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綺羅斗と約束をした当日になった。
昼休みの訪れを告げるチャイムが鳴り出した途端、綺羅斗は大きな声で言った。
「三塚くん、購買行こうぜ!」
いつも綺羅斗の周りを取り囲んでいる女子の眉が跳ね上がる。みんな、マレビトの俺がクラスの人気者に誘われたことに驚きと反発を覚えたようだ。綺羅斗ファンの中でも特に性格がキツい宝田愛美さんが露骨に嫌な顔をした。
「綺羅斗。今日はあたしと食べようよ」
「ごめん、三塚くんと約束してたから」
「だってその子、マレビトだよ? 怖くないの」
宝田さんの言葉が俺の胸をえぐる。そうだよな。俺はマレビトだ。現代社会では疎まれる存在だ。
でも宝田さんに言いたい。
俺にだって、きみたちと同じように心がある。拒絶されれば傷つくし、バケモノ扱いされれば泣きたくなる。
じっと拳を握りしめて黙っていると、綺羅斗が俺をかばうように肩を抱いた。
「三塚くんの力は人に危害を加えるものじゃない。偏見を持つのはやめたら?」
宝田さんはなおも不服そうだったが、綺羅斗がじろりと睨んだため口をつぐんだ。綺羅斗ってこういう顔もするんだ。いっつも笑ってるイメージがあったから意外だ。
「行こう、三塚くん」
「う、うん……っ」
俺は綺羅斗に手を引かれて、別棟にある購買まで歩き出した。
購買は多くの生徒で賑わっていた。綺羅斗の存在に気づいた女子生徒がキャーッと声を上げたあと、俺の顔を見て沈黙した。この子たちも宝田さんと同じ意見のようだ。俺がうつむいていると、綺羅斗に肩を叩かれた。
「三塚くん、棚をよく見て! 早くパンを選ばないと」
「そうだな」
マレビトの俺が遠巻きにされるのは今に始まったことではない。俺は前を向いた。そして、棚に並んだパンに目を走らせた。見るからにうまそうなパンの中から、タルタルチキンサンドとあんパンを選ぶ。
財布を開こうとしたところで綺羅斗に止められた。
「俺のおごりだって言ったでしょ」
綺羅斗はスマートに会計を済ませると、校舎へと俺をいざなった。
どこでお昼を食べるのだろう。あまり人目につかない場所がいいのだが。
綺羅斗に手を引かれてたどり着いたのは、屋上へと続く階段の踊り場だった。しんと空気が冷えている。人影はなくひっそりとした雰囲気だ。
「ここ、俺のお気に入りスポットなんだ。ひとりになりたい時によく来る」
「そうなんだ。綺羅斗っていっつも人といるイメージだけど」
「俺、大家族だからさ。せめて学校では静かに過ごしたいんだよね」
今の発言、綺羅斗ファンの女子生徒が聞いたら驚くのではないだろうか。綺羅斗は教室という社交場で自分を殺して、みんなの人気者という役を演じているのかもしれない。
「三塚くんといると落ち着く」
コロッケパンを平らげた綺羅斗は、ニカッと笑った。邪気のない笑顔を向けてくれる相手は貴重だ。俺の心は、水を撒かれた砂地のように綺羅斗がくれた喜びを吸収した。たぶん来るなと思った時にはもう、全身がカッと熱くなってピンクの薔薇が登場した。
購買のパンのいい匂いをかき消すように花の香りがむっと漂う。
俺は自己否定の呪文を心の中で唱えようとした。
すると、綺羅斗が「その薔薇、綺麗だね」と<花>に手を伸ばした。
「やめろっ! 触るなっ」
「どうして? 別にトゲが生えてるわけじゃないし、いいじゃん」
「<花>に触られると、……頭撫でられてるみたいな気分になるんだよ」
「そうなんだ?」
綺羅斗が手のひらいっぱいに<花>をのせた。満足そうに微笑んでいるので、俺はそれ以上拒絶できなくなる。綺羅斗はあろうことか、<花>に頬擦りをした。
「この<花>って、三塚くんの分身なんだね」
「邪魔くさいだろう。今消すから待っててくれ」
「消す時ってどうするの?」
「心の中で自分をひたすら否定する。そうするとテンションが下がって、花が枯れて砂になる」
「えぇっ? それって辛いうえに、せっかく咲いた<花>がもったいなくない? 三塚くんの能力は素敵だよ! 俺を明るい気持ちにさせてくれた」
「……俺は、自分の気分をコントロールできない未熟者だ」
「俺と一緒にいて嬉しいって思ってくれたんだろ? しかもそれを<花>という形で表現してくれた。そんな三塚くんが俺は大好きだよ!」
参ったな。
綺羅斗が必死に褒めてくるものだから、自己否定の言葉が浮かばなくなってくる。こんな俺でもちょっとはいいところがあるのかななんて思ってしまう。
「三塚くん。きみも、きみの<花>も綺麗だ」
その瞬間、ピンクの薔薇が開ききって花びらだけの姿に変わった。そして花びらは甘い匂いを振り撒きながら中空を回遊すると、光の粒になって弾けた。残光が視界をちかちかと装飾する。
「……<花>が光に転じた?」
「すごい! 魔法みたいだ! って、魔法なのかな?」
綺羅斗はマジックショーを見届けた観客のように興奮している。俺は何が起きたのか把握できなかった。嬉しいという気持ちにフタをせずに感情のボルテージを上げていくと光を生み出すことができるのか?
俺は綺羅斗にお礼を言った。
「……ありがとう。綺羅斗が一生懸命褒めてくれたから、新しい力に気づけた」
「よかったー。俺、三塚くんのことが好きだからさ。三塚くん自身にも、自分のことを好きになってほしいんだよね」
「<花>を枯らせて砂を作って周囲を汚すより、喜びを爆発させた方がいいみたいだな」
「うんうん」
そろそろ昼休みが終わろうとしている。
俺は綺羅斗と教室に戻った。
昼休みの訪れを告げるチャイムが鳴り出した途端、綺羅斗は大きな声で言った。
「三塚くん、購買行こうぜ!」
いつも綺羅斗の周りを取り囲んでいる女子の眉が跳ね上がる。みんな、マレビトの俺がクラスの人気者に誘われたことに驚きと反発を覚えたようだ。綺羅斗ファンの中でも特に性格がキツい宝田愛美さんが露骨に嫌な顔をした。
「綺羅斗。今日はあたしと食べようよ」
「ごめん、三塚くんと約束してたから」
「だってその子、マレビトだよ? 怖くないの」
宝田さんの言葉が俺の胸をえぐる。そうだよな。俺はマレビトだ。現代社会では疎まれる存在だ。
でも宝田さんに言いたい。
俺にだって、きみたちと同じように心がある。拒絶されれば傷つくし、バケモノ扱いされれば泣きたくなる。
じっと拳を握りしめて黙っていると、綺羅斗が俺をかばうように肩を抱いた。
「三塚くんの力は人に危害を加えるものじゃない。偏見を持つのはやめたら?」
宝田さんはなおも不服そうだったが、綺羅斗がじろりと睨んだため口をつぐんだ。綺羅斗ってこういう顔もするんだ。いっつも笑ってるイメージがあったから意外だ。
「行こう、三塚くん」
「う、うん……っ」
俺は綺羅斗に手を引かれて、別棟にある購買まで歩き出した。
購買は多くの生徒で賑わっていた。綺羅斗の存在に気づいた女子生徒がキャーッと声を上げたあと、俺の顔を見て沈黙した。この子たちも宝田さんと同じ意見のようだ。俺がうつむいていると、綺羅斗に肩を叩かれた。
「三塚くん、棚をよく見て! 早くパンを選ばないと」
「そうだな」
マレビトの俺が遠巻きにされるのは今に始まったことではない。俺は前を向いた。そして、棚に並んだパンに目を走らせた。見るからにうまそうなパンの中から、タルタルチキンサンドとあんパンを選ぶ。
財布を開こうとしたところで綺羅斗に止められた。
「俺のおごりだって言ったでしょ」
綺羅斗はスマートに会計を済ませると、校舎へと俺をいざなった。
どこでお昼を食べるのだろう。あまり人目につかない場所がいいのだが。
綺羅斗に手を引かれてたどり着いたのは、屋上へと続く階段の踊り場だった。しんと空気が冷えている。人影はなくひっそりとした雰囲気だ。
「ここ、俺のお気に入りスポットなんだ。ひとりになりたい時によく来る」
「そうなんだ。綺羅斗っていっつも人といるイメージだけど」
「俺、大家族だからさ。せめて学校では静かに過ごしたいんだよね」
今の発言、綺羅斗ファンの女子生徒が聞いたら驚くのではないだろうか。綺羅斗は教室という社交場で自分を殺して、みんなの人気者という役を演じているのかもしれない。
「三塚くんといると落ち着く」
コロッケパンを平らげた綺羅斗は、ニカッと笑った。邪気のない笑顔を向けてくれる相手は貴重だ。俺の心は、水を撒かれた砂地のように綺羅斗がくれた喜びを吸収した。たぶん来るなと思った時にはもう、全身がカッと熱くなってピンクの薔薇が登場した。
購買のパンのいい匂いをかき消すように花の香りがむっと漂う。
俺は自己否定の呪文を心の中で唱えようとした。
すると、綺羅斗が「その薔薇、綺麗だね」と<花>に手を伸ばした。
「やめろっ! 触るなっ」
「どうして? 別にトゲが生えてるわけじゃないし、いいじゃん」
「<花>に触られると、……頭撫でられてるみたいな気分になるんだよ」
「そうなんだ?」
綺羅斗が手のひらいっぱいに<花>をのせた。満足そうに微笑んでいるので、俺はそれ以上拒絶できなくなる。綺羅斗はあろうことか、<花>に頬擦りをした。
「この<花>って、三塚くんの分身なんだね」
「邪魔くさいだろう。今消すから待っててくれ」
「消す時ってどうするの?」
「心の中で自分をひたすら否定する。そうするとテンションが下がって、花が枯れて砂になる」
「えぇっ? それって辛いうえに、せっかく咲いた<花>がもったいなくない? 三塚くんの能力は素敵だよ! 俺を明るい気持ちにさせてくれた」
「……俺は、自分の気分をコントロールできない未熟者だ」
「俺と一緒にいて嬉しいって思ってくれたんだろ? しかもそれを<花>という形で表現してくれた。そんな三塚くんが俺は大好きだよ!」
参ったな。
綺羅斗が必死に褒めてくるものだから、自己否定の言葉が浮かばなくなってくる。こんな俺でもちょっとはいいところがあるのかななんて思ってしまう。
「三塚くん。きみも、きみの<花>も綺麗だ」
その瞬間、ピンクの薔薇が開ききって花びらだけの姿に変わった。そして花びらは甘い匂いを振り撒きながら中空を回遊すると、光の粒になって弾けた。残光が視界をちかちかと装飾する。
「……<花>が光に転じた?」
「すごい! 魔法みたいだ! って、魔法なのかな?」
綺羅斗はマジックショーを見届けた観客のように興奮している。俺は何が起きたのか把握できなかった。嬉しいという気持ちにフタをせずに感情のボルテージを上げていくと光を生み出すことができるのか?
俺は綺羅斗にお礼を言った。
「……ありがとう。綺羅斗が一生懸命褒めてくれたから、新しい力に気づけた」
「よかったー。俺、三塚くんのことが好きだからさ。三塚くん自身にも、自分のことを好きになってほしいんだよね」
「<花>を枯らせて砂を作って周囲を汚すより、喜びを爆発させた方がいいみたいだな」
「うんうん」
そろそろ昼休みが終わろうとしている。
俺は綺羅斗と教室に戻った。
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