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第7話 もしかして運命? え? 当分は白い結婚?
わが君よ、どうか待っていてほしい。
千の波を越え、君の待つ港へ。
いざ帰らん、いざ帰らん。
……俺が歌詞を聞き取れたのは、ここまでだった。あとはヴァイゼンの歌声に没入してしまった。
なんだ、この感覚は……!?
ヴァイゼンの朗々とした声を聞いていると、体の内側が華やいでいく。俺の血潮という血潮が、ヴァイゼンの声を求めて熱いしぶきを上げている。俺はヴァイゼンの美声に聞き入った。
音程を外すこともなければ、歌詞を濁すこともない。
堂々たる歌声だった。
俺はヴァイゼンがその身に宿している音楽の深さと潔さに感じ入った。音楽は嘘をつかない。純粋なものだ。特に歌声ともなれば、その人が歩んできた人生の足取りや、心根がにじみ出る。
終わらないでほしい。
ずっとこの歌を聞いていたい。
ヴァイゼンの緑青の瞳に訴えかければ、歌声が転調して別の曲が始まった。
安らかな旋律が俺を包み込む。
たゆたう波を背に、ヴァイゼンが体を揺らす。ヴァイゼンの歌声はひたむきだった。俺を心から案じているのが伝わってくる。
ヴァイゼンの声が低い音階をなぞった時、俺は腹の底にずくんという刺激を感じた。
なんなんだ、これは?
俺は悪妻になってこの男と別れないといけないのに、本能がその計画を妨げる。潤んだまなざしをヴァイゼンに送り、彼の方へと手を伸ばしてしまう。耳だけでは嫌だ。この人をもっと五感全体で味わいたい。
理性を遮る、頑是ない本能の叫び。
これではまるでヒートの最中のようではないか。
俺がめまいを覚えた瞬間、ヴァイゼンに腰を抱かれた。
「すまん。長々と付き合わせてしまったな」
「いえ……。素晴らしい歌声でした」
音楽に関して、俺は嘘をつけない。ヴァイゼンに対して、素直に賛意を伝える。ヴァイゼンは照れたようだった。
「俺は下手くそだと姉上に言われる」
「えぇっ? 本当ですか」
「父はもっと素晴らしい歌い手だった」
「……お父上は今どちらに?」
「散ったよ。巨鯨との戦いでな」
ヴァイゼンは広い海に向かって、両腕を広げた。
「この海原は、俺たちに恵みをもたらすとともに、試練を与える。巨鯨もそのひとつだ」
「戦わないという選択肢はないのですか?」
「巨鯨は水を呼ぶ。退治しないと、この南域が大水に見舞われる」
かくして南域では、男たちが巨鯨に挑むのだという。領主を筆頭にして。
「中央政府からは、巨鯨狩りは時代錯誤だと言われるが、ここにはここのやり方がある」
「……ヴァイゼン様は怖くないのですか」
「怖いさ。巨鯨に葬られるのなど真っ平ごめんだ。でも、俺がやらなければ、民を守れない」
ヴァイゼンの声音は静かだった。
豪快なだけの男だと思っていたが、民を案じる姿からは繊細なものが感じられた。この人の心をもっと知りたいと思ってしまい、俺は首を横に振った。
ダメだ。
悪妻計画を忘れたのか?
人には適材適所というものがある。
俺のように狭量で自己肯定感の低いオメガが、巨鯨と戦う男にとって安らげる相手になれるわけがない。
「ヴァイゼン様。あの……この結婚なのですが」
「ああ。当分は白い結婚でいこう。みんなにもそう言ってある」
「え?」
俺が言い出そうとしたことを、ヴァイゼンが先に口にした。
白い結婚を許容する?
ヴァイゼンは一体、どういうつもりなのだろう。
千の波を越え、君の待つ港へ。
いざ帰らん、いざ帰らん。
……俺が歌詞を聞き取れたのは、ここまでだった。あとはヴァイゼンの歌声に没入してしまった。
なんだ、この感覚は……!?
ヴァイゼンの朗々とした声を聞いていると、体の内側が華やいでいく。俺の血潮という血潮が、ヴァイゼンの声を求めて熱いしぶきを上げている。俺はヴァイゼンの美声に聞き入った。
音程を外すこともなければ、歌詞を濁すこともない。
堂々たる歌声だった。
俺はヴァイゼンがその身に宿している音楽の深さと潔さに感じ入った。音楽は嘘をつかない。純粋なものだ。特に歌声ともなれば、その人が歩んできた人生の足取りや、心根がにじみ出る。
終わらないでほしい。
ずっとこの歌を聞いていたい。
ヴァイゼンの緑青の瞳に訴えかければ、歌声が転調して別の曲が始まった。
安らかな旋律が俺を包み込む。
たゆたう波を背に、ヴァイゼンが体を揺らす。ヴァイゼンの歌声はひたむきだった。俺を心から案じているのが伝わってくる。
ヴァイゼンの声が低い音階をなぞった時、俺は腹の底にずくんという刺激を感じた。
なんなんだ、これは?
俺は悪妻になってこの男と別れないといけないのに、本能がその計画を妨げる。潤んだまなざしをヴァイゼンに送り、彼の方へと手を伸ばしてしまう。耳だけでは嫌だ。この人をもっと五感全体で味わいたい。
理性を遮る、頑是ない本能の叫び。
これではまるでヒートの最中のようではないか。
俺がめまいを覚えた瞬間、ヴァイゼンに腰を抱かれた。
「すまん。長々と付き合わせてしまったな」
「いえ……。素晴らしい歌声でした」
音楽に関して、俺は嘘をつけない。ヴァイゼンに対して、素直に賛意を伝える。ヴァイゼンは照れたようだった。
「俺は下手くそだと姉上に言われる」
「えぇっ? 本当ですか」
「父はもっと素晴らしい歌い手だった」
「……お父上は今どちらに?」
「散ったよ。巨鯨との戦いでな」
ヴァイゼンは広い海に向かって、両腕を広げた。
「この海原は、俺たちに恵みをもたらすとともに、試練を与える。巨鯨もそのひとつだ」
「戦わないという選択肢はないのですか?」
「巨鯨は水を呼ぶ。退治しないと、この南域が大水に見舞われる」
かくして南域では、男たちが巨鯨に挑むのだという。領主を筆頭にして。
「中央政府からは、巨鯨狩りは時代錯誤だと言われるが、ここにはここのやり方がある」
「……ヴァイゼン様は怖くないのですか」
「怖いさ。巨鯨に葬られるのなど真っ平ごめんだ。でも、俺がやらなければ、民を守れない」
ヴァイゼンの声音は静かだった。
豪快なだけの男だと思っていたが、民を案じる姿からは繊細なものが感じられた。この人の心をもっと知りたいと思ってしまい、俺は首を横に振った。
ダメだ。
悪妻計画を忘れたのか?
人には適材適所というものがある。
俺のように狭量で自己肯定感の低いオメガが、巨鯨と戦う男にとって安らげる相手になれるわけがない。
「ヴァイゼン様。あの……この結婚なのですが」
「ああ。当分は白い結婚でいこう。みんなにもそう言ってある」
「え?」
俺が言い出そうとしたことを、ヴァイゼンが先に口にした。
白い結婚を許容する?
ヴァイゼンは一体、どういうつもりなのだろう。
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