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#03 クマのおじさんと人間

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 今日は少し陽射しが強いため、クマのおじさんはつばの広い帽子を被って釣りに出かけることにしました。

 みくりが池の岩場に着くと、リュックの中からエサを出して釣り針に取り付けました。

 今日は何が釣れるかな?

 クマのおじさんはいつもの様に釣り糸を水面にポチャンと投げ入れました。

 池の水面は、穏やかで静かに森の木々を写しています。

 陽射しがポカポカと日だまりを作っていて、それを浴びるとクマのおじさんは段々と眠くなっていきました。



 ふとなにかの足音がしたかなと思って、ぼんやりと目を開けると、隣の岩場に何やら座り込んでいる者がありました。

 クマは目を凝らして横目でそれを見下ろすと、そこには一人のおじいさんが座っていました。


 人間だ!!!

 クマは飛び上がりそうになる程驚いて、全身の毛がゾワゾワと逆立っていくのを感じます。

 隣に座っているおじいさんは、帽子を被り、肩に猟銃を担いでいます。

 クマは逃げ出すタイミングをのがしてしまい、どうして良いのか分からずに固まっていました。

 そんなクマをよそにおじいさんは口を開きます。
 「いや~、イノシシやら、鹿やら取りに来たんやけども、、こんに温かい日は高いところにいってしもうて、全然ですわ。」
 
 そう言うとおじいさんは、持ってきたタバコをプカプカと吸い始めました。


 、、、あれれ?このじいさん、わしがクマだと気が付いてないんかな、、、?

 更におじいさんはのんきに話を続けます。

 「歳を取ると、足腰も目も、とんと弱くなって、ほんに困りますねぇ。」

 クマは今にもおじいさんが自分の正体に気が付いて、猟銃で撃ってきやしないかと、ヒヤヒヤしながらひたすら時が過ぎるのを待っています。

 そんなクマの様子には全く気付かず、おじいさんは話かけてきました。
 「なんぞ、釣れますかな?」

 クマは震える声を抑えながら
 「い、、、いえ、、、まだ、、。」
 と必死に絞り出します。


 プー、、とおじいさんは煙を口から吹き吹き
 「この辺は、クマが出ると聞いとりますけんど、、」
 と、遠くを見ながらまだ話しかけてきます。


 だから、クマですよ?!
 あなたの隣りにいるの!クマですよっ?!!

 クマは冷や汗をかきかき、心の中で叫びました。

 おじいさんは、ぽつりぽつりとまだ話します。
 「今日は、熊よけのスズ、忘れてきたんじゃ」
 「あなたも襲われんよう、気を付けなされぃ。」
 そう言うと、クマの隣でタバコをふかしています。
 
 クマはこころの中で

 なんとか、襲わんように気をつけます、、、。

 そう呟くとおじいさんに
 「、、、クマも人間に会うと、、びっくりすると思うんですよ、、」と必死で声を絞り出しました。


 すると、おじいさんはフーっと煙を吐くと
 「そうかもなぁ、、クマも人間が怖いんかもしれんなぁ。」

 クマはもう汗だくで帽子のフチに水滴が溜まるほどに汗をかいていて、程なくしてポタリとおじいさんに汗がしたたり落ちてしまい、、、

 しまった!!!

 クマがそう思ったとたん、空から雨つぶがポツリポツリと落ちてきました。 

 気が付けばあんなに晴れていた空が灰色に曇っていました。

 「おや、、?おてんとうさんは、どこへいったかいな?」
 おじいさんはそう言うと、やっとタバコを消して、それを吸殻入れにしまい、腰を上げました。


 「それでは、お互い、気ぃ付けましょうなぁ。」
 おじいさんはそう言うと、ペコリとクマに礼をして山を下りて行きました。


 クマは振り返りもせずしばらく固まっていましたが、そのうち ふぅっーと全身から力が抜けて、ヘナヘナと岩場に崩れました。



 やっと落ち着いて池をふと見ると、ピクピクと水面で釣りざおと糸が動いていました。

 引っ張ってみると、30センチくらいの魚がかかっています。

 体中に黒い点と、赤い線のあるニジマスでした。


 クマは降ってきた雨でびしょ濡れになりながらも、やっと一息つくと、「ああー、良かったー」と呟きました。



 
 

 

 


 
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