【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる

古井重箱

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第13話 アルファとオメガの行き着く先

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 頭がふわふわする。
 俺だって実家にいた頃、葡萄酒ぐらいは飲んだことがあった。でも、ヴァイゼンが嗜んでいる酒は相当強いものだったらしい。
 後悔しても遅い。酒精が体の中を駆け巡っている。
 横抱きにされながら、俺は思いついた言葉をヴァイゼンに投げつけた。

「ヴァイゼンの大馬鹿野郎!」
「ああ。その自覚はあるぞ」
「そういうところだよ! 俺が言うことをなんでも肯定的に受け止めて動じないところ! あんたはハズレの嫁を押しつけられたってまだ気づかないのか?」
「きみのどこに問題がある」
「大ありだろうが! 初夜を拒んで、酔い潰れてるんだぞ!」
「そんなことは問題ではない」

 ヴァイゼンが俺の居室の扉を開けた。そして、天蓋付きのベッドに俺の体を運び込んだ。
 俺はヴァイゼンのたくましい首に腕を回した。唇をわざとらしく突き出してみせる。

「キスしたいんだろ。すれば」
「今のきみとは遠慮する」
「ほーら。やっぱり俺のこと嫌いなんだ、内心では」
「違う。愛しているから大事にしたい。初めてのキスが酔った勢いでなんて最悪だ」
「ほんっとお馬鹿さんだね、あんた。俺みたいな嫁を飼ってたら、おたくの領地は潰れるよ?」

 俺が笑うと、ヴァイゼンが痛ましそうに目を伏せた。

「レオニエどころじゃない。それ以上の毒夫になってやる」
「……レムート。今夜はもう喋るな。酔った時の記憶は、意外とあとになってからも残るものだ。明日のきみを後悔させたくない」
「なあ、ヴァイゼン。しよっか?」

 ぺろんと裾をめくろうとした時、ヴァイゼンの力強い手によって阻まれた。
 ヴァイゼンは鬼気迫る表情である。

「なんだよ、アルファとオメガが行き着く先なんて、それだけだろ」
「俺はきみを貪りたくて結婚したわけじゃない」
「中央政府から言われて、俺の実家と姻戚を結んだだけだろ? 何をカッコつけてやがる」
「……きみとは一度、会ったことがある」
「えっ?」
「王都で開かれた音楽祭。きみはアーデル領の歌を披露していた。俺は……その時からきみのことが……」

 もつれた思考で記憶を辿る。
 王都の音楽祭に行ったのは、俺が16歳の時だ。ということは、ヴァイゼンは2年ものあいだ俺に懸想をしていたのか? おそらく、縁談も断りまくっていたのだろう。それで25歳の今に至るまで独身だったのか。

「……引くんだけど、その情熱」
「自分でもそう思う。言葉を交わしたこともなかったのにな。でも、壇上にいるきみを見て、俺の妻になる人だと確信したんだ」
「運命の番って、お互いに分かるらしいよ? あんたの場合は一方通行だ。だから思い込みだね」
「それはどうかな」

 ヴァイゼンは俺の耳元に唇を近づけると、子守唄らしき旋律を歌い出した。
 その瞬間、俺の下腹したばらが疼きはじめた。この感じ……。体が変だ。俺ではない何者か……おそらく本能がこの男と交わりたいと強くこいねがう。俺は欲望の赴くままにヴァイゼンの首に抱きついた。
 歌声はまだ終わらない。
 俺は体の奥底まで舐められているような心地になった。
 聴覚だけじゃ足りない。視覚、嗅覚、触覚、そして味覚でもヴァイゼンを感じたい。
 舌を出して唇を震わせる俺から、ヴァイゼンが体を離した。
 その凛々しい眉は苦しげに寄せられている。

「オメガは五感が優れている。きみはおそらく、聴覚優位型なんだろう」
「俺は音楽をやってる。当然だろ」
「きみは……俺の声に抗えないんじゃないのか? レムート」

 再び耳元に唇を近づけられて、低い声で囁かれれば俺の体に異変が起きた。後孔がじゅんと濡れていく。

「どうなんだ、レムート」

 ヴァイゼンが囁くたびに、俺のナカがきゅうんと締まる。
 こんなの変だ。ヒートでもないのに。
 俺は涙目になってヴァイゼンの頬を張った。

「アルファは結局それだ。本能を武器にして、オメガを蹂躙する。俺はオメガである前に、ひとりの人間なのに……っ」
「すまない。やりすぎた」
「もう俺は寝る! 明日は起こしに来なくていい。俺は自力で王都にある寺院に行く。そして修道士になる」
「神を信じていないのに?」
「声で操ってくるあんたより、神様の方がマシだ!」

 俺はヴァイゼンに向かって枕を放り投げた。こんなのただの八つ当たりなのに、俺は手を止めることができなかった。オメガとして生きてきた悔しい思いをヴァイゼンにぶつけてしまう。
 ヴァイゼンは逃げなかった。
 俺の興奮が収まるまで、そばにいてくれた。

「……俺、いやだ。あんたといると、どんどんおかしくなる」
「レムート……」
「ひとりにしてくれ。頼むからもう名前を呼ばないでくれ!」

 天蓋の隙間から、ヴァイゼンが外に出ていった。
 俺はじゅくじゅくと潤った内壁を心から厭わしく感じた。俺の体はどうしてこうなんだろう。頭は人間なのに、体は獣だ。
 こんな人生、辛すぎる。
 俺はベッドに突っ伏した。
 またしても酔いが回り、理性のかけらが消えていく。
 歓迎の宴で酔い潰れ、旦那様に当たり散らす。俺はまごうことなき悪妻だった。
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