【完結】ワンコ系オメガの花嫁修行

古井重箱

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第8話 レヴィウス様の運命

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 レヴィウス様は相変わらずカッコよかった。
 民が着るような、草色の貫頭衣に茶色の帯を合わせていらっしゃるが、一般人とはオーラが違う。僕はレヴィウス様の藍色の瞳を見つめて、ポーッとなってしまった。
 丘にいるカップルたちは二人の世界に入っているので、王太子殿下のご登場に気づいていない。
 僕はドキドキしながらレヴィウス様に声をかけた。

「レヴィウス様。覚えておいでですか? セレスティ家のアズリールです。以前、わが家で開かれた舞踏会でご一緒させていただきました」
「覚えているさ。兄君がヴァイオリンを弾いたら猫が大量に寄って来たんだろう? その節は楽しい会話をありがとう」
「お会いできて光栄です! とっても嬉しいです!」
「はははっ。きみは元気だなあ」

 マルセル先生、ごめんなさい。
 僕はやっぱり劣等生です。ツンデレになってアルファを惚れさせるなんてできません。僕はレヴィウス様が大好きで、その気持ちを表現せずにはいられません。恋するオメガは悲劇のもとだってマルセル先生は言うけれど、愛するレヴィウス様にお会いできて僕は幸せだった。

「レヴィウス様。喉が渇いていませんか? 僕、何か買って参ります」
「曇天で涼しいから大丈夫だよ。気を遣わないでくれ」
「今日はお忍びで来られたのですか」
「ああ。守護聖獣と一緒に散歩に来た」
 
 レヴィウス様の守護聖獣は、シルフィンという名前の飛竜だった。シルフィンは小型犬ぐらいの大きさである。飛竜は体のサイズを自在に変えられる。公園で目立たないよう、小さな姿をとっているのだろう。シルフィンはレヴィウス様の足元にいて、賢そうな目で僕をじっと観察している。

「ここは海がよく見える。俺のお気に入りの場所だ」
「素敵ですよね、波の音にも風情があるし」
「アズリールは王都に来ていたのだな」
「僕……ブランシェール学院に通ってるんです。今日はその……」
「誰かとの見合いに来たのか?」
「……第一騎士団のローデリヒさんとお会いしたのですが、もう先に帰ってしまわれました」
「なんだと。無礼な奴め」
「違うんです! 僕が悪いんです。僕が……レヴィウス様のことが大好きだから、他の方のことはまったく考えられなくて」

 僕はレヴィウス様を見上げた。レヴィウス様は驚いたように目を丸くしている。そうだよな、一回しか会ったことがないオメガに告白されたんだからびっくりするよな。

「あの……。オメガから言い寄るなんてルール違反ですよね。僕のこと、振ってください! そうじゃないと僕……際限なく期待してしまいそうで」
「アズリール。きみとは一緒になれない」

 きっぱりと断られたので、僕はシュンとなった。

「……そうですよね。やっぱりそうなりますよね」
「でもそれは、きみが悪いわけじゃない。俺の問題だ。俺は死神に取り憑かれているんだよ」
「えっ……?」

 一体、なんのお話だろう?
 僕が目を見張った瞬間、レヴィウス様の背後から、ぞろりと半透明の骸骨が現れた。骨だけの頭部がケタケタと笑い声を上げる。骸骨の指先がレヴィウス様の胸元に添えられた。その仕草はまるで心臓を狙っているかのようだった。

「なんだ、おまえは! レヴィウス様から離れろ!」
「きみにはコレが見えるんだな」
「いつからそんなことに?」
「つい先日、礼拝の時に弟のヘクターが異常に気づいてくれた。ヘクターは神官なのだ」
「それで……死神の動向は?」
「奴によれば、俺は20歳の誕生日に死ぬ定めにあるらしい」
「そんなっ」

 レヴィウス様は現在19歳だ。20歳の誕生日といえば今年ではないか。レヴィウス様の余命があとわずかということ? そんなの信じたくない。
 僕がじっと見つめるなか、レヴィウス様が淡々と言葉を紡いだ。

「騎士団に所属して以来、任務で何度も危険な目に遭ったが、俺はいつも無事だった。周囲はそんな俺を『軍神に守られている』と言って褒めそやしたものだ。でも実際は違う。俺の命は死神のものだから、定めの日より前には死なないだけの話だったんだ」

 半透明の不気味な骸骨を背負いながら、レヴィウス様が力なく微笑んだ。

「隣国サンダスとの戦争の際に、父が禁呪を発動したのだ。禁呪の対価は、やがて生まれてくる第一子、つまり俺の命だったというわけだ」
「呪いを解くことはできないのですか?」
「帰らずの森の最奥部に、なんでも願いを叶えてくれる七色水晶なるものがあるらしい」
「……よりによって、帰らずの森ですか」

 帰らずの森は、大陸の各地を動き回っている移動要塞だ。飛行装置を備えていて、空に浮かんでいるらしい。帰らずの森は古代人による遺物で、さまざまなトラップが仕掛けられているという。各国の冒険者が攻略に挑んでいるが、生還した者はいないと聞く。

「レヴィウス様! 僕があなたを助けます! 強力な守護聖獣を連れて行けば、オメガの僕にだって……!」
「アズリールよ。帰らずの森に挑むのは危険すぎる。俺ひとりが大人しく死ねばいいだけの話だ。近しい者たちにもそう伝えてある」
「そんな……」
「第二王子のヘクターが俺の遺志を継いでくれる。俺はもう充分、生きた」

 僕はレヴィウス様の背後に回って、死神を引き剥がそうとした。でも死神の半透明の体は僕の指をすり抜け、僕を嘲笑うかのように中空に舞った。僕は勢い余ってレヴィウス様の背中を押してしまった。

「す、すみません」
「いいんだ。死神を遠ざけようとしてくれたんだろう? その気持ちだけで嬉しいよ」
「レヴィウス様。僕は……あなたを諦められません!」
「アズリール。すべての命には定めがある。そんな悲しそうな顔をしないでくれ」
「ひどいですよ、レヴィウス様。僕のこと好きにさせておいて、先に死んじゃうんですか?」

 僕の発言は、言いがかりもいいところだった。僕が勝手に好きになったのだから、レヴィウス様に非はない。

「アズリール、すまない。俺のことは忘れてくれ。きみの幸せを祈っている」
「僕は……あなたがいないと幸せになれません!!」

 悲痛な叫び声が曇天に吸い込まれていった。
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