「チートでも目立たずにスローライフを送るための」実践講座

蛍さん

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14、絶体絶命にて。2

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久し振りに、昔のパーティーメンバーと会った。

あの頃のように、酒場に集まって、他愛の無い話で盛り上がった。
仕事がどうだとか、誰が結婚しただとか。

内容は違ったけれど、私たちはあの頃と同じ時間の中に生きていた。

しかし、心のどこかでは、その空気に乗りきれないような気がしていた。
彼のことを、私たちが殺した彼のことを、私たちは片隅で思い続けていた。

このパーティーが集まれば、パーティーメンバーと顔を合わせれば、彼のことを思い出す。

どんな明るい話題だって、嬉しい話だって、あの頃のように心の底から喜ぶことは出来なかった。

それが、パーティーが解散した一つの理由だ。



酒を飲むペースも下がって、話す話題も少なくなって来た時、一人のパーティーメンバーが、懐から短剣を取り出した。

そして、良く見えるようにテーブルの真ん中に置く。

それを見て、パーティーメンバーの全員が息を飲んだ。

そう、それは、紛れもなく彼の物だった。
今日一度も、誰も名前を出さなかった彼の。


「私は…もう冒険者をしてるわけでもないし…」

言い訳をするように、一人が俯きがちになって呟くように言った。

「俺も…」

さらに一人が同調する。

他のパーティーメンバーも、短剣を持って来た彼でさえも、自然に俯いて、短剣から目を逸らした。

だから、私は短剣に手を伸ばした。
注がれる視線を受けながら、一度手の中で短剣を回して、腰に刺した。
長年使い続けている愛剣の隣だ。

言葉を発する者はいなかった。
短剣が置いてあったテーブルの中央には、未だに何かが存在しているかのように、誰も目線を合わせようとはしなかった。

暫く無言で酒を飲む時間が続いた後、一人が席を立った。

仕事があったのを思い出しただったか、予定があっただったか、明日朝が早いからだったかはもう忘れたが、申し訳なさそうに帰っていった。

一人が帰れば、後は順々。
誰もが言葉を並べて、帰っていった。
同じような、申し訳なさそうな表情を浮かべて。


誰も居なくなった酒場で、私は二人で酒を飲んだ。

彼は話さなかった。
私は、ずっと謝り続けていた。



それから、私はこの短剣を腰から離さなかった。


私はもう一度高難易度のクエストをこなし始めた。



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