【完結】風紀委員と不良のエンドレスゲーム

古井重箱

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風紀委員と不良のエンドレスゲーム その1

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 五月らしい澄みきった青空が広がっている。
 私立清嵐館せいらんかん高校では、朝のあいさつ運動が行われていた。
 風紀委員の桐原透矢きりはらとうやは紺色の腕章を付けて校門に立ち、「おはようございます!」と元気な声を響かせた。
 透矢は中肉中背で腰が細い。顔のパーツは慎ましいつくりで、自己主張が控えめである。
 しかし、透矢の黒い瞳には風紀委員として学校をよいものにしたいという信念が宿っており、強い存在感を放っている。
 そろそろ閉門時刻というところで、長身の男子生徒、竹井武流たけいたけるが現れた。
 竹井は遅刻しそうにも関わらず、余裕たっぷりの表情である。彼の耳元に光るアクセサリーに気づいた透矢は声を尖らせた。

「竹井。ピアスは校則違反だぞ」
 
 透矢は身長差をものともせず竹井を見上げた。そして甘く整った顔を睨みつけた。竹井はヘラヘラと笑うばかりで、反省する様子はまったくない。
 竹井が透矢の細い腰を抱き、耳元で囁いた。

「これはイヤーカフだよ。透矢くん」
「外せるのか?」 
「うん。透矢くんに付けてあげる」

 さっとイヤーカフを外すと、竹井が透矢の耳に触れた。くすぐったさと恥ずかしさが同時に襲ってきて、透矢はパニックになった。竹井から体を離そうとして、バランスを崩してしまう。

「大丈夫?」

 竹井の大きな手に支えられて、透矢は転倒を免れた。お礼を言うべきかもしれない。そう思った透矢だが、口をつぐんだ。そもそも竹井がイヤーカフを付けて学校に来たのが悪い。

「このイヤーカフは没収だ。鈴原先生に渡しておくから、ちゃんと指導を受けろよ」
「りょーかい。鈴ちゃん先生って怒った顔も可愛いよなー」
「……竹井。清嵐館高校の生徒として、節度ある言動を心がけろ」

 もうすぐホームルームが始まる。
 透矢は他の風紀委員とともに校舎に引き上げた。


◆◆◆


 一時間目の英語の授業が始まった。
 竹井は鈴原教諭の質問に対して、完璧な発音で答えた。
 勿体無いと透矢は思った。竹井は勉強ができる。ヘアカラーや学ランを着崩すことをやめれば教師に目をつけられることもないだろう。
 もしかして、竹井は若くて美しい鈴原教諭に気があって、構ってほしいから不良を演じているのか? 透矢は竹井を哀れに感じた。イケメンの竹井は女子生徒から恋情を向けられることは多々あるに違いない。でも、鈴原教諭のような大人の女性から見たら、ただの子どもだ。
 
「桐原くん。次の段落を音読してください」

 透矢は竹井に負けじと、発音に気を遣いながら英文を読み上げた。

「なあ、透矢くん。今日のお昼一緒に食べない?」

 休み時間になった途端、竹井が透矢の席へとやって来た。教室全体に響くような大きな声で誘われたが、透矢は首を横に振った。

「遠慮しておく。昼休みは校内の見回りがある」
「忙しいねー、風紀委員」
「タケタケー! 化石くんなんか放っておいて、こっちに来いよ」
 
 竹井武流だから略してタケタケ。安易なネーミングセンスに呆れる。透矢はクラスの派手なグループの生徒から「化石くん」と呼ばれても顔色ひとつ変えなかった。
 化石で結構。
 学ランの下に着るのは白いシャツ。男子の頭髪は眉にかからないように短く切る。女子は化粧禁止。アルバイトには学校の許可が必要。不純異性交遊は厳禁。一部の生徒が時代遅れだと校則を批判しているが、透矢は違う意見である。
 校則とは自分たちを守ってくれる盾だ。高校生は体が成熟してきて、何かと誘惑が多い。校則を守って清い生活を送っていれば、道を踏み外すことはない。

「化石くん、あの噂聞いたら驚きのあまり、アタマ割れちゃうんじゃないの?」

 派手な男子生徒が竹井に下卑た笑いを向けた。竹井が「あー、あれ」と相槌を打った。

「女子が学校にバイブ持ってきてるって話?」
「そう、それ」
「やだ、タケタケ。そんな噂信じてるの」

 アイメイクを施した女子生徒が甘えた視線を竹井に送った。

「なに。俺の生ちんぽの方がいい?」
「もう! タケタケ、最っ低!!」

 そうは言いつつも女子生徒は嬉しそうに体をくねらせている。
 冗談ではない。透矢は憤慨した。ここは場末のガールズバーではない。若人が勉学やスポーツに励むために集まっている学びやだ。神聖な場所を汚さないでもらいたい。
 透矢は竹井たちを一喝した。

「いい加減にしろ! ここは教室だぞ。節度のある会話を心がけろ」

 竹井と派手なグループの生徒たちは、どっと笑い出した。

「化石くん、必死すぎ!」
「きみだってオナニーぐらいするでしょ?」
「ごめんねー。バイブの話は童貞くんには刺激が強すぎたねー」

 人前で嘲笑を浴びせられて、透矢はプライドがいたく傷ついた。セックスをしたことがあるからなんだと言うのだ。校則も守らず異性と遊んでいる奴らに馬鹿にされる謂れはない。

「透矢くん、悔しそうだね。鈴ちゃん先生に言いつけるの? 透矢くんって先生たちのペットだもんね」

 竹井に挑発されて、透矢の怒りは頂点に達した。

「……竹井。放課後、カバンを持って風紀委員会室に来い」
「なに。透矢くんが俺に告白するの? カバンも持ってこいってことはプレゼントまで貰えちゃうの?」
「断じて違う。いいから約束を忘れるなよ?」
「はいはい」
「化石くん、タケタケに振られちゃうのかなー」
「ウケるー! ヤリチンのタケタケが男に走るわけないじゃん」

 ゲラゲラという笑いが湧き起こる。
 透矢は指先が白くなるまで拳を握り締めて、屈辱に耐えた。


◆◆◆


 昼休みがやって来た。
 透矢は弁当を平らげると、風紀委員の腕章を付けて校内の巡回を行った。図書室の書庫、旧校舎の美術室。カップルが睦み合っていたという報告があった場所を重点的にチェックする。
 校庭からはサッカーに興じる男子生徒の歓声が聞こえてきた。
 自習室を覗けば、多くの生徒が勉学に打ち込んでいた。
 これこそが清嵐館せいらんかん高校だと透矢は思った。高校生はスポーツと勉強に励むべきである。真面目な生徒にはセックスなどという低級なものは似つかわしくない。
 だいたい、親がかりの身で何かあったらどう責任を取るというのか。セックスがしたければ退学して自活しろと言いたい。
 体育館の裏側に、砂まみれになったグラビア雑誌が落ちていた。
 透矢は無表情で卑猥な雑誌を拾い上げると、携行していたビニール袋に突っ込んだ。
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