【完結】童貞くんを理想の彼氏に育てようとしたら、ヤンデレ&ドS化しました

古井重箱

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第1話 出会い

 オーディションの会場である狭い部屋に立つと、セージの心が躍った。
 
━━やってやる。

 王子と町娘の恋を描いたラブコメディ。人気劇作家の新作になんとしてでも出演したい。
 セージが狙うのは王子役である。主役ということもあって、先ほど控え室で見かけたライバルたちはみな麗しかった。
 セージは今年23歳になる。舞台俳優として、ノッている時期だと思う。
 ここは商都ゲルトシュタット。人、モノ、カネが集まる大都会である。
 商人や地元の住民たちが余暇に娯楽を求めるため、演劇が盛んに上演される。セージは田舎の生まれだが、活躍の場を求めて14歳の時にゲルトシュタットにやって来た。
 下積みを経て、今では主役を張れるほどの役者になった。
 ゲルトシュタットの演劇ファンのあいだでは、セージ・リンゼオンの名はよく知られている。オーディションを受けるまでもなく、王子役はきっと自分のものだろう。セージは口元に微笑を浮かべた。緊張などまるでしていない。
 演出家はそんなセージの様子をじっと観察している。

「では、始めてくれるかな」
「はい」

 演出家の指示を受けて、劇中のセリフを読み上げる。

「ああ、エルシラ。きみと出会って僕は変わった……」
「はい、そこまで。もういいよ」

 まだ一つ目のセリフを口にしただけなのに、ストップをかけられてしまった。グレイヘアがよく似合う演出家は、セージの全身を眺め回したあと、ふうっと息を吐いた。

「きみ、華がないね」
「え……?」
「しばらく恋から遠ざかってるでしょ」

 図星だった。
 3年前に恋人と別れてからセージは恋愛とは無縁だった。忙しさを理由に新たな相手を探すこともなかった。
 たったひと言セリフを発しただけでセージの寂しい私生活を見抜くとは。この演出家は只者ではない。

「お時間をいただき、ありがとうございました」
「セージ・リンゼオンくん。芝居も大事だが、きみの人生はもっと大事だよ」

 オーディションに落ちた挙句、説教までくらってしまった。
 このまま家に帰っても、自己嫌悪タイムが待っているだけだ。
 セージは夜の街に繰り出した。



◇◇◇



「あんた、こういうところは初めて?」

 ゲルトシュタットの路地裏にある女人禁制の酒場にて、セージは傭兵風の男にロックオンされていた。男の顔にはいくつか傷があり、よく日に焼けている。雄々しいけれども、セージの好みではない。セージはもっとシャイなタイプが好きである。

「……昔、1回だけ来たことがあるよ」
「そうは見えないけどな。遊んでるでしょ。蜂蜜みたいなブロンドに、菫色の瞳か。綺麗だね」

 男の手がセージの尻に伸びる。
 盛り場に出向いたのだから、こういった目に遭うのは想定の範囲内である。でも、セージにだって選ぶ権利がある。初対面の相手に図々しい振る舞いをする男などお断りだ。

「やめろよ」
「好きなくせに」

 男の指がセージの唇に触れた。
 いきなり距離を詰められて、ぞわりと悪寒が走った。
 男はセージの華奢な腕を引っ張ると、壁ぎわに連れていった。そして細い体を後ろから抱きすくめた。男のむわりとした体熱がセージの肌にこもる。
 手足をばたつかせて抵抗したものの、状況は変わらなかった。周囲の客たちは会話に夢中である。
 男の下腹部がセージの薄い尻に押し当てられた。
 硬い。勃起している。

「さあ、一緒にトイレに行こうか」
「……いきなりすぎだろ」
「ここはそういう、インスタントな関係を求める奴らの溜まり場だけど?」
「あんたとじゃ、そういう気分になれない」
「なんだって?」

 ぐいっと手首を掴まれる。
 セージは恐怖を感じた。だが、腕力では敵わない。

「男が欲しくてここに来たんだろう。俺の相手をしろ」
「……やっ」
「おい、貴様。その人を離せ。嫌がってるじゃないか」

 ピンチを迎えたセージのもとに現れたのは、ガタイのいい青年だった。タレ目に太い眉。どことなく幼い顔立ちだ。セージより年下であろう。身なりがよくて清潔感があって、スレた感じがしない青年だ。
 非番の騎士だろうか。

「人の恋路を邪魔するんじゃねぇ」
「浅ましいモノを押しつけて怖がらせるのが、貴様にとっての恋愛なのか?」

 青年は男の手をセージから引き剥がした。あどけない顔をしているが、かなりの腕力の持ち主である。
 自由になったセージは青年の後ろに隠れた。広い背中だ。とても頼もしく感じる。

「ちっ。覚えてろよ」

 男はチンピラにありがちなセリフを吐くと、セージの元から離れた。
 セージは青年に礼を言った。

「ありがとう。おかげで助かったよ」
「あなたのように綺麗な人がこんなところに来てはダメですよ。危ないです」
「きみは安全なのかな?」

 セージが誘うような微笑みを向けると、青年は顔を真っ赤にした。

「俺はその……。下心がないと言えば嘘になりますが、あなたとこうして話をしているだけで満足です」
「無欲なんだ?」
「いや……。あわよくば、いい思いをしたいですけどね」
「じゃあ、俺と楽しんでみる?」

 青年はごくりと喉を鳴らした。
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