【完結】ワンコ系オメガの花嫁修行

古井重箱

文字の大きさ
6 / 31

第6話 恋の傷は恋で癒やせ

しおりを挟む
「あの……。閨事ってそんなに大切ですか?」
「一番大事なことだよ。それ以外に何があるの? 僕たちオメガはアルファにとって『そそる』存在でないといけない」

 マルセル先生の言葉は刺激的で、僕とナナセは真っ赤になった。

「オメガに必要なのは、アルファの優秀な知性をもってしても言語化できないお色気。そして何よりも、ツンデレであること」
「ツンデレ?」
「辛いものを食べたあとに甘いものを食べると、より甘みが引き立つだろう? 人間関係もそれと同じさ。ふだんは素っ気なく振る舞い、ベッドではたっぷりと甘える。そのギャップにアルファは参るはずだ」

 お父様からも閨事の主導権を握れと言われている。でも、アルファとオメガの関係って、それしかないのかな?
 一緒に家庭を築くなら、もっと人として理解し合うことの方が大事なんじゃないかな。

「納得がいかないようだね、アズリールくん」
「僕は……僕のアルファと親愛によって結びつきたいです」
「きみが選べる立場にあるのならば、その考えでも構わないよ」
「……うぅっ」

 僕は選ばれる側の人間だ。
 やっぱり、お色気攻撃でアルファに誘いかけるしかないのかなあ。
 でも、王太子レヴィウス様は、そういう次元で相手を見ていない気がする。僕が好きなレヴィウス様は優しくて、思いやりがあって、ユーモアもたっぷりで……。
 僕が想像の枝葉を広げていると、マルセル先生の目つきが険しくなった。

「アズリールくん。もしかして誰かに恋してる?」
「ま、まさか! 僕の気持ちはただの憧れです……!」
「ああ。舞踏会か何かでタラシのレヴィウスに、たらし込まれたのか」
「タラシのレヴィウス!?」
「王太子殿下はね。そりゃあもう、人の心を掴むことに長けたお方だよ。僕の伴侶もすっかり彼に心酔して、王室と特別価格で取り引きをするようになった」

 マルセル先生はため息をついた。

「初恋は実らないって言うからね。今夜ひと晩泣いて、レヴィウス様のことは忘れた方がいいよ」
「……僕はただ、もう一度会えるだけでいいんです……!」
おもっ! 片想いなんて時間の無駄だよ。自分が一番高く売れる時に、振り向いてくれない相手に心を費やしてどうするの?」
「……うぅっ」
「決めた。ツィノー家のネットワークを使って、きみに素敵なアルファを紹介してあげる」
「えぇっ!? 結構です!」
「寿退学が出れば、僕のボーナスも上がるしねー。ふふっ。アズリールくんは初々しいからなあ。ドレスアップのしがいがあるよ! ナナセくんも一緒に来ること。ダブルデートをセッティングするね」
「私もですか……」

 うつむきかけたナナセだが、パッと顔を上げた。その目には決意が宿っていた。

「私も武人のはしくれです。覚悟を決めました。アルファとの果たし合いに勝ってみせます」
「おお、いいねえ。その意気だ」
「ナナセが行くなら、僕も……」
「そうしなさい。恋の芽が育たないうちに摘み取ってしまった方がいいよ。きみがレヴィウス様のことを考えてる時、あの人はきみじゃない誰かとよろしくやってるよ」
「……レヴィウス様って遊び人なのですか?」
「だって19歳のアルファだよ? あちらがお盛んに決まってるじゃないか」
「僕……ショックです」

 レヴィウス様は誰にでも優しいんだろうなと思ったけれども、遊び人となると話は別だ。僕は僕だけを見てくれる人がいい。
 
「……ダブルデート、行ってみます」
「よし! そうと決まったら、着ていく服を選ばないとね!」

 マルセル先生がうきうきとした表情で分厚いカタログを広げた。

「この学院にはお見合い用のドレッサーがあるから、そこから選ぶといいよ」
「僕は背が高いですけど、サイズがありますか?」
「大丈夫。きみより長身のオメガだって卒業生にいたよ」
「そうなんだ……。よかった」
「マルセル先生。ダブルデートの心得を伝授していただけませんか?」
「簡単さ。絶対にアルファを好きにならないこと! 逆に、アルファに惚れさせること! 恋はゲームだよ。分かった?」

 僕は恋の敗者だな。遊び人だと教えられても、レヴィウス様への想いが募ってしまう。
 レヴィウス様。
 もう一度お会いしたいです。
 そして、あなたのお心に触れたい……。

「はい、そこ! アズリールくん。恋するオメガモードにならない! 恋はするものではなく、させるもの!」
「うぅっ。分かりました……!」

 マルセル先生には絶対に勝てないということを僕は悟った。



◇◇◇



 午後の授業は、テーブルマナーの確認だった。
 アルファの前ではゆっくりとしたテンポで、少なめに食べるといいらしい。あと猫舌だとポイントが高いんだとか。
 僕は……どうしよう。熱いものが平気なうえに、大食いだ。
 だって体がでかいから、燃料がそれなりに必要になるんだよ。ナナセもよく食べるらしくて、青い顔をしている。
 そうこうしているうちに、マルセル先生のもとに伝令のお兄さんがやって来た。

「二人ともーっ。よかったね。ダブルデートのセッティングができたよ」
「えぇっ!? もうですか」
「ツィノー家の人脈、素晴らしいですね」
「期日は一週間後。場所は海浜公園だよ!」
「海か……。僕、初めて見ます」
「私もです」
「それは大きなアピールポイントになるね。アルファはオメガの『初めて』に弱いんだから」

 初めて海を見るなら、レヴィウス様とがよかったな……。

「アズリールくん?」
「は、はい! 恋はするものではなく、させるものですよね?」
「そうそう。きみは若いんだしさ。チャラい王太子なんて忘れて、堅実なアルファをゲットしなよ」
「チャラい……? レヴィウス様はそんな人じゃありません!」
「じゃあ、どんな人? 彼はきみにだけ優しかった?」
「いいえ……。みんなに優しかったです」
「一回しか会ったことないんでしょ。その恋、錯覚じゃない? 誰だってレヴィウス様クラスのイケメンに会ったら、ボーッとなっちゃうよ」
「……そうかもしれません」

 恋というテーマにおいて、愛されオメガであるマルセル先生に勝てるわけがない。僕は黙り込むことしかできなかった。
 ナナセが僕の震える肩に、ぽんと手をのせてくれた。

「アズリール、私も怖いよ。でも二人一緒ならば大丈夫だ」
「ありがとう、ナナセ」

 ナナセっていい子だな。彼のためにも、僕は強くならなきゃ。
 よーし。ダブルデートに向けて気合いを入れていくぞ!
 恋の傷は、恋で癒そう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

処理中です...