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#02 どうして

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 くまのお母さんは穴の入口でため息をついていました。

 「あぁ、うちの子はどうしてお外に出ないのかしら。
 外はこんなにも温かくて、気持ちが良くて、空気が爽やかなのに。」

 そう言って頭を悩ませていました。

 するとそこへ一匹のうさぎがやってきました。

 「こぐまのぼうやは病気なの?」

 そう、うさぎは訪ねました。

 「あら、うさぎさん、こんにちは。それが私にも良くわからないの。
 こんなにあたたかくなったのに、穴から外に出ようとしないの。」お母さんは困り果ててうさぎに言いました。

 すると、くまのお母さんにうさぎは言いました。

 「分かったわ。じゃあ、私にまかせて!」

 そう言うと、うさぎは穴の中を覗き込みます。

 そして、息を吸うと穴の中のこぐまに聞こえるような声で言いました。

 「こぐまさん、こぐまさん。お外はとてもあたたかいわよ。
 一度、お外へいらっしゃいな。」

 すると中から弱々しい声が聞こえてきました。

 「ぼく、お外には行かないよ。大丈夫だから放っておいて。」

 それを聞いて、うさぎはあらあらと言った顔で腕組みをしました。

 そして「分かったわ。」と言うとすぐに
 ピョンピョンと森の茂みの方へ跳ねて行きました。


  しばらくすると、うさぎが茂みから飛び出してきました。

 口にたくさんの赤い木の実を加えていました。

 「おーい。こぐまさん? 甘酢っぱくて、美味しい、キレイな木の実を取ってきたの。ここへ来て、一緒に食べましょうよ。」

 うさぎが大きな声でこぐまに聞こえるようによびかけました。
  
 すると、こぐまが穴の中から答えます。

 「うーん。気が向いたら、取りに行くから、そこに置いていて。」

 それを聞いてうさぎはまた、あらあらといった顔をすると、

 「どんな木の実か見てごらんなさい。
 穴の中じゃあどんなにキレイな色なのか、分からないでしょう?」

 するとこぐまの面倒臭そうな声が聞こえます。

 「いいから放っておいてくれないかなぁ、
 僕はもう眠たくなってしまったからさ。」

 それを聞いてうさぎはいよいよしょうがないなという顔をすると、

 「そうなのね、分かったわ。
 じゃあ出てこなくてもいいから、せめてあなたのおててを見せてくれない?カワイイおててに美味しい木の実を乗せてあげるわ。」

 そううさぎが言うと、こぐまはしぶしぶ穴の中から、のそのそと入口の方に歩いて来ました。

 そして暗闇からそぅっと片手だけを差し出しました。

 すると、こぐまの差し出した右手に太陽の光があたりました。

 「ほぉら、この木の実はね、景色のとってもキレイなお山の開けた場所で、太陽の光をいーっぱいに浴びて真っ赤になっていたの。そこは私のお気に入りの場所なのよ。いつか一緒に行きましょう。」
 
 うさぎは夢中でこぐまに話します。

 その間中、こぐまは手を差し出したままでした。

 それでもうさぎは話し続けます。

 そのうちに差し出されたこぐまの右手は、太陽の光に照らされて、ポカポカとじんわり、おてての肉球があったまってきたのを感じていました。


 
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