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俺様上司の業務手帳
8.能面部下を待ちぼうけ
しおりを挟むいくら俺が渋った所で、本人が承諾したのだから仕方が無いことだとは思う。
思うが。
「…納得いかねぇ…!」
周囲がどんちゃん騒ぎをしている中、1人呟きグラスを握りしめる。
その中身はアルコール…ではなく、唯の烏龍茶。
執拗に酒を勧める部下を軽くあしらいながら彼此約3時間。
苛立ちで若干冷静さを失いつつあるが、今の状態で酔っ払えば、どんな言動を取るかわからないと自覚している。
それに、どうせ飲むなら、彼女と一緒がいい。
そう思いながら、一向に返事がこないスマートフォンを眺める。
30分おきに電話もメールもしているにも関わらず、音沙汰がないのは忙しいからなのか、此れ幸いと逃げられたか…
「倉田くんのこと、心配?」
先程まで宴会の輪に加わっていた部長が、俺の側に座ってきた。
「こんな日まで自ら残業だなんて。よっぽど倉田くんは来たくなかったのかな。」
「…やはりそう思われますか?」
「まぁ、こういう明るい場は苦手だろうね。1人静かに小物とか作ってそうな雰囲気だね。」
やはり、この人はよく見ている。
つか、何故趣味まで分かる。
部長という人はとても視野が広く、先を見越した業務改革を行い、この人が関わった案件は全て業績アップに繋がっているという凄い人だ。
俺が新入りの頃から世話になってるってこともあり、心底信頼している。
「ま。今日のところはタイムオーバーかな。そろそろお開きだよ。2次会もあるけど、絶対来ないだろうしねぇ。」
部長の言葉通り、忘年会は、倉田不在のままお開きの流れになり、俺はぎりりと奥歯を噛みしめる。
尾上も倉田も、週明けに説教してやる。
…全然間に合ってねぇじゃねぇか。
居酒屋の外で2次会の話になったが、当然参加する気にもなれず、独り、駅までの道を歩いていた。
居酒屋が会社に程近い場所だったこともあり、嫌が応にもビルが目に入る。
…開発企画課にも、まだ灯りがついている。
…様子見に行くか…
その時、オフィスの灯りが消えたと同時に俺の携帯が着信を告げる。
液晶に表示されたのは、思い焦がれた待ち人の名前。
急いで通話ボタンを押す。
『すみません、ご連絡頂いたのに返信もできず…ただ今業務が終わりました。』
「…そうだな。こっちもさっきお開きになったよ。」
『………。』
滲む苛立ちを隠せず、自分でも驚く程に低い声が出る。
…落ち着けよ。俺。
「…悪い。急に頼まれた仕事だったし、苦労したろ。お疲れさん。文句は尾上に言うから…気にするな。」
『いえ。私なら平気ですので。』
そう答える声が、少し強張っているように感じた。
…何してんだ、俺は…。自分勝手な理由で八つ当たりなんかして…
「…倉田。ちょうど今灯りが消えたのが見えたんだが、あとどれくらいで出てくる?」
『え?あ…そうですね…15分位でしょうか?』
「飯まだだろ?奢ってやる。急がなくていいから。噴水広場の記念時計の前で待ってる。」
倉田が返事をする前に電話を切る。
…これで、彼女は来ざるを得ないだろう。
会って、勝手にいらついた事を謝って、美味いものを食わせて、倉田の苦労を労ってやる。
それ以上の事はしない。
そう決めた。
決めたのに
公園に来た彼女を見た途端、その決意は崩れそうになった。
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