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冬休みの宿題が終わらなかったから、僕は旅に出ようと思った。
しおりを挟む「全然終わらない・・・」
そう呟いて、机の上にある、空白の目立つ宿題に目を落とした。
時計の針が、追い詰めるようにゆっくりと進むのを感じる。
後10時間後に、僕は登校しなければならない。
この自堕落な生活を手放すことは本当に惜しいと思うが、それ以上に僕は今までの生活を後悔した。
アニメにゲーム。
時々友達に誘われる時以外は、殆ど家で引きこもって生活をしていた。
今になって思う。
あれは紛れもなく砂漠に存在するオアシスであったが、それは決して無限に存在するものではなく、有限なものであったと。
オアシスの水を贅沢に使った後に残るのは、その事を後悔させるような強い日差しだけなのだろう。
「まあ、砂漠とかオアシスとか、全然わかんないんだけど。」
半ば現実逃避気味に考える後悔の想像に、僕は宿題を進める手を止めていた。
「砂漠・・・オアシスか、いいなぁ。
・・・そうだ、僕も旅に出よう。
どうせこんな宿題なんか終わんないし、今からやるだけ無駄でしょ。」
--------冬休みの宿題が終わらなかったから、僕は旅に出ようと思った。
電車から覗くのは、雪に見え隠れする地面だ。
朝日を受けて美しく輝くその姿に僕は感嘆の声を漏らした。
旅に出るといっても、そこまで遠くに行きたいとは思えない。
電車で1時間程の、昔住んでいた田舎に向かった。
電車を降りると、変わらない風景が僕の目に映る。
少し歩くと、昔住んでいた家が見えてきた。
変わらない。
ところどころにある畑も、近くにある大き目の公園も、昔通っていた小学校も。
変わらない。
何一つ変わらないこの中で、変わっているのは僕だけだ。
僕はもう、畑で泥だらけになって遊びたいと思わないし、公園のブランコに憧れない。
朝早くに小学校に行ってサッカーをしたいとも思わない。
成長したな。と思って、成長したか?と思った。
こんな風景を見たからだろうか。
僕には、この目の前に立つ僕が、小学校にいきたくないと駄々をこねたあの頃から変わっていないように感じてしまった。
高校生になった。
高校生になった僕は、僕が思っている以上に大人で、僕が思っている以上に子供だ。
自分で思っている以上に何でも出来るけれど、自分が思っている以上に何も出来ない。
例えばほら、子供な僕は、あんな夜の遅い時間から旅に出ることなんて出来ないわけだ。
夢から覚めた僕は、少し皺の入った宿題を見た。
真っ白だったその解答欄には、口から漏れた液体が媚びりついている。
僕は不思議な程に覚えているその夢の内容に笑って、柄にもなくこんなことを呟いた。
「解答はこの涎の中にってね。」
呟いてから羞恥に襲われて、素早く時計に目を移した。
僕が登校するまであと4時間。
思考はもはやどう言い訳をするかで埋めつくされていた。
でも、まあいいのだろう。
何も出来ない僕には、これくらいが丁度いい。
そしてなんでもできる僕は、きっとこれくらいのピンチは華麗にかわしてみせるのだろう。
そう考えて、考えながら宿題へと手を動かした。
後2時間で朝ごはんができたと声がかかる。
それまでは、それまでは少しでも進めておこう。
もしかしたら、思った以上に何でもできる僕は、思った以上に宿題を終わらせられるかもしれない。
ゆっくりと進む時計の音をBGMに、僕は鼻歌交じりに宿題に取り掛かった。
焦るよりは、いいのかもしれないと笑いながら。
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