可愛い後輩には、タチをさせよ

古井重箱

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01.

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 淡いブルーの空が黎明れいめい大学・桂沢かつらざわキャンパスを見下ろしている。
 雪が降るという予報はどうやら外れたようだ。
 俺、永峰夏樹ながみねなつきは二月の冷えた風を心地よく感じた。
 勤務先の大学図書館を目指して、乾いた道を歩く。目線を上げれば、桂沢キャンパスの名物である桜並木が視界に映った。伸びやかな枝に小さなつぼみがいくつもくっついている。
 桜が多くの人から愛されるのは、その美しさもさることながら、厳しい冬に耐えて開花するという精神性もあるのではないだろうか。少なくとも俺は、植物であれ人であれ、頑張り屋さんが大好きだ。応援したくなる。
 
「永峰先輩。おはようございます」

 通用口から大学図書館の中に入ると、事務室にはすでに宝木爽介たからぎそうすけの姿があった。宝木のデスクは整理整頓が行き届いている。業務がオーバーフローすると机の上が乱雑になりがちな俺とは大違いだ。
 宝木のデスクには卓上カレンダーが置かれている。卓上カレンダーの写真にうつっている薄青い天体は、なんだろうか。

「宝木、おはよう。今日も早いな」
「先輩だって」
「カレンダーのその写真って何?」
「海王星ですよ。西洋占星術では、酒や夢を司る天体とされてます」
「おまえ、相変わらず知識が豊富だな」

 俺が褒めると宝木は照れくさそうに目を逸らした。

「僕、フリートークが苦手だから。雑学を披露して誤魔化してるんです」
「俺とは会話のキャッチボールが続くのになー」
「先輩は特別です」

 自席に座ってパソコンを立ち上げる。
 俺は宝木に尋ねた。

「おまえが早めに出勤してる理由ってもしや……、進捗ヤバめの案件でもあるのか?」
「いえ、そういった心配はありません。勤務時間前だと永峰先輩と雑談ができるので、家を飛び出しちゃうんですよ」
「宝木って自立してる印象なのに、意外と寂しがり屋なんだな」

 俺は宝木の厚い肩を叩いた。
 学生時代に野球をやっていた俺と、水泳で鍛えていた宝木。どちらも体型ががっちりしている。俺たちふたりが並ぶと筋肉でできた壁のようだと周りから言われる。
 体のつくりは同等だが、顔面偏差値は宝木の方がはるかに上だ。
 高い鼻梁に、くっきりとしたアーモンドアイ。熟練の絵師が面相筆で描いたような、完璧に形が整った薄い唇。乳白色の肌。
 気品あふれる宝木は、イケメンという安っぽい言葉よりも美男子という古風な呼称が似合う。
 俺は草野球をしているので日に焼けている。
 生まれてこの方、顔の造形について褒められたことはない。笑うとのぞく八重歯が俺の唯一のチャームポイントである。
 別にいいさ。
 人間のよしあしはツラで決まるわけじゃない。何を成し遂げたか、そしてどれだけ多くの人を助けたか。この二つが大事だ。
 俺は事務室を出た。
 大学図書館の入り口にあるブックポストの扉を開けて、返却図書をブックトラックに並べる。
 俺の手はでかいので、分厚い本でも難なく掴める。目いっぱい返却図書を詰め込んだブックトラックも余裕で運べる。頑丈に産んでくれた母ちゃんに感謝しないといけない。
 返却図書をすべて回収することができた。
 ブックトラックを押して、カウンターに向かう。
 カウンターには河田係長がいて、「いつも悪いわねー」と言った。

「力仕事となると、永峰さんと宝木さんをつい頼っちゃう。業務分担を見直さないとね」
「大丈夫ですよ。いい運動になりますし」
「永峰さん、司書の鑑ね」
「僕もそう思います」

 宝木が誇らしそうに微笑んだ。

「なんでおまえがドヤるんだよ」
「だって嬉しいじゃないですか。自慢の先輩がいるってことが」
「……宝木ってたまにド直球を投げてくるよな。俺はシャイボーイだからさ。褒める時はスローカーブにしてくれよ」
「承知しました」

 俺はブラインドを上げるため、図書館のフロアを歩き出した。
 気のせいだろうか? 背中に宝木からの視線を感じる。
 あいつ……肩幅の広さを俺と張り合ってるのかな?
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