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第9話 甘い夢、厳しい現実
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「ずっと、この黒髪に触れたかった……」
二人きりの応接室に、リヒターの甘い声が響く。
俺はひくんと肩を震わせた。
近い。
リヒターの美しい顔が至近距離まで迫っている。
「愛してる、ティノ」
「頼む、リヒター。それ以上、何も言わないでくれ!」
「すまない。いきなり恋情を打ち明けられても、戸惑ってしまうよな」
「あのさ。あんたを慰めてくれる人は他にもいるだろう? 俺と違って女性の胸にはボインボインのおっぱいがついてるんだぜ? 悪いことは言わないから、考え直せ」
「無理だ。俺の心には、きみという人の存在が深く刻まれている。俺が戦場で果てる時に口にするのは、ティノ。きみの名前だ」
「そんなこと言われても……! 俺はこれからどうすればいい?」
混乱のあまり、俺は席を立った。
そして、リヒターの元に近づき、厚みのある胸をポカポカと叩いた。
「あーもう! 何とか言えよ!!」
「ふだん冷静なきみが、ここまで取り乱すとはな」
「同性から突然告白されたんだぞ!」
「俺は過去に何度も、男から求愛されたことがあるぞ」
「そりゃあ、あんたは美形だから。でも俺は違う!」
「俺の目の前にいる人は、世界で一番美しいんだが?」
「何を言ってやがる……!?」
全身の血が顔に集まってきた。
頬っぺたはもちろん、頭頂部まで熱い。
リヒターは赤面した俺にとろけたまなざしを送ると、火照った耳元に顔を寄せた。
そして、ぞくりとするような美声で囁いた。
「ティノ……。とても可愛らしいよ」
「そっ、そんな風にされたら……! なんか、ヘンになっちまう!」
「吐息だけで感じてしまったのか? きみは初々しいな……」
「やめろっ、見ないでくれ!」
恥じらいのあまり身をよじるしかない俺と違って、リヒターは余裕たっぷりの微笑みを浮かべている。
くそっ。恋愛巧者め。
童貞舐めんなよ!
俺は眉を吊り上げ、拳をぎゅっと握り締めた。
「あんた、俺の反応を見て楽しんでるだろ! いい趣味してるじゃねーか」
「ははっ。俺は魔都ゲルトシュタットの男だぞ? 清廉潔白なわけがない。この場の勢いに任せて、きみにいたずらをしてしまおうかな?」
「いい加減にしろ!」
俺はリヒターの額に、自分の額をぶつけた。
目の前で火花が瞬く。
「おいおい。痛いじゃないか」
「悪いのはそっちだろうが!」
「すまん、いじめすぎた。ティノの反応があまりにも可愛らしいから、つい」
「いいか、リヒター。俺はこれからも一介のポーション販売員であり、あんたの友人だ。そういうことでいいな?」
「ひとまずは」
「よし。それじゃ、今日は帰るぜ」
仲直りの証として、握手を求める。
しかしリヒターは俺の申し出を断った。
「騎士と姫は握手をしないものだ」
リヒターはそう言って微笑むと、俺の手の甲にキスを落とした。
軽く触れられただけなのに、なんだこれ?
リヒターの唇のふわっとした感触が肌を刺激して、電流みたいなのが背筋を駆け抜けていく。
甘い夢の中にいるような心地だ……。
「その表情。随分と感じやすいようだな、ティノ」
「このスケベ野郎! そんなやらしい目で俺を見るな!」
「きみだって、俺に淫らな呪符を使おうとしていたじゃないか」
「うっ。それは……カネのために仕方なく……」
「なあ、ティノ。守銭奴なんて生き方、きみには似合わないよ。幸せになろう? 俺と一緒に……」
「リヒター……。でも、俺は……」
俺たちは見つめ合った。
視線を絡めているうちに、顔の距離が近くなっていく。
あれ?
これってもしかして、キスする流れか?
俺がドキドキしながらまつ毛を震わせた時、ドアをノックする音が響いてきた。
「ウェルスか。どうした」
従者の少年は、険しい表情で言葉を紡いだ。
「リヒター様。急ぎ、詰め所に向かってください。海賊船がゲルトシュタットの港に現れたとの報告がありました」
「分かった」
「……リヒター。出陣するのか?」
「そんな不安な顔をするな。きみと結ばれる前に死んでたまるか」
トンと軽く俺の肩を叩くと、リヒターは部屋から出て行った。
戦闘開始となれば、俺にできることはない。
「ウェルスくん。今日はこれで失礼するよ」
「帰り道、お気をつけて。街の人々はだいぶ混乱しているようですから」
「ありがとう」
リヒターの無事を祈りながら、俺はカバンを抱えてゲルトシュタットの繁華街を走った。
二人きりの応接室に、リヒターの甘い声が響く。
俺はひくんと肩を震わせた。
近い。
リヒターの美しい顔が至近距離まで迫っている。
「愛してる、ティノ」
「頼む、リヒター。それ以上、何も言わないでくれ!」
「すまない。いきなり恋情を打ち明けられても、戸惑ってしまうよな」
「あのさ。あんたを慰めてくれる人は他にもいるだろう? 俺と違って女性の胸にはボインボインのおっぱいがついてるんだぜ? 悪いことは言わないから、考え直せ」
「無理だ。俺の心には、きみという人の存在が深く刻まれている。俺が戦場で果てる時に口にするのは、ティノ。きみの名前だ」
「そんなこと言われても……! 俺はこれからどうすればいい?」
混乱のあまり、俺は席を立った。
そして、リヒターの元に近づき、厚みのある胸をポカポカと叩いた。
「あーもう! 何とか言えよ!!」
「ふだん冷静なきみが、ここまで取り乱すとはな」
「同性から突然告白されたんだぞ!」
「俺は過去に何度も、男から求愛されたことがあるぞ」
「そりゃあ、あんたは美形だから。でも俺は違う!」
「俺の目の前にいる人は、世界で一番美しいんだが?」
「何を言ってやがる……!?」
全身の血が顔に集まってきた。
頬っぺたはもちろん、頭頂部まで熱い。
リヒターは赤面した俺にとろけたまなざしを送ると、火照った耳元に顔を寄せた。
そして、ぞくりとするような美声で囁いた。
「ティノ……。とても可愛らしいよ」
「そっ、そんな風にされたら……! なんか、ヘンになっちまう!」
「吐息だけで感じてしまったのか? きみは初々しいな……」
「やめろっ、見ないでくれ!」
恥じらいのあまり身をよじるしかない俺と違って、リヒターは余裕たっぷりの微笑みを浮かべている。
くそっ。恋愛巧者め。
童貞舐めんなよ!
俺は眉を吊り上げ、拳をぎゅっと握り締めた。
「あんた、俺の反応を見て楽しんでるだろ! いい趣味してるじゃねーか」
「ははっ。俺は魔都ゲルトシュタットの男だぞ? 清廉潔白なわけがない。この場の勢いに任せて、きみにいたずらをしてしまおうかな?」
「いい加減にしろ!」
俺はリヒターの額に、自分の額をぶつけた。
目の前で火花が瞬く。
「おいおい。痛いじゃないか」
「悪いのはそっちだろうが!」
「すまん、いじめすぎた。ティノの反応があまりにも可愛らしいから、つい」
「いいか、リヒター。俺はこれからも一介のポーション販売員であり、あんたの友人だ。そういうことでいいな?」
「ひとまずは」
「よし。それじゃ、今日は帰るぜ」
仲直りの証として、握手を求める。
しかしリヒターは俺の申し出を断った。
「騎士と姫は握手をしないものだ」
リヒターはそう言って微笑むと、俺の手の甲にキスを落とした。
軽く触れられただけなのに、なんだこれ?
リヒターの唇のふわっとした感触が肌を刺激して、電流みたいなのが背筋を駆け抜けていく。
甘い夢の中にいるような心地だ……。
「その表情。随分と感じやすいようだな、ティノ」
「このスケベ野郎! そんなやらしい目で俺を見るな!」
「きみだって、俺に淫らな呪符を使おうとしていたじゃないか」
「うっ。それは……カネのために仕方なく……」
「なあ、ティノ。守銭奴なんて生き方、きみには似合わないよ。幸せになろう? 俺と一緒に……」
「リヒター……。でも、俺は……」
俺たちは見つめ合った。
視線を絡めているうちに、顔の距離が近くなっていく。
あれ?
これってもしかして、キスする流れか?
俺がドキドキしながらまつ毛を震わせた時、ドアをノックする音が響いてきた。
「ウェルスか。どうした」
従者の少年は、険しい表情で言葉を紡いだ。
「リヒター様。急ぎ、詰め所に向かってください。海賊船がゲルトシュタットの港に現れたとの報告がありました」
「分かった」
「……リヒター。出陣するのか?」
「そんな不安な顔をするな。きみと結ばれる前に死んでたまるか」
トンと軽く俺の肩を叩くと、リヒターは部屋から出て行った。
戦闘開始となれば、俺にできることはない。
「ウェルスくん。今日はこれで失礼するよ」
「帰り道、お気をつけて。街の人々はだいぶ混乱しているようですから」
「ありがとう」
リヒターの無事を祈りながら、俺はカバンを抱えてゲルトシュタットの繁華街を走った。
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