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東京公演編
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それぞれの義のもと、親友同士の生死をかけた戦いに、稽古場じゅうが固唾飲んで見守っている。
さすがはオリジナル・メンバーというだけのことはあって、トージもケイも役への解釈やのめり方が神がかりだった。
数回剣を交えたあと、暁と斐ノ介は木材を組んで作った稽古場用のセットに上り、そして斐ノ介は上段にいる親友を見つめつつ、そこから一段一段ゆっくり下りるという動きがつけられている。
ところが――
「ヒラン!」
ジャンプして切りかかってくるはずのトージが剣を捨て、こちらに向かって手を伸ばしている。
しまった、とケイが我に返るも時すでに遅く、体が傾いたと思ったら、足首にツキンッとした痛みが走った。
平台から足を踏み外したのである。
演出家から大丈夫かという声が飛んでくる。
スタッフがすばやく救急箱を取りに走る。
共演者たちも駆け寄ってくる。
稽古場は騒然となった。
「だいじょうぶです。軽く捻っただけですから」
すみません、とケイは床に座ったまま頭を下げた。
自己管理はプロの本分。基本中の基本。
怪我なんて言語道断だ。
東京公演初日まであと三日。
もっとも気を引き締めなければいけない時期の怪我は、どれほどカンパニーに迷惑をかけるか。
おまけにケイは初演に続けての出演であるオリジナル・メンバー。
年齢からすれば「年少組」に数えられようとも、今回新たに参加したキャストたちから頼られる立場である。それなのにこの体たらくでは示しがつかない。
ケイの胸のうちで悔しく思う気持ちと、プロとして恥ずかしく感じる気持ちがないまぜになって、涙腺を刺激した。
だけど泣いてはいけない。
少なくとも今、涙を流す甘えを自分に許してはいけない。
トージが慎重な手つきでケイの靴を脱がし、靴下をも脱がしているのを見ながら、ケイはひとまず自分の感情を腹の底に押し込んだ。
右足の踝あたりが赤く腫れあがっている。
救急箱を持ってきたスタッフが、患部に冷却スプレーをかけ、湿布をあてる。
「包帯は俺がやります」
そう言ってトージは有無を言わさず、慣れた手つきで丁寧に包帯を巻いていった。
ケイは少し驚いたが、黙って恋人の好きなようにさせた。
ケイの自己診断どおり、軽い捻挫のようだった。
それがわかると稽古場の緊張感も緩み、演出家から十分の休憩が告げられる。
「暁と斐ノ介のシーンはとばす。休憩明けはその次から最後まで通すぞ」
そしてアンダーキャストが呼ばれ、ケイの代わりを務めるよう言われた。
ケイはそのままスタッフに付き添われ、近くの病院に行くことになった。
誰の手も借りず、ひょこひょこと稽古場をあとにするケイ。
去り際、一瞬だけトージと目が合う。
心配するなと無言で伝えてやる。
トージも頷いて応える。
その力強い真っ直ぐな眼差しは、斐ノ介はおまえしかいない、俺の相棒はおまえだけだと言っていた。
ケイは、胸の中のもやもやが少し晴れたような気分になった。
さすがはオリジナル・メンバーというだけのことはあって、トージもケイも役への解釈やのめり方が神がかりだった。
数回剣を交えたあと、暁と斐ノ介は木材を組んで作った稽古場用のセットに上り、そして斐ノ介は上段にいる親友を見つめつつ、そこから一段一段ゆっくり下りるという動きがつけられている。
ところが――
「ヒラン!」
ジャンプして切りかかってくるはずのトージが剣を捨て、こちらに向かって手を伸ばしている。
しまった、とケイが我に返るも時すでに遅く、体が傾いたと思ったら、足首にツキンッとした痛みが走った。
平台から足を踏み外したのである。
演出家から大丈夫かという声が飛んでくる。
スタッフがすばやく救急箱を取りに走る。
共演者たちも駆け寄ってくる。
稽古場は騒然となった。
「だいじょうぶです。軽く捻っただけですから」
すみません、とケイは床に座ったまま頭を下げた。
自己管理はプロの本分。基本中の基本。
怪我なんて言語道断だ。
東京公演初日まであと三日。
もっとも気を引き締めなければいけない時期の怪我は、どれほどカンパニーに迷惑をかけるか。
おまけにケイは初演に続けての出演であるオリジナル・メンバー。
年齢からすれば「年少組」に数えられようとも、今回新たに参加したキャストたちから頼られる立場である。それなのにこの体たらくでは示しがつかない。
ケイの胸のうちで悔しく思う気持ちと、プロとして恥ずかしく感じる気持ちがないまぜになって、涙腺を刺激した。
だけど泣いてはいけない。
少なくとも今、涙を流す甘えを自分に許してはいけない。
トージが慎重な手つきでケイの靴を脱がし、靴下をも脱がしているのを見ながら、ケイはひとまず自分の感情を腹の底に押し込んだ。
右足の踝あたりが赤く腫れあがっている。
救急箱を持ってきたスタッフが、患部に冷却スプレーをかけ、湿布をあてる。
「包帯は俺がやります」
そう言ってトージは有無を言わさず、慣れた手つきで丁寧に包帯を巻いていった。
ケイは少し驚いたが、黙って恋人の好きなようにさせた。
ケイの自己診断どおり、軽い捻挫のようだった。
それがわかると稽古場の緊張感も緩み、演出家から十分の休憩が告げられる。
「暁と斐ノ介のシーンはとばす。休憩明けはその次から最後まで通すぞ」
そしてアンダーキャストが呼ばれ、ケイの代わりを務めるよう言われた。
ケイはそのままスタッフに付き添われ、近くの病院に行くことになった。
誰の手も借りず、ひょこひょこと稽古場をあとにするケイ。
去り際、一瞬だけトージと目が合う。
心配するなと無言で伝えてやる。
トージも頷いて応える。
その力強い真っ直ぐな眼差しは、斐ノ介はおまえしかいない、俺の相棒はおまえだけだと言っていた。
ケイは、胸の中のもやもやが少し晴れたような気分になった。
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