俺に7人の伴侶が出来るまで

太郎月

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学園編 1年目

男爵家男孫の入学式8

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重厚な応接室のソファに座り、対面のソファで作業しているロキを眺めていた。フィルはジンの足を枕に床に寝ており、ドラゴはローテーブルの端で丸まって休んでいる。

あれだけの時間を使って話し合ったのに、登録自体は5分とかからず終わってしまった。
用意された魔水晶に人と魔物それぞれの魔力を流し、登録申請書に名前を書くだけ。

制御魔法の類は明日以降に時間を見つけて、学園長自ら施してくれることになった。

「一朝一夕で出来るものではないからのう」

だそうだ。

「ジン・ウォーリア、腕を出せ。どちらでも構わない」

「ん」

ロキに言われ、従順に左腕の袖を捲って差し出す。ロキの手には細いプレートのような魔晶石が握られていた。
腕に翳されると微かに魔力を感じる。

「これは?」

「従魔登録印だ。普段は見えないが魔力を込めれば浮かび上がる。教員達はこの登録印から詳細を知れるから、何か言われたら登録印を確認するよう言いなさい」

翳し終えたプレートを持ち上げると、レタリングのような魔術文字が残っていた。青く発光していた文字は肌に馴染むように消えて行く。

「へえ…」

何かと使えそうな魔術だ。試しに腕に魔力を流せば、再び青白く文字が浮かび上がった。

「これで今日は終わりだ。寮部屋の変更手続きもすぐに済むだろう、寮の管理人に伝えておくから寮館に着いたら管理人室へ行くように。…教室までの道は分かるか?」

書類や道具を片付けていたロキが顔を上げる。グラスコードと共に長い髪が揺れた。

「あー…多分」

「案内が必要ならば誰か呼ぶが」

「いや、いい、大丈夫。それより…フィルとドラゴを預かって貰えませんか」

「預かる?どうかしたのか」

「最後の悪あがき。こいつら連れて歩き回ったら色々言われるか聞かれるか、逆に遠巻きにされるかしそうじゃん。今日くらい何事もないまま終わりたい」

「…それは良いが、お前、時々敬語が抜けてるぞ」

「そう?先生と仲良くなりたい気持ちが先走ってんのかも」

「ナメてるとしか思えんな」

「フィルは俺と仲良い人に懐くんだ」

「………」

足元のフィルへ「な」と同意を求めるように顔を近づける。フィルは嬉しそうに尻尾を振りしきり、返事のように息だけで「わふっ」と言った。
ロキからは返事がない。不思議に思いロキの顔を覗き込むと、眼鏡の奥で紫の目が非常に複雑そう且つ不機嫌そうに顰められていた。しかし何も言ってこない。恐らく内面で自分の権威維持を取るか、フィルからの好感度を取るかで悩んでいるのだろう。

(どんだけフェンリル好きなんだよ。可愛い人だな)

笑いそうになるのを耐え…られず、口元が緩んだまま再度問い掛ける。

「なあ、先生預かってくれる?寮に行く時に迎えに行くからさ」

声も若干弾んでしまう。ロキは眉をきつく寄せたまま、眼鏡を押し上げ目線を逸らした。

「…寮まで連れて行ってやろう。管理人室に迎えに来い」

「マジ?ありがと」

「ございます」

「はは、ありがとうございます」

全然反省してないのがバレてるらしく、ロキは益々不機嫌そうに眼光を鋭くするが、やっぱりフィルを見る目は優しい。

「じゃあ、また後でな。お前らは賢いから先生に迷惑なんてかけないよな」

「あたりまえだ」

「くうん」

自信満々のドラゴと寂しがるフィルをロキへ託し、ジンは廊下へ出た。
教室へと戻りがてら、折角ならばと城の名残が色濃い学園内を軽く見て回る事にした。

深紅の絨毯が敷かれた廊下は馬車が走っても余裕がありそうな程に広々としていて、扉の数も数えるのが馬鹿らしいくらいにある。魔法文字の案内板がなければ本当に迷いそうだ。

今居るここは職員塔と呼ばれる場所で、教員達の部屋しかないようだ。会議室などが別個に用意されていて、普段はそれぞれ個室で過ごしているらしい。
物音一つしないのは防音されているからなのか、まだ教員達が戻って来てないからなのか分からない。
人の気配が露ほどもしないから。

向かってる教室塔と将来神官になる奴らが通う神学塔の屋根が窓から見える。
ここにはまだ騎士になる奴らが通う騎士学塔、魔術学の実技室や訓練所などが纏められた特別教室塔などもあるので、全貌を把握するのに多少時間が掛かりそうだ。

(どこもかしこも綺麗に掃除されてるが、誰がしてんだ)

渡り廊下の窓さえも埃一つない。道中に飾られている花も瑞々しく、花弁の一枚も落ちていない。

(じいちゃんとばあちゃんが通ってた時は王宮より美しいと言われてたらしいけど、今もその美しさは健在みてえだよ。まあ王宮の中を知らねぇんだけど)

遠く離れた北部の祖父母へ思いを馳せつつ、教室塔へ戻って来た。
職員塔と違って人の気配で一気にざわつく空気を感じる。
時刻は午後前、入学式だけの今日は既に放課後のムードが漂っていた。
見た目がでかい所為か、廊下を歩むと至る所から視線を集めるが気にせず自分の教室へと戻った。
開け放たれている扉から入った瞬間、クラスメイト達の目線が一斉に向けられて妙にそわつく。

(入って来る人間がそんな気になるのか)

自分のクラスなので堂々と机の間を通る。既に幾つかのグループが出来上がっているし、何名かは既に帰っているようで人数は明らかに減っていた。

不意に教室の後ろで固まっていたグループからハンスが飛び出して来た。

「ジン、どうしたんすか?なんかあったんすか?」

「ハンス」

「式の前に居なくなっちまうし、戻って来たと思ったのに全然教室に帰って来ねぇし」

「ああ…ちょっと野暮用というか…」

「リエバ先生はジンが居ないことに対して何も言わないから皆不思議がってたっす」

「そ…「一緒に居たのって高等魔術師のロキ先生だよな」

答えようとしたら飛んで来た突然の横槍。ジンとハンスは同時に声の方を振り向いた。
赤髪の男子生徒が立っている。身長はハンスよりも少し大きいくらいで、ジンよりは頭一つ小さい。気が強そうな顔立ちに赤い髪は良く似合っている。ただ、怪訝そうにも、困ったようにも見える表情は、髪色とは真逆の真っ黒な瞳のせいだろうか。

「ロキ先生とは知り合い?」

赤髪が重ねて問い掛けてくるが目線は合わない。ジンの眉も寄る。

「なんでそんな事聞くんだ」

「え」

「なに?」

質問に質問を返されて赤髪は驚いて、ジンの目を見上げて来た。漸くしっかり目が合った気がする。
暫く無言で見詰めあった後、たじろぎ後ろに下がったのは赤髪の方だ。

「…何でもない、少し、気になっただけだ」

目線を逸らし赤髪は踵を返した。
正面からだと分からなかったが、長い襟足を首の後ろで一つに結んでいた。炎の棚引きにも見えるし、揺れる尾にも見える。

「…ジン、ハヴィ家と仲悪かったりするんすか?」

「えっ?」

「何でそんな冷たいんすか…?」

「え、俺冷たかった?単純にマジでなんでそんな事聞くんだろうって思っただけなんだけど」

「ええ…」

「そうか、今のは冷たいのか」

「まあ…ジンの場合、顔のせいもあるとは思うんすけど」

「顔はしょうがねえじゃん、顔は諦めてくれよ」

ここにいるのは2歳年下ばかりなのだから、少し気をつけるかなと明日には忘れてそうな心構えをほんのりと持つ。席に座りながら、机の横に立っているハンスを見上げた。

「なあ、ハヴィ家って?」

「今の奴の家っすよ。テオドール・ハヴィ。位は伯爵。魔術と剣技を混ぜた戦い方を得意とするソードマスター家系の三男。ハヴィ家の剣士が騎士や聖騎士に叙任されることは珍しくないし、王族の降嫁先に名前が上がる事もあるらしいっす。かなり遠縁にはなるっすが一応王家の血が入ってるとかなんとか。あんまり偉そうにしない貴族として領地は勿論、平民からの人気は結構高いっすよ。あの赤い髪はハヴィ家の象徴みたいになってるっす」

「はあ…魔法剣士か」

「その呼び方嫌われるから辞めた方が良いっすよ」

「は?…なんで」

「よく分かんねえけどハヴィ家の領地では禁句みたいな扱いになってるっす。やなんでしょうね」

「ふーん…確かに響きが嫌な呼び名とかあるもんな。気を付ける。…あいつ、魔術の事でなんか知りたい事でもあったのかな。ロキ先生との間(あいだ)取り持って欲しかったから俺に知り合いかどうか聞いたとか」

「そうなんじゃないっすか?ロキ先生は堅物で有名っすから、自分から声掛けんのは躊躇ってんでしょうね」

「かたぶつ…?」

「ロキ先生、国に8名しか居ない高等魔術師の肩書き持ちなんすけど魔塔に所属してない変わり者で。魔術の事以外興味ない人嫌いらしくて、なんで教師やってんのか分かんないって…あれ、ちがうっすか?」

「……カタ、ブツ…?」

片言で繰り返すジンを見てハンスの頭の上には?マークが飛び交った。噂と違うことはままある事だが、ジンの様子だとただ違うと言うことではなさそうだ。
しかし呆けたようなジンの様子を見てると、深く聞かない方が良い気がしたハンスは質問を変えた。

「んで、ジンとロキ先生は知り合いだったんすか?」

「いや全然。今日初めて知った」

「そうだろうなって思ってたっす」

「純粋にお前のこと凄いと思う。…はー…ロキ先生も有名人か…俺、明日からやたらと目立つことになりそうなんだけど」

「いやいや、何言ってんすか。もうめちゃくちゃ目立ってるっすよ。クラスの大半がジンの事噂してたし、今更っすよ」

「え」

「そりゃそうでしょ。入学式で居なくなる奴は目立つに決まってんじゃねぇっすか。挙句にロキ先生と再登場するし。他クラスの奴までジンの事、何事だったんだって聞きに来てたっすよ」

「なんでだよ」

「貴族はゴシップ好きが多いっすから」

「最悪じゃねぇか」

ジンは肩を落として机に突っ伏した。ハンスはハハハと乾いた笑いを漏らして、背中を摩ってくれる。顔を埋めた腕から目だけでハンスを見ると、あらぬ方向を見て首を振っている。他の生徒を近付けないようにしてくれているようだった。

顔を戻したハンスと目が合った。
榛の大きな目を細めて微笑んでくれる。

(あー、めちゃくちゃ癒し…)

ハンスも気になるだろうにしつこく聞かず、心を汲んで大きく受け止めてくれているようだ。
出会えて良かった。

(学園、辞める事になってたら唯一の後悔はこいつだったろうな)

腕に突っ伏したままでハンスからは目しか見えないだろうが微笑み返して、背中の手の温かみを満喫する。

1人2人と教室から減っていく。途中で帰っても良かったのに、ハンスはジンと一緒に最後まで残ってくれた。
並んで寮へと向かう時に、ハンスから食堂の使い方や洗濯の方法など寮生活について教えてもらいながら、短くも長い入学式が漸く終わった。
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