【完結】最初で最後の男が、地味で平凡な俺でいいんですか?

古井重箱

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最終話

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 甘い蜜で満たされたかのような週末が終わった。
 出社した俺は、先輩社員の岬さんに例のパンフレットを渡した。

「すごいじゃない! この絵、仲野さんが描いたの?」
「別にすごくはないです。趣味の延長というか……」
「私は絵心がないから、これだけ描けるなんて羨ましいよ」
「それで、岬さん。休暇を取りたいんですけど。この日って大丈夫ですか?」

 俺の申し出に岬さんは笑顔でうなずいてくれた。


◆◆◆


 そして休暇がやって来た。
 俺は園部さんと長野県の高地にあるお寺を訪れていた。ここの庭ではサンカヨウが見られるらしい。

「あっ! 見つけた。ここです!」
「どれどれ」

 かがみ込んで目線を下に落とせば、白い花がちんまりと咲いていた。雨に濡れると透けることから、サンカヨウは別名をスケルトンフラワーと言うらしい。
 今日は晴れなので花びらは白いままである。

「この控えめな佇まい。仲野さんにそっくりです」
「えーっ、そうか? 俺、結構ふてぶてしいぞ」
「たとえそうだとしても、俺の気持ちは変わりませんよ。いっぱいいろんなところを旅して、素敵な風景を一緒に見ましょうね!」
「……うん」

 ディルドを買った時、俺は永遠に続く恋なんて信じていなかった。
 でも今は違う。
 園部さんといると、明日を信じられる。
 俺たちはサンカヨウの写真を撮った。未来に不安を覚えた時は、この写真を見返すことにしよう。

「じゃあ、そろそろ行きますか!」
「そうだな」

 肩を並べて山道を歩く。
 木漏れ日が俺たちを祝福するように降り注いでいた。





(完)
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