たそがれ色の恋心

空居アオ

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神戸公演編

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「しょうがないな…」

 面倒、とばかりに髪を掻きむしる。
 ケイの顔から微笑がこぼれた。

「俺は、そういうトージが好きなんだよね」
「……ヒラン」
「ケイ」
「………」

 律儀にケイはトージに言い直しを求めた。

「トージ。そんなに気にしなくていいよ。みんな同じようにヒランって呼ぶけど、トージに呼ばれるのだけは特別なんだから」

 言われて、トージはわずかに目を瞠る。
 特別というケイの発言に対してではない。
 特別と感じるケイの心が、トージ自身と一致していることに驚いた。

 友人やほかの仲間が「トージ」と呼ぶのには特に何か感じ入るところはない。
 もちろん肉親に「トージ」と呼ばれるのもしかり。
 ただ名前を呼んでいるだけで、それが当然で、あたりまえだからだ。

 だけどケイに、トージ、と呼ばれると、心の奥底をくすぐられるような気持ちになる。
 暖かいような、面映ゆいような。
 嬉しくて、ときどきわけもなくちょっと泣きそうになることだってあったりする。

 ――きっとこういう気持ちを幸せと言うんじゃないだろうかと、そう思った。
 ――――そう思わせてくれる相手がいることは、もう間違いなく幸せなんだと舞い上がりそうになった。


 忘れていた気持ちがよみがえる。
 あれはケイと関係が確立したばかりの頃だったか。
 ただただ大好きな人が自分をも好きでいてくれていることに喜び、それだけでもう何もいらないとさえ思えただ。


 あれから1年と数ヵ月しか経っていない。
 それなのにもう忘れてしまっていた。
 よくも忘れていられたものだ。

 本当に情けないのは誰彼かまわずヤキモチを焼くことじゃない。
 大事なことを――大切な気持ちを忘れていたことこそ、情けない、というのだ。



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