画面の中の彼女

ライドリア

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 小夜が画面に飲み込まれて消えた。俺は目の前で起こったことがあまりにも現実離れした光景で信じられなかった。人間が画面に消えるなんてありえない。これは夢なんじゃないか。そんな疑問が湧いてくる。そうだ、きっとこれは夢なんだ。人が画面に飲み込まれるなんてあるわけないじゃないか。焦る気持ちを必死に抑え込もうとそう思い込んだ。この部屋が俺の部屋じゃないようで怖くなった。俺はすぐに部屋を出て階段を下りていった。一階に降りると台所からトントントンと包丁を捌く音が聞こえる。きっとさっき帰った母さんが料理をしている音だ。その音を聞いて俺はいつもの日常に帰ってこれたのだと安堵した。

「あら遊人、帰ってきてるならちゃんと返事しなさい。それより小夜ちゃんは? せっかくだから小夜ちゃんの分の夕飯も作ろうと思ってるのだけれど。」

 台所に顔を出すとエプロン姿の母さんが料理をしながら話しかけてくる。

「小夜ならもう帰ったよ。暗くなってきたし晩御飯までに帰らなきゃって。」

 母さんには嘘を言った。どうせ夢なんだ。何をしたって問題ない。明日にはすべて元に戻っているんだ。

「あら、残念。いろいろお話したかったのに…。」

「小夜と何を話すつもりだよ。話すことなんて無いだろ。」

 母さんと小夜はそこまで話したことはなかったはずだ。家に帰ったときに遊びに来ていた小夜とすれ違いで挨拶を交わすぐらいの関係だったと思うが。変なことを話すつもりじゃないだろうな。

「話すことなんて沢山あるわよ? 最近遊人とはどうとか遊人をどういう風に見てるとかあるじゃない。」

「なんで俺のことばっかりなんだよ! 何考えてんだバカ!」

 俺は素っ頓狂な声で叫んだ。

「アンタこそ何考えてんのよ! アンタに話しかけてくれる女の子なんてどうせ小夜ちゃんくらいでしょ! あの子を逃したら一生独り身じゃない!アタシは早く孫の顔が見たいんだよ!」

 「俺はそんなもんに興味ないね。ゲームをやって生きていられればそれでいい。そもそも小夜と俺はそんな関係じゃねぇ!」

 俺と小夜がそんな関係なんてあり得るわけがない。小夜の方も俺に対しては幼馴染だから仕方なく接しているに決まっている。それかゲームが好きで詳しい俺にくっついているだけだ。

「もー、照れちゃって。そんなに否定すると余計に怪しいわよ~?。」

「うるせぇババァ! あんまり調子に乗っているとぶっ飛ばすぞ!」

 付き合っていられないと思い、俺は台所から出て行った。部屋に戻る前に玄関へと向かった。玄関には俺の靴と母さんの靴、そして小夜の靴が置かれている。

「どうせ夢なんだろ? なあ。」

 俺は何も考えずに、……いや、何も考えないようにして小夜の靴を持って階段を上る。母さんと少し話したからか気分は多少は落ち着いている。部屋に入っても取り乱すことはなかった。部屋はいつもと何も変わらない。俺は小夜の靴を鍵付きの引き出しに小夜の靴を入れて鍵をかけた。

「全部……夢なんだよな……?」

 胃がキリキリと痛んで気持ちが悪い。今日はご飯を食べたら寝よう。そう思った。

「ただいまー、お母さん、遊人。帰ったぞー。」

 玄関からドアの閉まる音と父さんの声が聞こえる。

「おかえりー。」

 部屋から一階に向かって返事をする。父さんが帰ってきたということはそろそろ晩御飯の時間だ。鍵を引き出しに仕舞い、部屋を出て階段を下りる。階段を降りたところで父さんと鉢合わせた。

「ただいま遊人。顔色が優れないようだが何かあったのか?」

「別に何でもないよ。それよりも父さんが帰ってきたってことはもうご飯できてるってことでしょ?早く行こう。」

 父さんはいつも大体同じ時間に帰ってくる。だから母さんも父さんの帰る時間に合わせて晩御飯を作っている。

「そうだな。母さんを待たせちゃ悪いしな。」

 俺は父さんと一緒にリビングへと向かった。リビングのテーブルにはすでに料理が並べられており、母さんは台所で後片付けをしている。

「あらお父さん、お帰りなさい。」

「ただいま、母さん。」

 二人は他愛ない会話をしながら席に座る。俺もそれに合わせて席に座りご飯に手を付けた。父さんと母さんが楽しそうに会話する中、俺は無言のまま食事を口に運び続けた。

「なあ遊人、本当に何もなかったのか? 今日のお前、いつもより暗いぞ。」

「…何でもない。いつも通りだよ。」

「そうよ遊人、悩みがあるなら言っちゃいなさいよ。誰かに話したら楽になるかもしれないわよ。」

 小夜がテレビの画面の中に消えました、なんて言えるわけがない。ゲームのやりすぎで頭がおかしくなったのかなんて思われて終わるだけだ。

「ほらほら、さっさとゲロっちゃいなよ~。ん~?」

「何でもないって言ってるだろッ!!」

 机をとバン叩いて立ち上がる。やってしまった。つい怒鳴ってしまった。父さんも母さんも急に怒鳴った俺を見て呆気にとられてる。

「ご、ごめん。」

「う、ううん。こっちこそ変に聞いちゃってごめん……。」

 気まずい空気がリビングに流れた。俺はそれから一言も話さずに食事を続けた。父さんも母さんも無言になり黙々と食事を続ける。

「……ごちそうさま。」

 居たたまれなって俺は御飯を残してリビングから離れた。俺が居なくなったリビングからは父さんと母さんの話し声が聞こえ始めた。何を話しているかは聞こえないがまじめな声色で話しているのは分かる。両親の声を少し気にしつつ階段を上って俺の部屋へと向かった。部屋に入るとそのままベッドに体を預け枕に顔をうずめる。昼間の出来事が頭を離れない。気分が悪い。俺はしばらくベッドで死んだように固まっていた。何か別のことを考えようとしたがすぐに今日の出来事のことを思い出してしまいそれどころではなかった。うずめていた頭を傾けてテレビのほうを見る。そこには小夜のカバンと一緒にやっていたゲームが依然として置いてある。小夜が消えてからゲーム機には一度も触れていない。俺はじっとカバンとゲーム機を見つめ続けた。

「そういえばゲーム、まだ返してもらってないな……。」

 ふと学校のことを思い出した。ベッドから体を起こして小夜のカバンを拾う。流石に女子のカバンを開けるのは俺でも抵抗があったがどうせ夢だということでカバンを開く。中には学校の教材や筆記用具、化粧道具なんてものも入っていた。

「あいつでも化粧なんてするのか。少し意外だな。」

 そんなことを思いながらカバンを漁っているうちに没収されたゲーム機を見つけた。カバンから携帯ゲーム機を取り出して机の上の充電器につなげる。

「これで良し、と……。」

 カバンを閉じて一番下の大きめの引き出しの中に仕舞った。そのままテレビのほうに向かう。最後に一つだけ確認しておきたかったからだ。テレビの電源を入れてゲームプレイ時の画面に切り替える。ゲーム機を起動していないので画面は真っ暗のままだ。俺はゴクリとつばを飲み込み画面に向かってゆっくりと手を伸ばした。

「……。」

 画面に指先が当たる。液晶の温かさが伝わってくる。しかしそれだけだった。画面を突き抜けることもなければ引っ張られることもない。俺は安心感と少し残念な気持ちを感じた。

「やっぱりあり得るわけないよな。」

 もう寝よう。明日になればきっと全部元通りだ。小夜と一緒に登校して、ゲームをして、説教受けて。日常に戻るんだ。電灯から垂れ下がっている紐を引っ張明かりを消す。

「ああ、きっと大丈夫。大丈夫だ。」

 そう独り言を呟いて眠りについた。


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