【完結】おまえの隣は俺のもの

古井重箱

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本編

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 夕焼けが校舎の窓をオレンジ色に染めている。
 部活の時間はどうしてあっという間に過ぎてしまうのだろう。俺、竹井玄弥げんやは名残り惜しい気持ちでいっぱいだった。
 まだだ。足りない。
 もっと走り込んで、県大会で一位になりたい。高校二年の初夏、俺は800m走という競技に魅せられていた。

「玄弥。オーバーワークは厳禁だぞ。歩いて帰れよ」
「はい!」

 顧問の丸山先生に釘を刺されてしまった。俺は素直に従うことにした。

「お疲れ様でした!」

 クールダウンを終えた俺は、部室に入った。部活用のウェアを脱いで、デオドラントシートで体を拭き清める。本当はシャワーを浴びたいところだが、うちは公立の進学校のため運動部向けの便利な設備はない。
 制服に着替え終わった。
 俺はスクールバッグを肩に下げながら部室を出た。
 グラウンドを離れ、校門に向かう途中で誰かに呼び止められた。

「あの、竹井先輩。ちょっといいですか」

 緊張しているのだろうか。声が上ずっている。か細いソプラノには聞き覚えがなかった。
 振り向けば、艶やかな黒髪を肩まで伸ばした華奢な女子が立っていた。襟元に結ばれたリボンは臙脂えんじ色。一年生のようだ。
 小さな手に握られているのは白い封筒だった。

「手紙? 俺じゃなくて彩斗あやと宛だよな」
「渡してもらっていいですか? 私……彩斗先輩のことが好きなんです!」
「……分かった」

 彩斗は俺のいとこだ。
 両親が海外赴任中のため、俺の家で暮らしている。

「ありがとうございます!」

 去っていく女子の足取りは軽やかだった。
 厄介ごとを押し付けられた俺の心は重く沈んでいった。
 


◆◆◆


「俺に手紙? どうせラブレターでしょ。シュレッダーにかけておいて」

 帰宅すると、彩斗はリビングのソファに寝転びながら、タブレットで漫画を読んでいた。彩斗は成績優秀だが、こいつが勉強しているところを見たためしがない。
 絶妙なバランスでスタイリングされた髪に、甘さのある整った顔立ち。長い手足。世間的には彩斗はイケメンに分類されることだろう。
 でも、いたいけな少女がしたためた手紙を無視して漫画を読み続ける男は、性根が腐っている。イケメンではなく、ただのクソ野郎だ。
 彩斗は冬生まれで、俺は夏生まれである。たとえ数ヶ月であっても俺の方が年長なのだから、人の道を説いてやらねばなるまい。

「いいから目を通せよ」

 俺は彩斗の手元からタブレットを取り上げた。
 怒気をあらわにした俺に気圧されたのか、彩斗が白い封筒を手に取って、中身を開けた。彩斗はニコリとも笑わなかった。

「読んだよ。これでいいだろ。タブレット返して」
「彩斗。返事を書けよ」
「だりぃ。代筆して」
「おまえ、最低だな。どうして女子はおまえみたいなクズに惹かれるんだか」

 彩斗はテーブルに置かれたお菓子の箱を指先でトントンと叩いた。

「女子はパッケージしか見てないんだよ」
「……きっかけはそうかもしれないが、手紙をくれた子は彩斗の内面にも興味があるんじゃないのか?」
「違うね。女子はちょっと見栄えがいい彼氏を作って、自分のステータスを上げたいだけさ。それに俺は、胸のうちを誰かに打ち明けたりはしない。絶対にね!」

 声を荒げると、彩斗は部屋に引き上げていった。
 タブレットの隣に置かれた便箋は広げられたままだった。俺は中身を見ないように便箋を畳んで、白い封筒に入れた。
 彩斗のことを想いながら便箋に気持ちを綴った女子のことを考えると、やりきれなかった。


◆◆◆


 入浴を済ませた俺は、ベッドに横たわった。電気を消したあと、良質な眠りにつけるように腹式呼吸を繰り返した。すうっと意識が落ちていく。
 浅くまどろんだところで部屋のドアが開く音がした。

「玄弥。もう寝たの?」

 彩斗は布団の中に滑り込むと、なんのためらいもなく俺の下腹部を撫でた。パジャマのズボン越しとはいえ、巧みな手の動きにイかされそうになる。体をねじって抵抗しようとすると、彩斗が俺の耳たぶにかじりついた。甘い刺激を受けて、つま先から力が抜けていく。
 暗闇のなか、俺と彩斗は唇を合わせた。
 初めてのキスは十三歳の時だった。
 彩斗と洋画を見ながら留守番していたところ、男同士のそういうシーンが始まった。
 激しいキスシーンにつられて、俺たちも唇を重ねた。初めて味わう彩斗の舌は柔らかくて、ぬめぬめしていて、レモンキャンディの味がした。
 キスを続けていくうちに、ふたりとも勃起してしまった。俺たちは互いの性器を握って、欲望を解き放った。
 あの日以来、俺と彩斗はことあるごとに淫らな遊びに耽っている。やめなければいけないと思うほど快楽が深くなっていく。
 隣室では両親が寝ている。大きな声を出すわけにはいかない。
 そんな状況を熟知している彩斗は、ちゅぽっ、じゅぽぽっと派手に音を立てて俺のペニスをしゃぶるのだった。

「ンっ……、あっ、あぁっ」
「玄弥のち×ぽ、立派だね。でも女相手に使っちゃダメだよ? 玄弥は俺のものなんだから」
「……おまえのものになった覚えはないっ」

 やっとのことで彩斗の顔を下腹部から引き剥がした。すると彩斗が俺の乳首を狙ってきた。
 悪い遊びを始める前は、米粒よりも小さかった乳首が、今ではぷっくりと腫れている。彩斗は緩急をつけて俺の胸の突起をちゅうちゅうと吸った。
 
「あぁんっ」
「いいねえ、その声。気持ちよくてたまんないんだ」
「俺は……違うっ。もう、こんなことは……」
「玄弥のち×ぽ、バキバキに勃ってる上に、よだれが止まらないんですけど? こんな状態でよくいい子ぶることができるね」
「うっ、ぅぅ……っ」

 俺はカウパーまみれのペニスを恥じた。

「さあ、今度は玄弥が俺を気持ちよくして?」

 彩斗の甘い声に逆らえず、俺は奴のち×こに手を伸ばした。薄い皮膚を通して熱が伝わってくる。俺は彩斗が好きな場所を責めていった。イかせてしまえば、このモンスターは大人しくなる。
 俺は彩斗の亀頭を飲み込んだ。
 じゅぷっ、じゅぷぷっという粘ついた音が耳に絡みついてくる。自分の舌と唇が奏でている音だとは思いたくなかった。
 
「玄弥、フェラ上手くなったね」
「うるせぇっ」
「学校の奴らに教えてあげたいなー。陸上部の竹井玄弥くんは、男と毎晩遊んでるスキモノだって」
「くっ……! んんッ、は……あ、ぁあ……ッ」

 彩斗はみずからの極太ち×ぽを俺のペニスに擦りつけた。互いの雄と雄がビンビンと膨れ上がっていく。

「あ……、だめだ……っ! イくぅ……っ」
「イけよ」

 尿道口を刺激された瞬間、俺は白く濁ったものを外に放った。
 彩斗もまた、俺の腹の上に精液をぶちまけた。


◆◆◆


 県大会当日になった。
 俺は必死でトラックを駆け回った。 
 今だけでいい。体が風に溶け込んでしまえばいいのに。そう願いながらゴールを目指した。
 結果は二位だった。
 表彰台の上に立った俺に、たくさんのカメラが向けられた。

「あの、竹井くん。ちょっといい?」

 後日。
 大会の余韻が残る放課後。
 いつものように部活を終えて、校門に向かって歩き出すと、同じクラスの和泉春花に声をかけられた。和泉は手にクリーム色の封筒を持っていた。
 和泉は文芸部に所属していて、成績は常にトップクラスだ。黒縁の大きな眼鏡をかけているが、顔立ちは可憐そのものである。
 聡明な和泉も、彩斗のような男が好きなのか。
 
「彩斗への手紙?」
「ううん。竹井くんに」
「俺?」
「県大会、入賞おめでとう」

 震える声でそう言うと、和泉は俺に封筒を差し出してきた。

「これ、私の気持ちです」

 俺はクリーム色の封筒を受け取った。


◆◆◆


 封筒と同じクリーム色の便箋には、和泉の綺麗な字で率直な思いが綴られていた。和泉は俺のことが好きで、交際を希望しているらしい。「竹井くんを困らせるようなことはしないから」という言葉が、実直な彼女らしかった。
 返事を書くために、便箋を用意する必要がある。
 両親はまだ仕事から帰って来ない。夕飯までには間があった。
 俺は家の外に出た。そして近所にある文房具屋で白いレターセットを購入した。
 買い物を終えて帰宅すると、玄関に彩斗が立っていた。彩斗の手にはクリーム色の封筒が握られていた。

「これ、どういうこと?」
「引き出しを勝手に開けたのか」
「玄弥はこの女と付き合いたいの?」
「そうだな。まずは友達から……」

 いきなり唇を奪われたうえに、舌を思いきり吸われた。
 俺は彩斗を押しのけようとしたが、予想以上に力が強くて、体を離すことはできなかった。彩斗はまるで溺れる人のように俺にしがみついてくる。

「俺のことが好きだったんじゃないの?」

 彩斗の美麗な顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。

「玄弥は俺のことが好きだから、いけないことをしたんじゃなかったの?」

 胸ぐらを掴み上げられた瞬間、俺は恍惚を覚えた。
 俺は彩斗を支配している。
 彩斗の心は、俺の行動次第で血を流す。ヘアスタイルにこだわりのある彩斗が、髪を振り乱して俺にすがりついている。
 彩斗は弱い。
 俺がいなければダメなんだ。
 和泉はどうだろう。俺はきみを愛していないと告げたら、あっさりと身を引きそうだ。彼女は理性でできている。
 彩斗は本能で動いている。母の愛を乞う子どものような必死さで、俺を求めている。

「……彩斗」
「なに!? なんでも言って。俺、なんでもする! だからそばにいて」

 俺は彩斗の手からクリーム色の封筒を奪い取った。
 そして、封筒をぐしゃりと握り潰した。
 彩斗が微笑みを浮かべた。


◆◆◆
 

「男同士でエッチした奴は、多苦悩処っていう地獄に堕ちるらしいよ」

 俺のパジャマを脱がせながら、彩斗が言った。

「彩斗、怖いのか?」
「……少し」
「どうして」
「玄弥が俺を受け入れてくれるなんて、突然すぎて信じられないから」

 彩斗が俺の裸身を抱きしめた。
 俺は彩斗の頬にちゅっと口づけた。彩斗の大きな目が嬉しそうにとろける。やっぱりこいつは俺がいないとダメなんだ。

「彩斗も脱げよ」
「うん」

 ボクサーパンツの中からぼろんと飛び出た彩斗のペニスは、上を向いていた。俺は硬く張り出した彩斗の竿に指を這わせた。先走りを帯びた雄芯からにちりという淫らな音が響く。

「なんか今日の玄弥、積極的」
「こうでもしなきゃ、おまえの不安を取り除けないだろ?」

 俺は彩斗の肉茎を咥えた。
 彩斗が気持ちよさそうに息を吐く。俺が何かを与えれば、それに応じて素直な反応を見せる。そんな彩斗を可愛いと思った。
 頭を前後に動かして、彩斗の雄しべをしゃぶる。口の中にしおの味が広がった。
 彩斗は「あっ、あぁっ」と喘いだあと、俺の口内に白濁を放った。
 俺は喉に絡みついてくる濃くて温かいものを嚥下した。

「……こんなこと、おまえとじゃなきゃしない」
「玄弥……」
「来いよ。俺を好きにしたいんだろ?」

 両腕を広げると、彩斗が抱きついてきた。
 彩斗は俺の唇を吸いながら、乳首をいじった。ぷくんと腫れた器官を指の腹でピンと弾く。俺は口のはしから垂れた唾液をぬぐうことも忘れて、彩斗の愛撫に浸った。

「玄弥、可愛い。おっぱいに触れられるの大好きなんだもんな」
「ん……! あ、あぁっ」
「俺、地獄に堕ちてもいいや。玄弥が欲しい」

 ちゅぱちゅぱと俺の左右の乳首を吸うと、彩斗はローションを手に垂らした。そして濡れた指先を俺のアヌスに当てた。

「……準備はしてある」
「ありがとう、玄弥。優しくするから」

 俺はゆっくりと開脚した。彩斗は俺のペニスを舐めながら、アヌスに指を突き立てた。後ろを使うのは初めてだ。俺はこれまで味わったことがない圧迫感に戸惑った。彩斗の巨大なペニスを飲み込んだらどうなってしまうのだろう。

「あ、ぁ……、っ!」
「苦しい? このあたり、感じない?」
「ひぁッ!」
 
 声が裏返るほどに、その箇所を責められるのは心地よかった。なんだ、この感覚は? すぼまったところに指を埋め込まれて辛いはずなのに、甘い吐息が漏れてしまう。
 彩斗は俺の反応を見ると、満足そうに微笑んだ。

「ここが玄弥のいところなんだ」
「んッ、はぁ……あっ、あぁっ! そんなに触るなっ」
「俺しか知らない……。玄弥を好きにできるのは俺だけだ」
「あぁーっ!」

 俺のペニスの先端から白いものが放たれた。
 彩斗はみずからの腹を汚した精液を指ですくい取った。濡れた指が彩斗の口元に運ばれていく。ちゅるんと音を立てて彩斗は俺のザーメンを飲み込んだ。
 
「これでおあいこだな」
「彩斗……」
「そんな切ない目で俺を見るなよ。俺はもう玄弥のものなんだから」

 俺は再び勃起した彩斗のペニスに触れた。
 彩斗が真剣な表情で言った。

「後戻りはできないよ。それでいいな?」
「……ああ」

 コンドームを装着したあと、彩斗が俺の秘所を貫いた。正常位で交わった俺たちは夢中でキスをした。

「ん、くぅっ、っあ、あぁ……っ!」
「玄弥のナカ、すごい。うねってる……」

 彩斗はしばらく俺を抱きしめたあと、ピストン運動を開始した。
 入っては戻るペニスの動きに合わせて腰が揺れていく。彩斗はおそらくセックスの才能があるのだろう。俺の悦点を刺激することを忘れなかった。

「彩斗ぉ。そこ、ダメだっ! 変になるぅ……っ!」
「もっと擦ってほしいだろ?」
「あぁんっ、あーっ」
「玄弥、泣いてる。本当は嫌だった?」

 俺は首を横に振った。

「……彩斗とひとつになれて嬉しい」
「俺もだよ」

 彩斗は俺の奥を突いたあと、大きく息を吐いて果てた。
 ずるりとペニスが引き抜かれる。彩斗は外したコンドームの口を縛ると、俺にキスをした。

「玄弥の隣、誰にも譲る気はないから」
「俺だって」

 彩斗に抱きしめられながら、俺は眠りに落ちた。


◆◆◆


「ごめん、和泉。俺、好きな奴がいるから」

 和泉は晴れやかに笑った。

「ありがとう。竹井くんなら、ちゃんとフッてくれるって思ってた」

 去っていく和泉の背中を見送ったあと、俺は部活に合流した。
 帰宅すると彩斗が出迎えてくれた。

「おかえり」
「ただいま」

 両親はまだ帰ってきていない。俺と彩斗は玄関で抱き合った。
 彩斗の唇が迫ってくる。
 たとえ地獄の炎に焼かれることになっても、彩斗と一緒ならば平気だろう。
 俺は甘えたがりの舌をあやすようにキスをした。



(了)
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