。
「ほら、教科書とノート出して! 今日の復習やるよ!」
そうして俺と小夜の勉強会が始まった。結果だけ言うと勉強は全く捗らなかった。小夜の言っていることの大半が理解できずに相槌を打つくらいしかできなかった。そうやって一時間ほど経過した。
「……遊ちゃん、本当に先生の話を聞いてないんだね。」
小夜はあきれたような顔で俺を見る。逆に俺はこいつがなぜここまで勉強とやらに集中できるのかが理解できない。こんなものの知識を詰め込むくらいなら俺は遊ぶ。
「はぁ、これじゃあ勉強どころじゃないよぉ……。」
小夜が疲れたように仰向けに倒れる。
「よし、ならば休憩にゲームやろう。何かあったかな……。」
ゲームの話となって急にイキイキし始めた俺を見て小夜がため息をついている。
「もう、遊ちゃんったら…。ゲームのことになるとすぐこれなんだから……。」
小夜が何か言っているが気にしない。立ち上がって戸棚に収まった大量のゲームをのぞき込む。二人でプレイするのも良いが片方がプレイしているのを見るのも良いものだ。何が良いかと思い眺めていると一つだけ見覚えのないゲームがあった。タイトルは『夢現の狭間』。おかしい。小夜が持っているゲームが紛れ込んだのだろうか。
「小夜、このソフトに見覚えは無いか? 俺の物じゃないはずなんだが。」
小夜も覚えが無い様で首を横に振っている。パッケージには夢現と書かれている。
「そうだな、俺の知らないソフトが置いてあるのも気味が悪いな。今日はこれをやってみるか。」
そう言って俺はゲームソフトをゲームハードに挿入した。隣では小夜がワクワクした表情をしている。テレビを起動して画面を切り替える。ゲームの画面には特に開発した会社の名前などは特に表示されず、タイトル画面が表示された。若干の違和感を感じたが俺は気にせずに続ける。
「ありゃ、なんかレトロな感じのゲームだね。いつもはもっときれいな感じなのに。」
ゲームは少し前にはよく見かけた2D横スクロールアクションだった。主人公のプレイヤーキャラクターは銃を駆使して敵を倒していき、ステージの最後にいるボスを倒せばステージクリアとなる。グラフィックも最近のように鮮明なものではなく作品レベル的には10年前くらいのものだろうか。ますますこのゲームが俺の部屋の棚に置いてあったことが不可解になる。
「あっ、あそこにアイテムあるよ。あっあっ、敵来てるよ! やばいよ! もう死んじゃうよ! あっ。あーーーーーーーーーっ!」
「うるせえ! もうちょっと静かにできないのか! 集中できないだろうが!」
「はうっ! ご、ごめんなさい……」
小夜があまりにうるさいので一喝するとしょんぼりとして静かになった。しかし数分後にはすぐに騒がしくなり、俺が一喝するのを繰り返す。これが俺たちのいつも通りの日常だ。こういうのもなんだが俺は小夜と二人でゲームをするのが結構好きだ。以前は一人でも十分に楽しめると思っていたが今では二人でやった方が楽しく感じる。そんなことを思いながら二人で進めているうちにゲームもいつの間にか終盤に差し掛かっていた。ゲームにストーリー性自体は無くひたすらステージを進めていくだけのゲームだった。アイテムを拾って装備を強化するといった機能もよくあるもので一般人がつくったゲームだと言われても納得できる出来だ。
「うーん、もう終わりかー。案外すぐ終わっちゃったね。」
「そうだな。別段ボリュームもあるわけじゃない、単調なゲームだった。」
俺も小夜も物足りなさを感じていた。そうして画面の操作キャラが最後のボスを銃で撃ち抜く。ボスは爆発して消滅し、奥の扉が開く。奥にはお姫様が囚われていた。檻を破壊してお姫様を救い出す。
Thank you for playing! Go to next challenge!
画面に文字が表示される。どうやらこれでゲームクリアの様だ。
「隣で見てるだけだったけれどどうだった、小夜。つまらなくなかったか?」
「ううん、見てて面白かったよ!遊ちゃんすっごく上手だったしつい見入っちゃった。」
小夜も楽しめたようだし、時間も親が帰ってくるちょうどいい時間帯だ。
「う~ん、私もこんな風に王子様に助けてもらえるお姫様になってみたいな~。」
「そんな夢みたいなこと滅多にあるかよ。ほら、だいぶ暗くなってきたし帰る準備をしな。」
「むぅ~、そんなにはっきり言わなくても…。」
軽口を叩きあいながら小夜は帰り支度を始める。俺もゲームの片づけを始めようとした。
しかしそこで異変が起こった。
「あれ、なんかテレビ画面が変じゃない? 画面が途切れ途切れになってる。」
小夜が言った通りテレビの画面がぷつぷつと映ったり消えたりしている。このテレビもかなり長い間使っているからな。修理に出すか新しいものを買うかしないといけないな。
「故障かな? そうだ遊ちゃん、こういう時にどうすれば直るか私知ってるよ。何かわかる?」
小夜は笑顔で俺に言う。まあこいつのやりそうなことは大体わかる。分かった上で敢えて聞く。
「何だ。言ってみろ。」
「それはね~、たたいて直すのだ! えいっ、えいっ!」
そう言うと小夜がテレビの角を叩き始めた。大まか予想通りの行動だ。これで直るなら良いし直らなくてもどっちみち修理に出すから問題ない。なんども叩いているがテレビが直る様子は無かった。
「うーんなかなか直らないなぁ。他の部分も叩いてみよう。」
そう言うと小夜は液晶部分を叩こうとしていた。流石に修理箇所を増やされるのは勘弁なので止めに入る。
「おい、画面に傷をつけるのはやめ……ろ………?」
結果として小夜が画面を叩くのを止めることはできなかった。しかし小夜が画面を叩くことは無かった。何故なら小夜の手が液晶画面の中に吸い込まれていたからだ。俺も小夜も呆然とその状況を見ていた。
「えっ……、なに……これ………。」
何がどうなっているのか理解できない。何故小夜の腕が液晶の中に埋まっているのか。頭の中の整理がつかない。だが状況は俺のことは待ってくれない。小夜が錯乱して慌て始める。
「ねえ! これ、どんどん吸い込まれてるよ!」
「クッ、小夜! 今助ける!」
状況は理解できないままだがそれでも目の前で幼馴染が危険な状況なんだ。どうにか小夜を引きずり出そうと腕をつかんで引っ張る。しかし引きずり込む力の方が強くどうにもならなかった。画面が俺のつかんでいる箇所まで来たが俺の腕は画面に引っかかり画面の中に入ることは無かった。小夜の体がどんどん画面に飲み込まれていく。
「遊ちゃん! 遊ちゃん! 助けて! たすけっ……。」
小夜の頭が画面に吸い込まれた。叫んでいた小夜の声はもう聞こえなくなり、さらに胴が吸い込まれようとしている。
「クソッ! なんなんだ! どうなっているんだ!」
無駄だと分かっていても必死に足を引っ張る。何か奇跡が起きてくれ。小夜を助けてくれ。心の中で叫び続ける。しかし願いが届くことは無かった。小夜が完全に画面に飲み込まれる。俺は見ていることしかできなかった。今での前で起きたことが信じられない。
「ただいま~、ゆうとー、小夜ちゃん来てるのー?」
一階から仕事から帰ってきた母親の声が聞こえる。俺は小夜の居なくなった部屋で俺一人が立ち尽くしていた。
「なんなんだよ、いったい……。」
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