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24 タイムリミット

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 新米ネズミは工場の休憩所でお昼のパンを食べていた。

 一度、家に荷物を取りに帰ったものの夕方まで何もする事がない。

 ガチャッ、、、。

 「パパイヤ?」
 休憩所のドアが開いて、みみずく先輩が顔を出す。
 「廃棄処分、、申請、出したか?」
 みみずく先輩が言いにくそうに伝言を伝えにくる。

 「いえ、、まだです。」

 「19時までに出せって、リーダーが言ってたぞ。、、」
 

 「はい、、。」新米ネズミは頷いた。


 廃棄処分の申請は出してから、一時間後に機械がが動き出して処理出来るようになっている。
 だから稼働したらその後必ず、荷物を流さなくてはならなかった。
 
 「、、、大丈夫か?」
 みみずく先輩は心配そうにネズミの顔を覗いた。

 「えぇ、心配ないです。」

 新米ネズミには確信があったのだ。
 チュー太郎があの手紙を読めば、必ず荷物を受け取ってくれると思った。

 だから廃棄処分申請は出す必要が無いと勝手に思い込んでいたのだ。


 荷物をまだ届け終わっていないのに、新米ネズミはもう一仕事、終えたような気分になっていた。





 _________________ タイムリミットは迫っている。


 夕方より前に、新米ネズミはチュー太郎宅へと向かうことにした。

 アヒル池までの道のほとりには、一面に真っ赤な彼岸花が咲き並んでいた。
 初めてチュー太郎宅へ荷物を運んだ時にはまだ生えてもいなかった気がする。
 
 季節の移ろいを感じて、少し寂しいような気持ちになった。

 
 逸る気持ちを抑えつつ、ネズミはいつもの空き地にバイクを停めて、エンジンを切ってスタンドを下ろす。

 どうやら奥さんは外出していて誰もいないようで、家の中は静まりかえっていた。

 しばらくネズミはその場に腰を下ろしてぼんやりとチュー太郎宅を眺めていた。

 
 風が吹くと少し肌寒いものの、昼下りの太陽はポカポカと体を温めてくれる。
 しばらくその陽だまりに身を任せて、少し眠くなってウトウトとした。



 
 ふいに冷たい風が吹いて気が付くと、日が暮れかけようとしている。

 腕の時計を見ると、17時半を指している。
 新米ネズミは、はっとする。
 悪い予感が一瞬浮かぶが、その思いを掻き消そうと頭を振った。


 いつもならこの時間には、チュー太郎の奥さんの作る晩ごはんの良い香りが鼻を楽しませてくれるのに、今日に限っては部屋は暗く、静まりかえっていた。

 新米ネズミは鼓動が高鳴るのを感じる。

 寒気がして、暑くもないのに頬に汗が滲んだ。


 コスモス畑から行き交う赤トンボ達は、 騒がしく、飛んできてはあちこちに行ったり来たりしていた。

 時間が迫っている中、このまま何事もなくチュー太郎夫妻が帰って来る事を一心に願った。



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