【完結】お馬鹿令息ですが、イケメン従者とカップルにならないと魔法学園を永久に卒業できません

古井重箱

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第19話 火炎獅子

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 屋敷に着いた。
 俺は馬房に馬を預け、正面玄関から中に入った。
 パパは一階にある応接室で、俺たちを待っていた。その表情は穏やかで、微笑みすら浮かんでいる。
 肝が据わってるなー。
 婚約破棄されるかもなんだよ? もっと焦ったりしないわけ!?

「クラウス、心配するな。公女様はおまえとの結婚を望んでいる」
「でも、父君であるグローゼス太公が、アゼルク家との婚姻に躊躇されているのでしょう?」

 クラウス兄ちゃんの声には不安が滲んでいた。
 くそっ。俺のせいだ。
 力もないくせに、『揺りかご計画』に楯突こうとしたから……。
 パパは優雅に紅茶を飲んでいる。さすがはアゼルク家の当主。こういう時も落ち着いてるんだなー。
 俺はまだまだだぜ。
 パパは俺たちの顔を見渡すと、柔らかな声で言った。

「もうすぐ豊穣祭がある」
「うん。そうだね……」
「今年はアゼルクの領地で開かれる」
「そっか。開催地は持ち回りで決まるんだっけか」
「クラウス、エドゥアール、そしてヴァン。アゼルクの力を示すぞ」

 ママが豊穣祭のプログラムを記した書類を持ってきた。

「さっき王都から届いたのよ。最新版ですって」
「アゼルクの担当は、奉納の舞か」

 それは例年と変わらないけど、うん?
 出演者が指定されている。
 ヴァンが驚いたように翡翠の瞳を見開く。

「エドゥアール様のお名前がありますね。国王陛下からのご指名とは」
「ほんとだ。俺、国王陛下に知られてるの!?」
「おそらくは、『揺りかご計画』を支持する側近が、エドゥアールを亡き者にしようとしているんだろうな。祭りにかこつけて……」
「マジ? 俺、殺されちゃうの!?」

 俺は卒倒しそうになった。

「そんなのやだよ! ヴァンとまだ最後までしてないし、コーデルシュだってもっと飲みたいし。パパとママとクラウス兄ちゃんに会えなくなるのも嫌だよ!」

 俺がまくし立てると、ヴァンが冷たい水を持ってきてくれた。

「まずは落ち着きましょう、エドゥアール様」
「うん……。ありがと」
「指定された舞は、『火炎獅子』か」
「それって、アゼルク家の初代が戦場で舞った踊りだよね?」
「そうだ、エドゥアール」

 なかなか大変な演目なんだよな、『火炎獅子』って。
 何せ、炎によって獅子をこしらえたあと、そいつに魂を吹き込まないといけない。そして、出来上がった獅子に、自分を追いかけさせるんだ。
 見ている方は、自分で作った炎の獅子から逃げ回る舞い手がお馬鹿に見えるだろうけど、舞い手は必死だ。失敗したら火だるまになってしまうからだ。

「どうする、エドゥアール。断るか?」
「まさか。俺、逃げないって決めたんだ。マルクトくんとユーネリアさんのために。そして、クラウス兄ちゃんのために。アゼルクが持つ、愛の力を示してやる!」
「よく言った。それでは早速、練習を始めろ」
「はい!」
「俺もお供しますよ」

 ヴァンがいてくれたら心強い。
 俺とヴァンはふたたび馬に乗って、ひらけた緑地に出た。
 手の甲に魔法陣を描いて、炎を呼び出す。

「えーと。エレメントに魂を吹き込むのって、どうやるんだっけ?」
「純魔法を使うんですよ」
「うげ。さらに魔力を出力しなきゃいけないのか」

 俺は頭の中に浮かんだ扉に意識を集中させた。少しずつ扉をこじ開けていく。きんと耳鳴りがして、肩が重くなった。しかし、負荷を訴えてくる体の声に従うわけにはいかない。

「どうだ……。これでいいか?」

 炎でできた獅子が俺の目の前に現れる。
 火炎獅子は気持ちよさそうに喉を鳴らすと、俺にすり寄ってきた。

「ダメだってば! 熱い! 焼け死ぬ!」
「エドゥアール様に似て、人懐っこい獅子のようですね」
「猫の仲間だろ、獅子って。犬みたいに懐いてくるの、おかしくね!?」
「エドゥアール様。いざという時は、俺の風魔法で火炎獅子を吹き飛ばします」
「うん。頼んだぜ」

 俺は試しに、緑地を走り出した。
 火炎獅子があとを追いかけてくる。予想以上にスピードが速い。

「これって、曲に合わせて5分間舞わないといけないんだったよな……」
「そうですね」
「5分って結構、長くない!? ひえぇっ!」

 火炎獅子がジャンプして、俺に迫ってきた。
 確かに、走るよりもジャンプした方が手っ取り早い。

「こいつ、賢いね? お馬鹿の俺が作り上げたエレメントじゅうなのにっ」
「純魔法は使い手の潜在能力を引き出すと言われております。エドゥアール様はご自分が思っておられるよりも賢いのでは?」
「うーっ。仮にそうだとしても手加減してほしい……」

 俺はバテバテになりながらも、なんとか逃げきった。ヴァンが砂時計を掲げ、5分間が経ったことを教えてくれる。

「まあ、初回はこんなものでしょう。もっと滑稽さを出さないと、観衆を惹きつける舞いにはなりませんよ?」
「ヴァンの言うとおりだな……」

 アゼルクの初代は、風魔法の加護がない状態で舞いきったという。ヴァンに助けてもらうわけにはいかない。

「豊穣祭っていつだっけ?」
「2週間後です」
「くそっ! 足掻くだけ足掻くぞ!」

 俺は二回目に挑戦した。
 フェイントをかけて、火炎獅子をかわす。
 よし、だんだん掴めてきたぞ。舞いってのは、何回も練習して体得しないとダメだな。
 その日、俺は暗くなるまで火炎獅子と踊り続けた。
 そんな俺を、ヴァンがずっと見守ってくれた。
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