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『狼』こいつは俺を守るのか?②
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「唯野 人成!俺は君を護りに来た!」
牙吠々々丸と名乗った男は俺の顔を見てニッと笑った。なんの曇りもない爽やかな笑顔だ。
「とりあえずそこのお前!」牙吠々々丸はその虎に向かってビシッと指を指し、「俺はお前を叩き斬る!」と言ったと同時に駆け出した。
辛うじて反応した虎が、体を後方に逸らして躱す。「甘い!」牙吠々々丸がそう言うと勢いよく振り返り、一太刀。虎の体は綺麗に両断され、声にならない声を上げ、塵になって消えた。
「怪我はなかったか?」
牙吠々々丸がこちらに顔を向け、晴れた笑顔でそう聞いた。
「まぁ、無事ではある。……けど、頭がすごく混乱している」
突然の虎、壊れた我が居城、俺を守るという謎の男。そもそも西条とかいうおっさんも結局何かわからない。
「そんな曇った顔をするな。怪我がなかったならそれでいい。今日のところは帰るから、明日また会おう」
牙吠々々丸はそう言うと部屋の穴から夜の闇へと姿を眩ませた。
翌日、俺は牙吠々々丸と会うことは無かった。警察の取り調べで一日中警察署に居たからだ。昨日の夜、警察が来る前にさっさと西条はどこかへ消えた。例のアタッシュケースも無かった。
俺が家へと帰れたのは二日後だった。
この件は何故か強盗事件という形で処理された。俺の取り調べをしていた若い警察官は釈然としない顔で俺にそう言ってきた。
「いやぁ、大変だったね唯野君。聞いたよ。強盗だって?」
俺が家に帰って一番に声をかけてきたのは初老の男性だった。大家さんだ。話によると、このアパートもボロかったしこれを機に取り壊しが決まったらしい。
「大変だとは思うけど、一ヶ月以内に退去をお願いするよ」
「分かりました」
別れ際に「穴は木の板を貼り付けて塞いである」と言われたので少し安心して壊れそうな木製のドアを開けた。
「おう。遅かったな」
部屋の中に西条がいた。呑気に寝転んで漫画を読んでいるその姿を見ると、ふつふつと怒りが湧いてきた。俺が二日警察のお世話になってる間こいつは何をしていたのだ。挙句、俺の部屋に勝手に入って勝手に俺の漫画を読み、よく見たら俺の部屋で携帯の充電もしている。しかし、ここで怒って怒鳴りつけては、こいつの予想通りの行動をしてしまうことになる。それはそれで癪だ。俺は頭の水が沸騰しないように火を消した。
「ここの退去が決まった。俺は実家に帰るから、お前も好きなとこに消えてくれ」
「え?どこに帰るって?」
「実家だよ。東京にある」
俺はタンスを開けて、旅行の時に使ったキャリーケースを探し始めた。とりあえず荷物をまとめて、冷蔵庫や本棚は西条と一緒に捨てていこう。そうすれば引越し業者を頼まなくて済む。
キャリーケースをタンスから引き出し、あらためて部屋を見てみると二日ぶりの我が家は、なんだか物足りない。いや、物がない。冷蔵庫も本棚もちゃぶ台も見当たらない。
「いや!おかしいだろ!家具が一個も無い!」
俺は寝転がっている原因を引っ張り起こし、問い詰めた。
「どういうことだ西条」
「いや、どうもこうも、捨てたよ。君が警察から帰ってきたら引っ越すつもりだったし」
「確かに捨てるつもりではあったが、断りを……って、なんでお前が引っ越すつもりなのに俺の家具を捨てるんだ?」
俺は最悪の答えを頭に浮かび上がらせた。
「まさか、実家についてくるつもりじゃないだろうな」
そう言うと西条は首をフルフル振ってこう言った。
「君の実家ならもう無いよ。僕が売っぱらったからね」
予想した最悪をこいつは余裕で越えてきた。
牙吠々々丸と名乗った男は俺の顔を見てニッと笑った。なんの曇りもない爽やかな笑顔だ。
「とりあえずそこのお前!」牙吠々々丸はその虎に向かってビシッと指を指し、「俺はお前を叩き斬る!」と言ったと同時に駆け出した。
辛うじて反応した虎が、体を後方に逸らして躱す。「甘い!」牙吠々々丸がそう言うと勢いよく振り返り、一太刀。虎の体は綺麗に両断され、声にならない声を上げ、塵になって消えた。
「怪我はなかったか?」
牙吠々々丸がこちらに顔を向け、晴れた笑顔でそう聞いた。
「まぁ、無事ではある。……けど、頭がすごく混乱している」
突然の虎、壊れた我が居城、俺を守るという謎の男。そもそも西条とかいうおっさんも結局何かわからない。
「そんな曇った顔をするな。怪我がなかったならそれでいい。今日のところは帰るから、明日また会おう」
牙吠々々丸はそう言うと部屋の穴から夜の闇へと姿を眩ませた。
翌日、俺は牙吠々々丸と会うことは無かった。警察の取り調べで一日中警察署に居たからだ。昨日の夜、警察が来る前にさっさと西条はどこかへ消えた。例のアタッシュケースも無かった。
俺が家へと帰れたのは二日後だった。
この件は何故か強盗事件という形で処理された。俺の取り調べをしていた若い警察官は釈然としない顔で俺にそう言ってきた。
「いやぁ、大変だったね唯野君。聞いたよ。強盗だって?」
俺が家に帰って一番に声をかけてきたのは初老の男性だった。大家さんだ。話によると、このアパートもボロかったしこれを機に取り壊しが決まったらしい。
「大変だとは思うけど、一ヶ月以内に退去をお願いするよ」
「分かりました」
別れ際に「穴は木の板を貼り付けて塞いである」と言われたので少し安心して壊れそうな木製のドアを開けた。
「おう。遅かったな」
部屋の中に西条がいた。呑気に寝転んで漫画を読んでいるその姿を見ると、ふつふつと怒りが湧いてきた。俺が二日警察のお世話になってる間こいつは何をしていたのだ。挙句、俺の部屋に勝手に入って勝手に俺の漫画を読み、よく見たら俺の部屋で携帯の充電もしている。しかし、ここで怒って怒鳴りつけては、こいつの予想通りの行動をしてしまうことになる。それはそれで癪だ。俺は頭の水が沸騰しないように火を消した。
「ここの退去が決まった。俺は実家に帰るから、お前も好きなとこに消えてくれ」
「え?どこに帰るって?」
「実家だよ。東京にある」
俺はタンスを開けて、旅行の時に使ったキャリーケースを探し始めた。とりあえず荷物をまとめて、冷蔵庫や本棚は西条と一緒に捨てていこう。そうすれば引越し業者を頼まなくて済む。
キャリーケースをタンスから引き出し、あらためて部屋を見てみると二日ぶりの我が家は、なんだか物足りない。いや、物がない。冷蔵庫も本棚もちゃぶ台も見当たらない。
「いや!おかしいだろ!家具が一個も無い!」
俺は寝転がっている原因を引っ張り起こし、問い詰めた。
「どういうことだ西条」
「いや、どうもこうも、捨てたよ。君が警察から帰ってきたら引っ越すつもりだったし」
「確かに捨てるつもりではあったが、断りを……って、なんでお前が引っ越すつもりなのに俺の家具を捨てるんだ?」
俺は最悪の答えを頭に浮かび上がらせた。
「まさか、実家についてくるつもりじゃないだろうな」
そう言うと西条は首をフルフル振ってこう言った。
「君の実家ならもう無いよ。僕が売っぱらったからね」
予想した最悪をこいつは余裕で越えてきた。
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