俺に7人の伴侶が出来るまで

太郎月

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帰結編

テオドール

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北部地方最北部では雪籠りが始まっていた。
殆どの人々が越冬の準備をして家の中に閉じ籠る。

この時期は、不思議といつも以上に大地が静かな気がする。

雪や風は常に轟々と音を立てているのだが、生きた命の気配がないと、世界が兎に角静かになったように思う。

テオドールは豪雪の中をひた走る。
人の気配がないから、いつもならば避ける村や町、整備された道も突っ切った。
その足元に黒く細長い影が付いていく。

積雪の上さえ難なく走る2つの影は、白樺の群生地帯へと飛び込んだ。雪の上に並ぶ大小の足跡はすぐに雪で潰される。

太陽は厚い雪雲で覆われており、世界は灰色だった。
無数にも思える白樺の木々は美しくも無機質で、景色も殆ど変わらない。


(………世界に俺だけって感じ)


足を止め、顔隠しと冷気防止でつけている黒い口布を下ろす。
唇が凍りそうな程に寒い筈だが、テオドールの体に異変はない。

上を見上げて立ち止まったテオドールの足元に黒い影が寄り添う。

「……お前が居たな、クロスグリ」

見上げて来るキュウビを抱き上げた。

魔王戦後、キュウビに名前を付けることにした。リコリスに合わせて植物から貰おうと思っていた所、リパが温室に招いてくれた。
様々な植物の間を細い足で歩き回っていたキュウビが気に入ったのは、黒い実のカシスだった。
突然食べ始めたのでテオドールは焦ったが、リパは気にしてなかった。個人で飲むリキュール用に栽培しているだけで、仕事には使わないらしい。

『カシスは西部や西公国ではクロスグリと呼ばれております。花言葉も愉快なものでして……この子にお似合いなのでは?』

リパは実が付いた枝を躊躇いなく折り、テオドールへ差し出した。


『この子、貴方に嫌われたら、もう生きてはいけないでしょう』


調べてみたら『あなたに嫌わられたら私は死にます』と言う花言葉があった。他にも『私はあなたを喜ばせる』や、『あなたの不機嫌が私を苦しめる』も。
総じてキュウビに合っている気がした。

成っている実はまだ沢山あるのに、わざわざテオドールの手に握られたカシスの実を欲しがるキュウビを見ていたら、そんな気持ちになった。

キュウビという名前が西訛りだったから、それに合わせてクロスグリと名付けたのが先月のことだ。

クロスグリは抱き上げられると自らするりと肩に登り、首元に巻き付いた。

温かい生き物の気配。

(本当は、ジンにも相談したかったんだけど)

帰ってこないのだから、どうしようもない。

ふうと白い息を吐いた瞬間、キュウビが小さく唸り出した。
間をおかず、上から落ちてくる影が目の前に着地した。

黒いマントが風で煽られ、冬の北部では信じられない程の薄着の装備が見える。



「────ジン!」



呼ばれるとジンは両腕を広げた。駆け出し、胸に飛び込む。クロスグリは肩から飛び降り、いつの間にか白樺の木の間に現れたフィルの近くへと逃げて行った。

クロスグリを地獄から救ったのはジンなのだが、一度向けられた殺気が忘れられないようだ。
それでもジンとの時間を邪魔したりはしない。

強く抱きしめ、ジンの存在を確かめる。温かい、生き物の気配。愛おしい存在。

「遅くなってごめんな、ただいまテオ」

擦り付けるように首を振る。

「おかえり、ジン」

お決まりのキス。ジンに触れると、自分の肌が冷えていた事に気付く。

唇を離してすぐ、ジンは言った。

「テオ、少し出掛けないか。リパさんから許可は貰ってるから」

「え?………良いけど…」

唐突な誘いに驚きつつも、断る理由もないので頷いた。




.
.
.




「ドラゴ、ありがと。帰りにまた呼ぶから、迎えに来てくれ」

「またか!!最近のジンはワガママ!フィルとクロも置いて行った!!」

空の上でキュウビの名付けを教えた。ジンは「良いね、美味そうで」と褒めてるのか分からない事を言い、ドラゴは即座に略して覚えた。

「そう言うなよ。偶にはテオを独り占めさせてくれ。お詫びに今日はご馳走パーティーだ。帰りに何か買って帰ろうな」

「そうか、お肉とりんごか」

「お前はメニューを決めるのが早くて助かるよ。肉もりんごも山程買って帰ろう」

納得したのか、ドラゴは嬉しそうに鼻歌混じりに小さな姿のまま飛び上がり、スッと空に溶けるように消えた。

(独り占め、だって)

何気なく言われた一言がこんなにも嬉しい。
ジンは分かってるのだろうか。

振り返るジンが手を差し出した。

テオドールは微笑んでその手を取る。

(……みんなと同じ形で婚姻できるように、ユリウス卿が俺の身元引受人になってくれたけど、俺は、このままでも幸せだよ)

死者であるテオドール、孤児のテオ。
リパに連れられ参加した新年のパーティーは特例だった。本来なら出自不明の孤児は参加出来ない。
同じ理由で、ジンと婚姻したとしても記録は残らない────筈だった。

そこをユリウスが手を回した。

テオドールを引き取り、ウォーリア家の執事として雇用したと言う記録を作ったのだ。

実際にユリウスの屋敷には住まないし、テオドールのリコリスとしての仕事も教えてはいない。それでも良いと、ユリウスは頑なだった。
駄目元でリパに相談すると、予想外な事に二つ返事で了承したのだ。

元々、孤児のテオがジンの恋人なのは世間にバレてしまっていて、隠れ蓑になる表向きの身分が必要だった。

そこにユリウスからの提案だ。

リパからすれば、テオドールが何らかの痕跡を残した場合でも、ユリウスへと疑いの目が向くのなら悪くないと思ったのだろう。

(流石は王族の傍系を暗殺した人なだけある)

使えるものは何でも使う。権威も身分も関係ない。だからと横暴さは表に出さない。

テオドールは繋いだ手の先を辿り、少し前を歩くジンを見た。表面は全く似ていないのに、根っこの部分はよく似ている師弟だと常々思う。

視線に気付いたジンが振り返り、目を細めて、空いている手でテオドールにフードを被せた。
その後、ジン自身もフードを被る。

目的地が近いのだとそれだけで分かる。

空にはどんよりとした雲が立ち込めており、テオドールは暗い森の中を見渡す。
冬の静けさ。それでも北国よりは暖かく感じる。

と言っても、ジンから『体温維持』を付随しているのでテオドールの言う暖かいはジンと同じく当てにならない。

そんな2人の足元を、冷たい風が吹き抜けていった。
森の切れ目が見え、空が視界に広がる。
山の峰が薄墨で描いたように遠くに見えた。
ジンが足を止めたのは、崖の先端だ。

風が吹き上げる足元を見下ろす。山間に屋敷が見えた。大きくはないが、頑丈そうで立派な造りだ。屋敷の前は広く、傭兵達が訓練している。
冬の空に熱気を放つ、男達の声が響いていた。


「……ここって」


テオドールが隣のジンを振り返る。フードの隙間からジンは微笑み、指を伸ばす。

素直に指の先へと視線を向け直す。遥か下方に広がる光景だが『感知』魔術を目で使えば、問題なくジンが指し示したものが見えた。所謂、『千里眼』と呼ばれる魔術だ。

訓練する男達の中、屈強な赤髪が1人いる。右袖が肩の辺りで結ばれていて、男が隻腕だとすぐ分かる。だが、男は剣を構える若い男に指導をしているようだった。

「………叔父上」

テオドールの叔父であるクライブ・ハヴィだ。
ここは、この屋敷は、子爵家として再出発したハヴィ家の新しい住処。
侯爵時代より、傭兵も、使用人も少ないようだ。

それでも活気は、テオドールが良く知るハヴィ家のものだった。

「……叔父上って、本当にじいちゃんに似てんだな」

クライブの豪快な笑い方も、剣術の構えや指導の仕方も、思い出の祖父と重なって見える。
その逞しく広い背中で揺れる、尾っぽのような長い襟足は、かつてテオドールの背にもあったものだ。

懐かしさと悲しさが、すっきりとしたうなじを少しばかり冷やす。

クライブがふと、何かに気付いた様子で屋敷の方へ顔を向けた。周囲の傭兵達も動きを止め、同じ方角を見ている。自然とテオドールも目を向ける。

メイドが小さな子供を抱き上げ、クライブの方へと歩いていく。
子供はクライブへと短い手を伸ばし「あー」とか「うー」とか言葉にならない声を発していた。

「……うわ、おっきくなってる」

甥っ子のエディだ。最後に見た時、ベビーベッドで手足をうごうごと動かすだけの乳児だったのに。
もうしっかりと首が座っていて、力強く体を跳ねさせている。

クライブは相好を崩し、エディの前へと歩いて行った。
周囲の傭兵達も集まって、和やかな賑わいを作り出す。

エディはクライブにまた手を伸ばす。

「おっちゃんは汗だくだからな、抱っこは後でな」

小さな手を摘むと、エディはクライブの太い指を掴み返す。ゆっくりと揺らされても離さない。

「そんなおっちゃんとか言ってると、本当におっちゃんって呼ばれちまうぜ。旦那様」
「そうですよ、ちゃんと親父だってアピールしとかないと」

周りからの声に、クライブはぐっと顔を顰めた。

「いや、もう親父って歳じゃないからな」

「どっちかと言うと爺さまだ」

「今誰が言った!?」

誰かの揶揄う声にクライブが声を張る。「そうだけどよ!そうだけども!」と、クライブが続けると笑いが起こる。

エディは何も分かってなさそうな顔でクライブを見詰めていたが、また手を伸ばす。

「だっ」

「「「「「え?」」」」」

エディの放った一音に全員が驚いて止まった。

「だ、だあ、だあ」

続く言葉に抱っこしていたメイドの目が煌めく。
喜びが伝播するように笑顔が広がり、視線がエディからクライブへと集まる。

「…エ、エディ、お前、俺をダアと…」

クライブは顔をぐしゃりと歪め、エディを片腕で抱き締めた。

「そ、そうか、そうか。お前はダアと呼んでくれるのか。だったら、ちゃんと親父をしねぇとな」

「だあ、あ、むー」

片腕なので誰かの支えがなくては抱き直しも難しい。それでもクライブはしっかりとエディを腕に座らせ、エディもクライブに身を委ねた。

「聞いたか!エディが俺を親父と認めたぞ!俺は今日からエディの親父だ!!」

「エディ坊が認めたなら仕方ねぇな、親父認定おめでとうございます」
「そうだな、エディ坊ちゃんが言うならそうなんだろ」
「素直におめでとうって言いましょうよ」
「嫌味なジジイは嫌われますぜ」
「わしらにとったら旦那も坊ちゃんみたいなものだ」

傭兵達の口も軽い。よく見れば父バートランドが追い出した古株達も多く戻ってきていた。好き勝手に言っているが、全員がクライブとエディへ祝福を送っていた。
温かな幸福感で満ちている。彼らは力強く、冬の曇天の下だと言うのに、明るい陽の中で笑っているようだった。




それは、テオドールの胸を締め付けるのに充分な光景だ。




思い出が一気に駆け巡る。
祖父アーノルドと過ごしたあの幸せだった日々。陽光の下で刃を光らせ、汗を飛ばして祖父と剣を交えた日々。孫可愛がりを揶揄われながらも、隠す気もなかった祖父の笑顔。

そこに入り込む、白く細い霞草のような母の姿。祖父の手に引かれた汗まみれの自分を、柔らかな布で包んでくれた母。

あの眩しい日々は、確かに存在した過去で、もう二度と訪れない幸福だ。
まるで古びた絵画が、勝手にパラパラと捲られていくような感覚。

「…………ちゃんと、家族やってんじゃん」

ぼんやりとしたまま呟いたら、抑揚のない声が出た。遅れて「良かった…」と安堵が漏れた。

吹っ切れたつもりだった。ハヴィ家の結末は、もう気にしないと心に決めていた。
これから関与することがないから。
あるとしたら、誰かが暗殺を依頼した時か、その暗殺者への暗殺をリパが判断した時だろう。

だから、ジンが何を意図し、ここに連れて来たのか分からない。

この幸せな光景を見せて、俺に何を伝えたいのだろう。

ジンを見た。ジンはクライブ達を見ていたが、合わせるようにテオドールへと顔を向ける。
また微笑んだ。スッともう一方の手を取られ、向き合うように前に立った。

クライブ達が見えなくなる。先程まで聞こえていた声も聞こえない。まるでジンが全てを遮ったように。

そっと左手を持ち上げられ、指先にキスされた。





「これからは、俺がお前の家族だ」





鼓膜は確かに揺れた。だけど言葉が脳に届くまで、数秒掛かってしまう。心臓だけはいち早く何かを察し、どくどくと強く鳴り響く。

「…………え?」

やっと口から押し出した声は、一音なのに震えている。

「お前も幸せになって良いんだ。例えそこが世界の裏側だとしても。今のままでも良いって、お前は言うかもしれないが。もっと欲張って良い。特に俺の事に関しては」

赤褐色のジンの目が、いつになく真剣で、散った火花が俺の目や心に焦げ付くようだ。

「前みたいに、俺を欲しがって」

「………ほ、欲しがってるよ。ずっと」

首裏がむずむずする。いつものジンじゃないみたいだ。
まるで人生で一番大事な瞬間みたいな、そんな覚悟を感じてしまう。

「本当?じゃあ、俺側の問題か」

「ジンの問題…って」

「足りない。今のままじゃ。だから」

ジンが左手を離した。俺の右手は解放された。俺はずっと動くジンの左手を見ていた。空中でパッと何かを掴んだ仕草をして、そのまま俺に差し出した。




「結婚してくれ、テオドール」




真っ黒な光沢のある布で包まれたケース。蓋の裏には彼岸花の刺繍。その中で煌めくのは、シンプルな銀の指輪だった。

「結婚して、お前と言う存在を刻んで欲しい。俺の名前と共に。あいつらの名前と一緒に。────俺の、愛の証明として」

心臓が、はち切れそうだ。
でもそれは、ジンも同じみたいだった。

ジンの顔も赤くなっていたから。

「………うわ……え、…あ、マジ…?」

こんなにしどろもどろな対応。リパさんに見られたら怒られそうだ。
でも仕方ないと思って欲しい。まさか、ジンがわざわざしなくても良いプロポーズをするなんて、夢に思わなかったんだから。

「マジ中の、マジ。……指輪の内側に、俺の目に合わせた赤い宝石を嵌め込んでる」

手を一度離された。しまった。ちゃんと自分で受け取るべきだったのに。
後悔していたが、指輪を取り出したジンが優しく左手に握らせてくれた。

指先で握り、内側を見た。曇天の下でも輝く、血のように赤い石。

「………本当に、お前の目の色みたいだ」

「だろ。それ作るのに、思ったより時間掛かってさ」

「作る?………宝石だろ?作るって何?」

チカチカと艶やかな赤は見飽きないが、ジンの思いもよらない言葉についに目を離した。
ジンは俺の左手と指輪を取って、薬指にスッと嵌めてくれた。あまりにもさりげない動作で、照れる暇もなく、遅れて喜びが全身をくすぐってくる。

「"ラストブラッド"って言う、とんでもなく透明度の高い魔晶石にドラゴンの血を吸わせて作る魔宝石なんだ。自然に出来るのはドラゴンの生息が必須条件らしくて、そりゃ幻になるよなって」

「……………ドラゴンの血?え?それってつまり、ドラゴ……」

「うん、ドラゴの血」

意味が分からず、喜びが波のように引いていく。

「………………喜んで良いのか、分かんなくなった」

「なんで」

「いやだって、この宝石の為にドラゴが血を流したって事だろ!?」

「それはまあ、そうだけど……ちゃんとドラゴの協力の元に作ってるからな?作り方を聞いた時、諦めかけたんだ。流石にわざと怪我させんのは気が引けるから。でも一緒に話聞いてたドラゴが、やるって言ってくれて………なんかすげぇ言い訳みたいだけど、マジだから」

「お前が無理やりドラゴを傷付けたりしねぇのは分かってるよ。ただ、ドラゴの血で出来てるって聞いたら………イルラとか、ギルとか、すげぇ嫌がりそう…」

「よく分かってんな。そうなんだよ、だから内緒にしてくれ」

「え?」

「アイツら2人は絶対怒る。別に俺が怒られるだけなら良いけど、指輪を見る度に胸を痛めそうでさ…ノイズみてぇな情報はなるべく避けたい」

「……俺には何で言ったの。黙っといても良かったじゃん」

「お前なら納得してくれるだろ。ノイズにならないなら、知ってて欲しい。ドラゴの血が使われてる事。頑張ってくれたドラゴの事。この石はドラゴと俺とフィルで、協力して作り上げたって事をさ」

「……お前らの集大成って訳だ。そりゃ、まあ何か言った所で過ぎた事だし……指輪は素直に嬉しいよ。今まで見た中で、一番お前の目に近い色だし…」

「ドラゴも喜んでくれた。上手く出来た時、一番はしゃいでたしな。出来たばっかの石持って飛び回るから、落ち着かせるのが大変だった。そんで、ドラゴとフィルの装飾品も作って貰ってる。何なら、そっちの方が指輪の石よりデカい」

「喜んでんだ、ドラゴ。装飾品は良いな。俺らともお揃いだ」

「そう、ドラゴとフィルもみんなとお揃い。いつも身に付けられる訳じゃねぇけど、目に見える繋がりがあるのは嬉しいもんだな」

言いながら、ジンが左手の甲を見せた。いつの間にか薬指に銀の指輪が嵌っている。
思わず左手を伸ばす。ジンが手をひっくり返し、掌で受け止めてくれる。サイズ違いの手を重ねた。

指先を絡め合うように握り合う。カチリと指輪が鳴る。揃いの指輪が。

俺は嬉しくて、頬が緩んだ。
満足して、ジンの薬指を撫でるように手を離す。

「でもさ、」

「うん?」

名残惜しそうに撫で返してくるジンの指がくすぐったい。結局握り返し、俺は身体を反転させ、ジンの胸の中に収まった。
腹の前で手を握り、後ろのジンを見た。

「ドラゴがバラしそうじゃね?この宝石は、オレ様の血で作ったって」

「俺もそう思う」

「じゃあ全然意味ねぇじゃん!」

あまりにもあっさり返されて、思わず笑ってしまった。
ジンの手が腹を抱いた。背中をジンの体温が包み、暖かい。

「口止めはしてんだけど…まあ、そん時はそん時。ドラゴから聞いたら印象も違うだろうし。俺から聞かされるより納得しやすい筈」

「珍しく弱気じゃん。秘密主義者だった男はどこ行ったんだよ」

「お前らに隠す事なんて、もう何もねぇからな」

笑ったジンの髪が風で揺れた。
至近距離で見ても、何度見ても、俺はジンの顔に見惚れてしまう。

恥ずかしい事に、ジンは見惚れられる事を分かっている。

見惚れる俺の頬にキスをして、ゆっくりと俺を押すように歩き出した。
何だか悔しくて、照れ臭さもあって、俺はポツリと聞いた。

「……でも、石のことは隠すんだろ?」

意趣返しのつもりだ。

「それはそれ、これはこれ」

「適当すぎるだろ」

また笑い声が出た。

俺の足は、ジンと一緒に歩いていく。
陽の下で笑える日などなくても良い。


揃いの指輪が時折ぶつかって、カチカチと鳴る。


ジンさえいれば良いと思ってる。
だけどまだ、俺の周りにも俺を俺のまま受け入れてくれる仲間がいる。
同じ石を持つ仲間が。

それが嬉しいのも、事実だ。

冷たい風が吹いて、火照った頬の熱とフードを攫っていく。赤髪が揺れた。




「なあ、ジン」

「うん?」

「愛してるよ、一生」




全部全部、お前のおかげだ。

さっきのプロポーズ、ろくな返事も出来てなかった事に気付いて、俺はありったけの想いを込めた。
声に、顔に、態度に、出ていれば良いけど。


覗き込むように顔を見ていたジンは、突然膝から崩れ落ちた。
東部の土は雨が多いので柔らかく泥濘みやすい。だがジンが足が取られるとも思えない。

ジンはしゃがみ込み、片手は俺の手を掴んだまま、もう片手で顔を覆い隠していた。

「な、なに??どうした??」

「…………俺より決めてくんのやめて…勝てねぇから…」

「え?何が??」

よく見るとジンの耳は真っ赤になっていた。
プロポーズの返事をしただけだ。俺がジンを好きな事なんてもう分かりきった事だろうし、会う度に好きだと口にしてしまっているのだから、慣れてると思ってた。


俺が困惑していると、唐突に立ち上がり、キスしてきた。


そっちの方が照れる。もしかして、分かっててやってるのか、と思った次の瞬間、



「俺も、愛してるよテオ」



囁かれた低音に思考が停止した。
本気で何も考えられず、暫く真っ赤なジンを見つめたまま固まっていた。


「え?」と間抜けな声が、俺の口から出た瞬間、ジンは逃げるように背を向けた。
手を繋いだまま、歩き出す。

「やっぱ、いきなりは無理だ」

とかなんとか、聞こえた気がする。そのままジンは指笛を鳴らした。

俺はようやく、本当に段々と意味を理解し、徐々に身体が熱くなった。今聞いた言葉が現実だった事に心が震え、どうしようもない幸福感に言葉が出ない。

引き摺られるように歩き続け、ドラゴが迎えに来た時にやっと止まった。




ドラゴは俺達の顔を不思議そうに見た後、「茹でたか!!!」とクソデカい声で言った。




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