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第5話 姫君に捧げるキス
ルゼイオは勤務中のようだった。革鎧を着て、腰に長剣を下げている。革鎧の胸部に輝くのは翼の紋章。黄金騎士団に所属している証である。
タレ目のルゼイオであるが、今の目つきといったら鞘から引き抜かれた剣のように鋭い。
「近隣の住民から通報があって来たんだが……セージさんに無礼なことを言ったのはおまえか?」
「へえ。やるじゃねぇか、セージ。騎士様を引っかけたのか」
「おい、下郎。これからもお喋りがしたいだろう? 舌を切り落とされたくなかったら、もう黙れ」
「どうぞ、騎士様。俺のお下がりでよければ、くれてやるよ。セージはアレを突っ込まれながらうなじを噛まれるのが大好きだぜ?」
ゴッという鈍い音がして、ゲオルグの体が地面に沈んだ。ルゼイオの肘打ちがゲオルグの背中を直撃したらしい。
ゲオルグはバッタのように這いつくばると、「ひいぃっ」と情けない悲鳴を上げた。
「なんて力だ!」
「セージさん。この男は昔、あなたが愛した相手なのですか」
ルゼイオの問いかけに、セージは素直にうなずいた。
「そうですか。それならば、これ以上はこの男を痛めつけたりはしません」
「はっ! 内心は俺をぶっ殺したくて仕方がねぇだろ、間男くんよぉ! セージの後ろも乳首も、全部俺が開発済みだ。こいつは俺好みに調教された雌犬なんだよ!」
「……前言を撤回する。騎士道に基づき、わが姫君を侮辱した貴様に処罰を下す」
「んぎゃっ!!」
ルゼイオの戒めによって、ゲオルグの腕が背中へと回る。ルゼイオはゲオルグの顔を地面に押しつけると、ぐっと体重をかけた。骨が軋むみしみしという音がする。
「ルゼイオ! もういいよ。ゲオルグは仕方がない奴なんだ」
「セージさん……」
「俺ぁ、明日また冒険に出ないと行けないんだよぉ。酒代が溜まってて、尻に火がついてるんだっ!!」
「勝手なことばかりを言って。消えろ。二度とセージさんの前に姿を見せるな」
ルゼイオに冷たい声を浴びせられたゲオルグは、四つん這いになりながら走り去っていった。
セージはルゼイオに向き直った。
「……俺は昔、あいつと関係があった。あいつが言うように、俺のカラダは汚い……。きみとはもう会えない」
「何を言ってるんですか! あんな男との記憶なんて、俺が吹き飛ばしてやります!」
「ルゼイオ……」
「セージさん。あなたは綺麗です……」
ルゼイオは膝を突くと、セージの手の甲にキスをした。
騎士が膝を屈してキスを捧げるのは貴婦人、あるいは心に決めた姫君だけと決まっている。自分は果たしてルゼイオの姫君としてふさわしいのだろうか。セージが悲しげに眉を寄せると、今度は優しく抱き寄せられた。
革鎧に隔てられているため、ルゼイオの心音は聞こえない。
でも、周囲の視線から情けない顔を隠してくれた気遣いがとても嬉しかった。
「俺がいますから、もう大丈夫です」
「ルゼイオ、ありがとう……」
「明日は空いていますか? 急な話なのですが、休みができたんです」
「それは嬉しい知らせだ。きみと景色のいいところに行きたいな」
「そうですね。湖でも見に行きましょうか」
デートの約束を取りつけると、元気が出てきた。
セージはルゼイオの懐から頭を上げた。はにかみながら笑顔を見せる。
一方のルゼイオは、泣きそうな表情だった。
「いっぱい傷つけられた分、俺があなたを幸せにします」
「ありがとう……」
この場の勢いに任せてキスをしないのが、ルゼイオのいいところである。
━━この子はやっぱり、俺の理想の彼氏だな。
セージは幸せを噛み締めた。
タレ目のルゼイオであるが、今の目つきといったら鞘から引き抜かれた剣のように鋭い。
「近隣の住民から通報があって来たんだが……セージさんに無礼なことを言ったのはおまえか?」
「へえ。やるじゃねぇか、セージ。騎士様を引っかけたのか」
「おい、下郎。これからもお喋りがしたいだろう? 舌を切り落とされたくなかったら、もう黙れ」
「どうぞ、騎士様。俺のお下がりでよければ、くれてやるよ。セージはアレを突っ込まれながらうなじを噛まれるのが大好きだぜ?」
ゴッという鈍い音がして、ゲオルグの体が地面に沈んだ。ルゼイオの肘打ちがゲオルグの背中を直撃したらしい。
ゲオルグはバッタのように這いつくばると、「ひいぃっ」と情けない悲鳴を上げた。
「なんて力だ!」
「セージさん。この男は昔、あなたが愛した相手なのですか」
ルゼイオの問いかけに、セージは素直にうなずいた。
「そうですか。それならば、これ以上はこの男を痛めつけたりはしません」
「はっ! 内心は俺をぶっ殺したくて仕方がねぇだろ、間男くんよぉ! セージの後ろも乳首も、全部俺が開発済みだ。こいつは俺好みに調教された雌犬なんだよ!」
「……前言を撤回する。騎士道に基づき、わが姫君を侮辱した貴様に処罰を下す」
「んぎゃっ!!」
ルゼイオの戒めによって、ゲオルグの腕が背中へと回る。ルゼイオはゲオルグの顔を地面に押しつけると、ぐっと体重をかけた。骨が軋むみしみしという音がする。
「ルゼイオ! もういいよ。ゲオルグは仕方がない奴なんだ」
「セージさん……」
「俺ぁ、明日また冒険に出ないと行けないんだよぉ。酒代が溜まってて、尻に火がついてるんだっ!!」
「勝手なことばかりを言って。消えろ。二度とセージさんの前に姿を見せるな」
ルゼイオに冷たい声を浴びせられたゲオルグは、四つん這いになりながら走り去っていった。
セージはルゼイオに向き直った。
「……俺は昔、あいつと関係があった。あいつが言うように、俺のカラダは汚い……。きみとはもう会えない」
「何を言ってるんですか! あんな男との記憶なんて、俺が吹き飛ばしてやります!」
「ルゼイオ……」
「セージさん。あなたは綺麗です……」
ルゼイオは膝を突くと、セージの手の甲にキスをした。
騎士が膝を屈してキスを捧げるのは貴婦人、あるいは心に決めた姫君だけと決まっている。自分は果たしてルゼイオの姫君としてふさわしいのだろうか。セージが悲しげに眉を寄せると、今度は優しく抱き寄せられた。
革鎧に隔てられているため、ルゼイオの心音は聞こえない。
でも、周囲の視線から情けない顔を隠してくれた気遣いがとても嬉しかった。
「俺がいますから、もう大丈夫です」
「ルゼイオ、ありがとう……」
「明日は空いていますか? 急な話なのですが、休みができたんです」
「それは嬉しい知らせだ。きみと景色のいいところに行きたいな」
「そうですね。湖でも見に行きましょうか」
デートの約束を取りつけると、元気が出てきた。
セージはルゼイオの懐から頭を上げた。はにかみながら笑顔を見せる。
一方のルゼイオは、泣きそうな表情だった。
「いっぱい傷つけられた分、俺があなたを幸せにします」
「ありがとう……」
この場の勢いに任せてキスをしないのが、ルゼイオのいいところである。
━━この子はやっぱり、俺の理想の彼氏だな。
セージは幸せを噛み締めた。
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