8 / 31
第8話 レヴィウス様の運命
しおりを挟む
レヴィウス様は相変わらずカッコよかった。
民が着るような、草色の貫頭衣に茶色の帯を合わせていらっしゃるが、一般人とはオーラが違う。僕はレヴィウス様の藍色の瞳を見つめて、ポーッとなってしまった。
丘にいるカップルたちは二人の世界に入っているので、王太子殿下のご登場に気づいていない。
僕はドキドキしながらレヴィウス様に声をかけた。
「レヴィウス様。覚えておいでですか? セレスティ家のアズリールです。以前、わが家で開かれた舞踏会でご一緒させていただきました」
「覚えているさ。兄君がヴァイオリンを弾いたら猫が大量に寄って来たんだろう? その節は楽しい会話をありがとう」
「お会いできて光栄です! とっても嬉しいです!」
「はははっ。きみは元気だなあ」
マルセル先生、ごめんなさい。
僕はやっぱり劣等生です。ツンデレになってアルファを惚れさせるなんてできません。僕はレヴィウス様が大好きで、その気持ちを表現せずにはいられません。恋するオメガは悲劇のもとだってマルセル先生は言うけれど、愛するレヴィウス様にお会いできて僕は幸せだった。
「レヴィウス様。喉が渇いていませんか? 僕、何か買って参ります」
「曇天で涼しいから大丈夫だよ。気を遣わないでくれ」
「今日はお忍びで来られたのですか」
「ああ。守護聖獣と一緒に散歩に来た」
レヴィウス様の守護聖獣は、シルフィンという名前の飛竜だった。シルフィンは小型犬ぐらいの大きさである。飛竜は体のサイズを自在に変えられる。公園で目立たないよう、小さな姿をとっているのだろう。シルフィンはレヴィウス様の足元にいて、賢そうな目で僕をじっと観察している。
「ここは海がよく見える。俺のお気に入りの場所だ」
「素敵ですよね、波の音にも風情があるし」
「アズリールは王都に来ていたのだな」
「僕……ブランシェール学院に通ってるんです。今日はその……」
「誰かとの見合いに来たのか?」
「……第一騎士団のローデリヒさんとお会いしたのですが、もう先に帰ってしまわれました」
「なんだと。無礼な奴め」
「違うんです! 僕が悪いんです。僕が……レヴィウス様のことが大好きだから、他の方のことはまったく考えられなくて」
僕はレヴィウス様を見上げた。レヴィウス様は驚いたように目を丸くしている。そうだよな、一回しか会ったことがないオメガに告白されたんだからびっくりするよな。
「あの……。オメガから言い寄るなんてルール違反ですよね。僕のこと、振ってください! そうじゃないと僕……際限なく期待してしまいそうで」
「アズリール。きみとは一緒になれない」
きっぱりと断られたので、僕はシュンとなった。
「……そうですよね。やっぱりそうなりますよね」
「でもそれは、きみが悪いわけじゃない。俺の問題だ。俺は死神に取り憑かれているんだよ」
「えっ……?」
一体、なんのお話だろう?
僕が目を見張った瞬間、レヴィウス様の背後から、ぞろりと半透明の骸骨が現れた。骨だけの頭部がケタケタと笑い声を上げる。骸骨の指先がレヴィウス様の胸元に添えられた。その仕草はまるで心臓を狙っているかのようだった。
「なんだ、おまえは! レヴィウス様から離れろ!」
「きみにはコレが見えるんだな」
「いつからそんなことに?」
「つい先日、礼拝の時に弟のヘクターが異常に気づいてくれた。ヘクターは神官なのだ」
「それで……死神の動向は?」
「奴によれば、俺は20歳の誕生日に死ぬ定めにあるらしい」
「そんなっ」
レヴィウス様は現在19歳だ。20歳の誕生日といえば今年ではないか。レヴィウス様の余命があとわずかということ? そんなの信じたくない。
僕がじっと見つめるなか、レヴィウス様が淡々と言葉を紡いだ。
「騎士団に所属して以来、任務で何度も危険な目に遭ったが、俺はいつも無事だった。周囲はそんな俺を『軍神に守られている』と言って褒めそやしたものだ。でも実際は違う。俺の命は死神のものだから、定めの日より前には死なないだけの話だったんだ」
半透明の不気味な骸骨を背負いながら、レヴィウス様が力なく微笑んだ。
「隣国サンダスとの戦争の際に、父が禁呪を発動したのだ。禁呪の対価は、やがて生まれてくる第一子、つまり俺の命だったというわけだ」
「呪いを解くことはできないのですか?」
「帰らずの森の最奥部に、なんでも願いを叶えてくれる七色水晶なるものがあるらしい」
「……よりによって、帰らずの森ですか」
帰らずの森は、大陸の各地を動き回っている移動要塞だ。飛行装置を備えていて、空に浮かんでいるらしい。帰らずの森は古代人による遺物で、さまざまなトラップが仕掛けられているという。各国の冒険者が攻略に挑んでいるが、生還した者はいないと聞く。
「レヴィウス様! 僕があなたを助けます! 強力な守護聖獣を連れて行けば、オメガの僕にだって……!」
「アズリールよ。帰らずの森に挑むのは危険すぎる。俺ひとりが大人しく死ねばいいだけの話だ。近しい者たちにもそう伝えてある」
「そんな……」
「第二王子のヘクターが俺の遺志を継いでくれる。俺はもう充分、生きた」
僕はレヴィウス様の背後に回って、死神を引き剥がそうとした。でも死神の半透明の体は僕の指をすり抜け、僕を嘲笑うかのように中空に舞った。僕は勢い余ってレヴィウス様の背中を押してしまった。
「す、すみません」
「いいんだ。死神を遠ざけようとしてくれたんだろう? その気持ちだけで嬉しいよ」
「レヴィウス様。僕は……あなたを諦められません!」
「アズリール。すべての命には定めがある。そんな悲しそうな顔をしないでくれ」
「ひどいですよ、レヴィウス様。僕のこと好きにさせておいて、先に死んじゃうんですか?」
僕の発言は、言いがかりもいいところだった。僕が勝手に好きになったのだから、レヴィウス様に非はない。
「アズリール、すまない。俺のことは忘れてくれ。きみの幸せを祈っている」
「僕は……あなたがいないと幸せになれません!!」
悲痛な叫び声が曇天に吸い込まれていった。
民が着るような、草色の貫頭衣に茶色の帯を合わせていらっしゃるが、一般人とはオーラが違う。僕はレヴィウス様の藍色の瞳を見つめて、ポーッとなってしまった。
丘にいるカップルたちは二人の世界に入っているので、王太子殿下のご登場に気づいていない。
僕はドキドキしながらレヴィウス様に声をかけた。
「レヴィウス様。覚えておいでですか? セレスティ家のアズリールです。以前、わが家で開かれた舞踏会でご一緒させていただきました」
「覚えているさ。兄君がヴァイオリンを弾いたら猫が大量に寄って来たんだろう? その節は楽しい会話をありがとう」
「お会いできて光栄です! とっても嬉しいです!」
「はははっ。きみは元気だなあ」
マルセル先生、ごめんなさい。
僕はやっぱり劣等生です。ツンデレになってアルファを惚れさせるなんてできません。僕はレヴィウス様が大好きで、その気持ちを表現せずにはいられません。恋するオメガは悲劇のもとだってマルセル先生は言うけれど、愛するレヴィウス様にお会いできて僕は幸せだった。
「レヴィウス様。喉が渇いていませんか? 僕、何か買って参ります」
「曇天で涼しいから大丈夫だよ。気を遣わないでくれ」
「今日はお忍びで来られたのですか」
「ああ。守護聖獣と一緒に散歩に来た」
レヴィウス様の守護聖獣は、シルフィンという名前の飛竜だった。シルフィンは小型犬ぐらいの大きさである。飛竜は体のサイズを自在に変えられる。公園で目立たないよう、小さな姿をとっているのだろう。シルフィンはレヴィウス様の足元にいて、賢そうな目で僕をじっと観察している。
「ここは海がよく見える。俺のお気に入りの場所だ」
「素敵ですよね、波の音にも風情があるし」
「アズリールは王都に来ていたのだな」
「僕……ブランシェール学院に通ってるんです。今日はその……」
「誰かとの見合いに来たのか?」
「……第一騎士団のローデリヒさんとお会いしたのですが、もう先に帰ってしまわれました」
「なんだと。無礼な奴め」
「違うんです! 僕が悪いんです。僕が……レヴィウス様のことが大好きだから、他の方のことはまったく考えられなくて」
僕はレヴィウス様を見上げた。レヴィウス様は驚いたように目を丸くしている。そうだよな、一回しか会ったことがないオメガに告白されたんだからびっくりするよな。
「あの……。オメガから言い寄るなんてルール違反ですよね。僕のこと、振ってください! そうじゃないと僕……際限なく期待してしまいそうで」
「アズリール。きみとは一緒になれない」
きっぱりと断られたので、僕はシュンとなった。
「……そうですよね。やっぱりそうなりますよね」
「でもそれは、きみが悪いわけじゃない。俺の問題だ。俺は死神に取り憑かれているんだよ」
「えっ……?」
一体、なんのお話だろう?
僕が目を見張った瞬間、レヴィウス様の背後から、ぞろりと半透明の骸骨が現れた。骨だけの頭部がケタケタと笑い声を上げる。骸骨の指先がレヴィウス様の胸元に添えられた。その仕草はまるで心臓を狙っているかのようだった。
「なんだ、おまえは! レヴィウス様から離れろ!」
「きみにはコレが見えるんだな」
「いつからそんなことに?」
「つい先日、礼拝の時に弟のヘクターが異常に気づいてくれた。ヘクターは神官なのだ」
「それで……死神の動向は?」
「奴によれば、俺は20歳の誕生日に死ぬ定めにあるらしい」
「そんなっ」
レヴィウス様は現在19歳だ。20歳の誕生日といえば今年ではないか。レヴィウス様の余命があとわずかということ? そんなの信じたくない。
僕がじっと見つめるなか、レヴィウス様が淡々と言葉を紡いだ。
「騎士団に所属して以来、任務で何度も危険な目に遭ったが、俺はいつも無事だった。周囲はそんな俺を『軍神に守られている』と言って褒めそやしたものだ。でも実際は違う。俺の命は死神のものだから、定めの日より前には死なないだけの話だったんだ」
半透明の不気味な骸骨を背負いながら、レヴィウス様が力なく微笑んだ。
「隣国サンダスとの戦争の際に、父が禁呪を発動したのだ。禁呪の対価は、やがて生まれてくる第一子、つまり俺の命だったというわけだ」
「呪いを解くことはできないのですか?」
「帰らずの森の最奥部に、なんでも願いを叶えてくれる七色水晶なるものがあるらしい」
「……よりによって、帰らずの森ですか」
帰らずの森は、大陸の各地を動き回っている移動要塞だ。飛行装置を備えていて、空に浮かんでいるらしい。帰らずの森は古代人による遺物で、さまざまなトラップが仕掛けられているという。各国の冒険者が攻略に挑んでいるが、生還した者はいないと聞く。
「レヴィウス様! 僕があなたを助けます! 強力な守護聖獣を連れて行けば、オメガの僕にだって……!」
「アズリールよ。帰らずの森に挑むのは危険すぎる。俺ひとりが大人しく死ねばいいだけの話だ。近しい者たちにもそう伝えてある」
「そんな……」
「第二王子のヘクターが俺の遺志を継いでくれる。俺はもう充分、生きた」
僕はレヴィウス様の背後に回って、死神を引き剥がそうとした。でも死神の半透明の体は僕の指をすり抜け、僕を嘲笑うかのように中空に舞った。僕は勢い余ってレヴィウス様の背中を押してしまった。
「す、すみません」
「いいんだ。死神を遠ざけようとしてくれたんだろう? その気持ちだけで嬉しいよ」
「レヴィウス様。僕は……あなたを諦められません!」
「アズリール。すべての命には定めがある。そんな悲しそうな顔をしないでくれ」
「ひどいですよ、レヴィウス様。僕のこと好きにさせておいて、先に死んじゃうんですか?」
僕の発言は、言いがかりもいいところだった。僕が勝手に好きになったのだから、レヴィウス様に非はない。
「アズリール、すまない。俺のことは忘れてくれ。きみの幸せを祈っている」
「僕は……あなたがいないと幸せになれません!!」
悲痛な叫び声が曇天に吸い込まれていった。
16
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる