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天仕事屋(てしごとや)

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note 3 女子中学生 ありさ

第一話 生野川安梨彩

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 私、生野川安梨彩は自分が死んだことを知っている。

 この白い部屋で目覚める前に霊体というのか魂だけの状態というのか、意識はあるのに体が無いという体験を数日間味わった。

 私が死んだ原因はイジメだ。
 「生きるのが嫌になったので」という理由での自殺である。
 
 屋上から飛び降りる瞬間は今思えば衝動でしかない。でも不思議と辛さよりも開放されるという安堵感の方が強かっただろうか、、、。

 虐められている時にどんなに頑張っても感情を無に出来なかったのに、人生の最後に無意識になるなんて思いもしなかった。

 次に目が覚めた時には何の痛みもなく、ただ学校の教室に立っていた。

 皆が教室で授業を受けている。
 いつもと何も変わらない日常があった。

 違うのは私の席がもうそこには無い事。

 誰も私に構おうとしない。

 苛めることも、歪んだ目で見ることも、押したり蹴ったりすることもしない。
 無視される事はあったけど、それとは違う。

 私はここにいるのに存在していない感覚。

 教室の隅に一人、立っている。
 スルリと椅子に座ることも出来るけれど、物が手に触れる感覚が無い。
 先生の声も聞こえるのにこちらが立っても座っても何の反応も示さない。

 
 チャイムが鳴って皆が立ち上がって、誰かとぶつかりそうになっても瞬間、体をすり抜けていく。

 、、、あぁ、私は死んだのだ。と実感する。
 
 私が死んでも何も変わらない日常が過ぎている。

 
 私を虐めていたリーダーの沼川あゆみは以前つるんでいた友達の一人、伊勢谷かよの隣の机の上に座って女子と話しながらかよの座っている椅子を蹴っている。
 確かあゆみと同じグループでつるんでいたはずだけど、私がいなくなってターゲットを変えようだ。

 仲良さそうに見せてもかよの表情はぎこちなかった。あゆみが蹴る度に椅子に伝わる振動で彼女の肩は震えていた。

 私が死んでも何も変わっていない。

 

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