【完結】嬉しいと花を咲かせちゃう俺は、モブになりたい

古井重箱

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06.

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 綺羅斗と俺は毎日一緒にランチを食べるようになった。
 場所はいつも屋上へ続く階段の踊り場である。

「へえ。綺羅斗って姉ちゃんが二人、弟が二人の五人兄弟なんだ」
「うるさくて仕方ないよ」
「きょうだいの真ん中って大変だな。上には命令されるし、下の面倒も見なきゃいけないし」
「中間管理職の苦労、分かってくれるんだ? さすが三塚くん」

 がしっと綺羅斗が俺の腰を抱く。
 一緒につるむようになって分かったことだが綺羅斗はスキンシップが多い。他のクラスメートにはさほどでもないのだが俺相手には遠慮がない。心を開いてくれている証拠と考えていいだろうか。友達と兄弟のようにじゃれ合うのは悪い気がしない。
 綺羅斗の長いまつ毛に縁取られた大きな目が俺を見つめている。

「三塚くん、最近ますます綺麗になったね」
「は? どこが、この平凡なツラ」
「自己否定をやめたからじゃないの? 内面の充実が表に出てる感じ」
「……マレビトのくせに調子に乗ってると思われないかな」
「もう自己否定は禁止ね。マレビトは俺たち一般人を悪しき怪異から守ってくれる存在だろ? もっと自信を持って」

 綺羅斗が微笑むたび、俺はピンクの薔薇を咲かせた。
 そのまま喜びを爆発させようとしたところで、俺の心に影が差した。綺羅斗はいつまで俺と一緒に昼メシを食べてくれるだろう。最近は教室でもスキンシップを求められるため周囲の目が痛い。嫌われ者の俺と人気者の綺羅斗では釣り合わないのは自分がよく分かっている。
 俺の心を反映したかのように<花>がぐしゃりと歪む。そして、ぼたぼたと踊り場に落ちていった。そのまま砂に変わってくれたらまだよかったのだが、生花の姿のまま恨めしそうに転がっている。俺は綺羅斗からビニール袋をもらって、<花>を回収した。

「俺にはなんでこんな能力があるんだろうな」
「三塚くん……」
「綺羅斗。明日は教室でみんなと食えよ」
「オッケー。その『みんな』には三塚くんも含まれてるんだよね?」
「……いいや。俺はおまえたちとは違う」
「そんな風に壁、作んないでよ。俺は三塚くんがマレビトだからって気にしないよ? 三塚くんは植物が好きで優しい人だ。俺の大好きな人だ」

 綺羅斗が惜しみない賛辞を与えてくれるのに、ビニール袋の中に突っ込んだ<花>は依然として砂に姿を変えなかった。俺の心は欲張りになりすぎた。綺羅斗から嬉しい言葉をかけられたら、それが真実であることとか、永遠を約束するものであることを期待するようになった。
 何だよ、これ。
 まるで俺が綺羅斗に恋してるみたいじゃないか。
 いや、この気持ちは……友情だ。だって俺にとって綺羅斗は初めての友達だから。

「今度、他校との練習試合があるんだ。見に来てよ」
「……行かない。俺はサッカー部のみんなからは歓迎されていないから」
「三塚くんは『みんな』に傷つけられてきたんだね……。でも俺は違う。三塚くんの味方だって信じてほしい」
「……綺羅斗」

 チャイムが鳴ったので、俺と綺羅斗は教室へと駆け込んだ。
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