【完結】最初で最後の男が、地味で平凡な俺でいいんですか?

古井重箱

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 週末、園部さんのアパートにて。
 俺は刷り上がったパンフレットを園部さんに渡した。パンフレットを広げた園部さんは、なかなか顔を上げなかった。たった4ページの漫画だからすぐに読めてしまうだろうに。
 しばらく経ってから、ようやく園部さんがパンフレットを閉じた。

「……仲野さん。いや、仲野先生! 素晴らしい作品でした。猫が愛らしくて、いつまでも眺めていたくなりましたよ」
「デッサン狂ってるところとか、なかった?」
「完璧です。こんなに描けるのに、これまで作品を公開していなかっただなんて。勿体無いですよ」
「前の俺は、雨情と張り合っていたからな。 大ヒットを飛ばすプロ漫画家と違って、自分の作品には価値がないと思ってた」

 園部さんが俺を抱きしめた。

「今は、ご自分のこと好きになりましたか?」
「……そうだな。少なくとも嫌いじゃない」
「俺の存在もその一因になってます?」
「それはもう」

 キスを交わす。
 園部さんも俺も勃起していた。

「シャワー、先に使ってもいいですか?」
「うん」
「ベッドで待っててください」

 これから起こることへの期待感につられて、下腹部が際限なく硬くなっていく。俺は園部さんの布団を抱きしめて気を紛らわせようとした。でもそれは逆効果だった。彼の残り香がかえって俺に切なさをもたらした。

「急いで浴びてきました!」

 半裸になった園部さんが現れたので、俺はごくりと喉を鳴らした。この美しい肉体の持ち主が俺のことを好いていて、セックスをしたいと考えているだなんて。奇跡としか言いようがない。

「仲野さんはゆっくりどうぞ」
「ありがとう」

 俺はバスルームに足を運んだ。
 素っ裸になってシャワーを浴びる。後ろを清めるのは久しぶりだ。少し手間取ったが、なんとか洗浄を済ませることができた。
 泡を立てたボディソープを全身に塗りつける。
 シャワーで洗い流すと、爽やかな香りが鼻先をくすぐった。今の俺、園部さんとお揃いの香りだ。そんな小さなことに幸せを感じる。
 ベッドに戻ると、園部さんが抱きついてきた。
 
「俺、初めてだけど頑張ります! テクニックとか自信はないけど……」
「きみと触れ合えるだけで嬉しいよ」
「仲野さん。優しいあなたが大好きです」

 園部さんは俺をそっとベッドに押し倒した。
 首すじに熱いキスを落とされた。俺は思わず声を上げそうになったが、必死でこらえた。いきなりよがり声を発したら引かれてしまうかもしれない。
 園部さんはその後、俺の乳首を執拗にいじった。俺のはしたない器官は久々に与えられる刺激を受け取って、ぷくんと腫れていった。胸元に視線を送る。小さな突起は赤く色づいていた。

「すごく可愛い……」

 両方の乳首を同時にいじられて、俺はたまらず腰をくねらせた。媚びるような動作を恥じていると、園部さんが頬にキスをしてきた。

「仲野さんの感じてる姿、俺、すごく興奮します」
「……きみは変わってるな。こんな地味男のどこがいいんだか」
「分かってないな。普段は楚々そそとしているあなたが乱れるのがいいんじゃないですか」

 園部さんが俺の乳頭を舌でつついた。

「あっ!」
「やっと声が聞けた。俺のアパート、壁が厚めなのでもっと喘いでも大丈夫ですよ」
「……んっ、やっ。そんなに強く吸わないでくれ……」

 艶かしいリップ音を立てながら、園部さんが俺の乳首を舐めていく。俺の下腹部は発火しそうなほど熱くなっていた。

「ち×こも見せてください」
「……あっ、だ、だめだっ」
「恥じらう仲野さん、最高にエロいですね」

 園部さんは俺の腰からタオルを取り去ると、ギンギンにみなぎっている俺のペニスを握った。
 裏筋をくすぐられて、俺はまたしても情けない声を漏らしてしまう。快感と、好きな人に触られているという多幸感が混ざり合って、全身が火照っていく。
 カリを刺激されれば、俺の先端からカウパーがとろとろとこぼれた。
 園部さんの指が俺の淫液によって濡れている。何か言葉を紡ごうとしたが、唇が震えるだけで発語には至らなかった。

「……園部さん。俺もきみを気持ちよくさせたい」

 俺は手を伸ばして、園部さんの腰に巻いてあったタオルを脱がせた。ぶるんと勇ましく揺れて、園部さんのペニスが俺の前に現れた。太い茎に指を這わせる。そのまま軽く圧をかけると、園部さんの目元が赤く染まった。

「どうして俺のいいところを知ってるんですか」

 園部さんは照れ隠しなのか、キスをして俺の唇を封じた。俺は口を吸われるあいだも手を動かし続けた。園部さんの呼吸が荒くなっていく。俺との行為に気持ちよさを感じてくれているのかと思うと、愛おしさが募ってやまなかった。
 俺は極太の竿を握りながら、園部さんの亀頭を手のひらで撫でた。
 
「……仲野さんって、経験豊富ですね」
「前の男のことなんて、聞かないでくれよ?」
「そんな野暮な真似はしませんよ」

 俺たちは互いの性器を扱いた。

「ち×こ、爆発しそうです」
「俺も」
「仲野さん……。挿れてもいいですか?」

 うなずくと、園部さんは俺の足を大きく開かせた。

「腰に枕を当てるといいんでしたっけ」
「そうだな。その方がやりやすいかも」

 腰に添えられた枕によって、俺の臀部がせり上がった。後孔を園部さんに見られてしまう。
 園部さんはローションを手に垂らすと、濡れた指先で俺のアヌスに触れた。

「すごく窄まってる……。俺のち×こ、入るかな?」
「ゆっくり慣らしてくれると助かる」
「じゃあ、指を挿れますよ」

 つぷんという音がして、園部さんの指先が俺のナカに入ってきた。久しぶりに感じる内側からの刺激に俺は身を震わせた。園部さんは俺の反応が痛みによるものだと思ってしまったらしく、慌てて指を引き抜いた。

「ごめんなさい! 辛かったですよね」
「いや……。実を言うと、こういうことをするのは一年ぶりで」
「それってセカンドバージンってことですよね?」

 園部さんの目に火が灯った。
 俺の恋の来歴がやはり気になるのかな。粗末に扱われてきたことを打ち明ければ、園部さんは怒ってくれるに違いない。

「今は……俺のことしか考えてないですよね?」
「うん」
「それじゃ、もう一度いきますよ」
「んっ」

 長い指が奥まで進んでいく。
 途中、とある箇所を擦られた瞬間、俺は「はぁん……っ」と鼻にかかった声を上げた。

「男っていいところがナカにあるとは聞いてたけど、そんな風にメロメロになっちゃうんだ」
「あっ! あぁっ! そんな……そこばっかり、やめてくれっ」
「やめたら気持ちいいの、終わっちゃうでしょ? ほら、もっと感じて」
「あーんっ」

さんざん責められたあと、ようやく解放されたと思ったのも束の間、今度は二本の指が俺のナカを支配した。俺の内壁がみちりと絡みついて、園部さんの指をねぶっている。
 園部さんは俺の淫乱さに呆れているだろうか?
 視線を合わせれば、艶めいた微笑みが返ってきた。

「エッチな仲野さん、最高です」
「……園部さん」
「三本目もいけますよね?」
「うん……、あっ! あぁっ」

 俺のナカは三本の指によって慣らされていった。

「すごい……。ち×こを挿れたら食いちぎられそうだ」
「もうそろそろ……来てくれても大丈夫だよ」
「それじゃあ、いきますね」

 ゴムを装着した園部さんの先端が俺のアヌスに触れる。
 そのままゆっくり、園部さんは俺のナカに肉茎を沈めてきた。

「あぁっ、やっ、んぅっ! ち×ぽ、いいっ!」
「脳みそも腰も溶けそう……。仲野さんのここ、ちゅぱちゅぱって吸いついてきますよ?」
「園部さんが好きだから……っ! ナカ、貫かれるの嬉しい……っ」
「健気な方ですね。ますます好きになりました」

 園部さんが緩やかにピストン運動を開始した。長大なペニスがナカを行き来するたびにいいところが擦れて、俺はあんあんと濡れた声を上げた。

「繋がったままキスしてもいいですか?」
「んっ……、ふ、ぁ……っ」

 悦点を刺激する前後運動に、ディープキス。愛情表現のフルコースを味わった俺は快楽の波に攫われた。理性なんてもうどうだっていい。園部さんの律動に合わせて喉から甘えた声が漏れ出る。
 舌を絡め合わせながら、園部さんのぬくもりに浸る。
 地味で平凡な俺とは釣り合わない人だと思っていた。でも、園部さんは俺を気に入って、初めての相手に選んでくれた。
 嬉しさのあまり目頭が熱くなる。

「園部さん……っ、好きだっ」
「俺もですよ。奥をトントンすると、仲野さん、きゅっと締まりますね」
「お、俺っ……やらしいこと大好きだから、……嫌いにならないでくれ!」
「恋人がエッチな方が楽しいでしょ。俺は生涯、仲野さんひとすじですよ」

 園部さんが腰を震わせた。
 ペニスを引き抜いた園部さんは、ゴムの口を縛った。
 はーっ、はーっと息を乱しながら園部さんが俺に抱きついてくる。くしゃりと前髪を撫でられているうちに、俺は不安に駆られた。

「あの……生涯俺ひとすじって、セックスの勢いでそう言ったんだよな?」
「違いますよ! 出すもの出したあとも気持ちは変わりません。俺は仲野さんとずっと一緒にいたいです」
「それだと、俺がきみの最初で最後の男になっちゃうんだけど?」
「いいじゃないですか。何か問題でもあります?」
「いろんな相手とエッチしてみたいとか思わないのか」

 俺が疑問を呈すると、園部さんは不機嫌そうに唇を引き結んだ。

「そういうの、愚問って言うんですよ。どうやら仲野さんには、分からせが必要なようですね」
「分からせ? なんの?」
「自分が愛されてるっていう自覚があなたには足りません! もう一回抱きますよ。いいですね?」
「あっ、あぁっ!」

 かくして俺は身をもって知ることになった。園部さんが俺を大好きだということを。
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