上 下
6 / 6

6.真実

しおりを挟む

早乙女財閥解体のニュースが世間を駆け巡ったあの日から3日。

今回の主役である早乙女ミヤビは、失踪…とはならず、親の没落で子供に影響が出るのは良くないとで申し出た、とある政府高官に引き取られることになった。
…だが、学校は転校。彼女はほぼ軟禁状態でらしい。
…流石に僕たちももう手が出せないので、不憫には思うけれど。

そして僕は今、アキトの部屋にいる。

「結局、全部アキトを頼っちゃったね。」
「気にするな。俺が好きでやったことだ。」
「あ。そういえば、大貫の兄弟たちに与えた罰って何?僕、内容聞いてないんだけど。」

あ。言い忘れてた。とアキトが言う。

「あいつらなら、近所の教会で1ヶ月ボランティアの刑にした。」
「…ボランティア?」
実家ウチ縄張りシマに、ボロッボロの教会があってな。神父1人じゃ行き届かないとこも多いんで、あいつらに掃除やら雑用やら修復やらをさせてるぞ。」

…まぁ、未遂だったし…いいのかな…?

「あいつら根は真面目だし、若い奴が頑張ってる。って人が集まるようになったらしい。一種の地域活性化ってとこだな。」
「…まあ、世間が平和なら、僕は何も言わないよ。下手に関わるのも面倒だし。」

大きくあくびをしながら、やる気なく答える僕。

「つーかな?フユキ…お前って…」
「…何?」
「…いや。なんでもない。」

くくっと笑うアキト。

………?

「…なんだよ。気になるんだけど。」
「…じゃあ言うが、もし。もしもだ。今回の早乙女に関する一連の流れをな。
姿物事を見ることができない人間がいたら?と思ってな。」
「………は?」

ちょっと何言ってるかわからない。
詳しく説明して欲しいんだけど。

「だからな?例えば挿絵のない小説のように、でしか眺められない人間がいたら、お前のことをどう思うんだろうなって。」
「…全然よくわからないんだけど。」

説明されても理解できない。

本当に訳のわからないことを言うよな…
するとアキトは軽々と僕を抱き上げ、大きな鏡の前へ僕を連れて行った。

「見てみろ。確かにお前は、黒髪ロングので、声も透き通っただ。俺好みののくせして。尚且つ制服マニア垂涎の超有名生徒会長だ。
…だが、一人称はで、普段の口調もし?の腕っ節を持ってる。
男だと勘違いされても仕方ないだろ?」
「…?いや、だから、どこからどう見ても僕は女だから…」
。の話だって。大体、しな。音だけ聞けば男だぜ?」
「…字面を見ればわかるだろ?」
氷山ひやま冬姫ふゆき…な?お前が『エル』って呼ばれて、なるほど。と感心したもんだ。」

『エル』の本当の由来。
それは読んで字の如く、某ディズニー映画に登場する主人公の姉の名前『エルサ』から。
…氷の山の冬の姫って…いや、実際は女王だったか?
生徒会のメンバーが面白がってつけた通り名なのだが、僕的には非常に迷惑してて…
とにかく、全校生徒に知られている『某死神漫画の探偵』という話は、『エル』という名だけを聞きつけた誰かが広めた偽情報だ。
…僕としてはとてもありがたいんだけど。

「…暁人あきとまでその名前で呼ばないでよね…」
「くくっ。悪い。」

笑いながら、暁人は僕を背後から抱き締める。

「…誕生日…だな。」
「…そうだね。」
「18歳の誕生日に、お前を俺の女にする『約束』。」
「嫁じゃなかったっけ?」
「それは卒業したら。だ。…冬姫はいいのか?極道の女になるんだぜ?」
「別に?だって暁人だし。それに、実家がなだけで暁人が跡を継ぐのはだいぶ先の話だし。まだ教師は続けるんでしょ?僕だって、『約束』してから3年待ったんだから…」

高校受験の前に暁人に告白されて3年。
お互いの親も公認で、その時提示されたのが『僕が18の誕生日を迎えるまでは手を出さない』という約束。
その代わり、僕が卒業した日に籍を入れることになっている。
もちろん、主婦にならずに進学するつもりだし、家族も暁人も賛成してくれてる。
くるりと暁人に向き合って、その首に腕を絡めた。

「…今更、やめるなんて言わないでよね?」
「…言うかよ馬鹿。俺だって、今日を待ってたんだからな…覚悟しろよ。」





『約束』の夜は、どうやら長くなりそうだ。と思いながら、僕は全てを暁人に委ね、そして、暁人に堕ちていった





[了]
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...