どうせ明日も雨模様。

とりむねにく

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『父』その背中を、俺は見ていない①

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 西条の実家を売ったという発言に少し戸惑ったが、冷静に考えれば、あれは俺が相続した家だ。他人が勝手にどうこうできるものじゃない。どうせこのおっさんのことだ、俺をアホだと見下して、適当な理由でっち上げて戦わせようとしているに違いない。
「いや、実家は俺がちゃんと相続登記したから俺のもんだ。勝手にあんたが売れるもんじゃない」
「売れるんだよ。僕ならね」
西条は眠そうな顔をしながら頭を掻いて、こう続けた。
「僕は意外と顔が広い。不動産会社に君名義の家を君が売ったことにしてもらうなど造作もない」
西条が少し得意げな顔で言うのでかなり頭にきたが、ギリギリ耐えて冷静に聞き返す。
「もし、それが本当だとしたら訴えるからな。警察とか呼ぶけど大丈夫か?」
 俺がそう聞くと、「何?まだ僕を見下してるの」と西条は鼻で笑う。白衣のポケットから取り出した煙草を咥え、ライターで火をつけた。その瞬間、さっきまで垂れ流していた緩い雰囲気が、殺気のような、鋭い雰囲気に変わり、思わず俺は後ずさりした。
「人成君。君がなぜ警察からこんなにすぐ帰ってこれたと思う?」
確かに、俺は思ったよりも早く出てこれたし、何故か今回のことは強盗事件で処理された。本当は、納得いってなさそうな若い警官の顔も不思議に思っていた。
「まさか、あんたが……」
「そういうこと。僕や君のお父さんが所属していた組織はここまでできる力を持っている」
不動産会社の件はともかく、警察を、国家権力を動かせる力がある。嘘だと鼻で笑って吹き飛ばしてしまいたい。だが、今の西条にはこれをマジだと思わせるほどの凄みがある。
「ちなみに、今回の騒動は君のお父さんが死んだ時、君が任務を拒否した場合のプランのひとつだ。素直に聞いてくれれば、ここも壊さず、家も売らずに済んだのに」
俺がこの一週間で築き上げた『西条鷹影』の人間像がぽろぽろ崩れて、再構築されていく。この説明を聞くに、あの虎はこいつが呼び寄せたもので、家を売ったのも、あの牙吠々々丸という男も、こいつと父が仕組んだものだったのか。ダメだ。真実と煙草の匂いで俺の頭は回らない。
 「さぁ、宿代はこれでいいかな?」
「いや……あっ……っと」
いいわけがない。真実が分かったところで、それを理解出来ている訳じゃない。俺は、気がついたら床に座り込んでしまった。
 「じゃあ、立場逆転だ。人成君」
西条はスクリと立ち上がり、煙草の火を白衣の裾に押し付けた。俺の頭上でさっきまで見下してたおっさんの声が聞こえる。
「僕と一緒にくるか、それとも野宿か」
ここで野宿と答える勇気が、俺には無かった。
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