『ペガサスが舞い降りる日』“僕の人生を変えた恋人”

大輝

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第27章 え?!まさかコユキが…

僕の人生を変えた恋人27

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2015年5月17日。

いよいよヴィクトリアマイルだ。

東京競馬場、晴れ、良馬場。

コユキは休み明けだけど鉄砲がきくから大丈夫だね。

【東京競馬場】

レディースデーは、華やかだな。

女性の為のイベントが有ったりするしね。

「私もイベント参加してみようかしら?」

【馬主席】

「おや、葉月はん。今日も勝たせて貰いまっせ」

はぁ、いつもの金成オーナーだな。

「うっとこの馬は超良血やさかいな、あんたんとこの、何や知らん小んまい牧場で生まれたんとちごて、大牧場の生まれやさかい、よう走りますわ」

小さな牧場で悪かったですね。

「弟の牧場で、春風牧場です」

「聞いた事無いな。ウチは一流の物しか好かんさかい。まあ、覚えときますわ。行かへんと思うけど」

来て頂かなくて結構です。

貴女にお売りする馬はおりませんので。

「ほなな」

はぁ…

「また負けたら、何言われるかわからないわね。まあ気にしないけど」

そうだね。

とにかく無事に回って来てほしい。

無事に繁殖入りして、可愛い仔馬を産んでほしい。

牝馬は、お母さんになった時が一番幸せそうだもんね。

ユキ達を見ているとそう思う。

コユキにも、その幸せを感じてほしいんだ。

コユキはどんな仔を産んでくれるんだろう?

まだ気が早いけど、血統的にも今から楽しみだね。

良いお婿さんを探してやらないとね。

でも、変な話しだけど、妬けるんだよな。

エアグルーヴが引退した時もそうだったけど、どんなお婿さんだろう?と思ってたら、やっぱりサンデーだった。

そして生まれて来た仔がアドマイヤグルーヴ。

もう、サンデーが憎らしくて、憎らしくて…

勿論彼は偉大な種牡馬で好きなんだけど、エアグルーヴの最初のお婿さんがサンデーとわかった時は、彼が憎らしかった。

でも、アドマイヤグルーヴが生まれて、そして、彼女はドゥラメンテを産んだんだよね。

ドゥラ君はやっぱり可愛いよね。

コユキのお婿さんは誰にするのか、良ーく考えないとな。

そりゃ妬けるよな。

だって、コユキのお婿さんだよ。

「コユキ、今日も1番人気よ」

女王杯は負けたけど、マイル戦ならコユキの方が強いだろうと、1番人気になっている。

女王杯を勝った金成オーナーの馬カネノホマレが2番人気で、昨年のオークス馬カミノクインが3番人気だ。


【パドック】

コユキの横断幕だ。

「たくさんの方に応援して頂いて、有難いわ」

「兄ちゃ!」

桜ちゃんが走って来た。

春風牧場の皆んなと慎二が居る。

慎二は今日も、コユキの横断幕を貼る為に、朝早くから並んでくれたんだ。

「抱っこ」

「はいはい」

「桜。菱にばっかりくっついてたら、優柔不断が移るぞ」

ひどいなぁ、駿さん…

あ、凛ちゃんと目が合った。

「ゆーじゅー?」

「菱みたいにはっきりしない奴の事だー。凛の事泣かせて」

「兄ちゃ、凛ちゃんお姉ちゃん泣かせたの?メよ」

桜ちゃんに怒られてしまった。

「そうだね、メだね」

「下りるぅ、下ろして」

はいはい。

桜ちゃんを、そっと下ろした。

「え?なあに?」

「お姉ちゃん来て」

桜ちゃんが凛ちゃんを引っ張って来た。

「……」

「……」

「仲良しさんして」

「……」

「……」

「早く」

仲良しさんて言ったって…

桜ちゃんが2人の手を引っ張ってる。

「お手て繋ぐの」

うわっ、手を繋がされた。

凛ちゃんは俯いてるけど…

手を離さないから、嫌じゃないみたい?

桜ちゃんが見てるから、離せないよね。

「コユキ来たぞ」

パドックに、ヴィクトリアマイルの出走馬が入って来た。

「コユキ、コユキ」

助かった。

〈そっと凛の手を放す菱〉

「あ、ダメー。お手て離しちゃメなの。仲良しさんして」

見つかっちゃった。

仕方ないな。

ちょっと恥ずかしいけど、このまま手を繋いでいよう。

凛ちゃんは、恥ずかしくないのかな?

あれ?

僕、前は平気だったのに、何で恥ずかしいんだろう?


「コユキ、いつもより入れ込んでるんでないかい?」

ゼッケンの下、汗をかいてる。

白い泡になってるぞ。

2人引きで、厩務員さんを引っ張る感じで歩いてる。

時々チャカついて激しく首を上げ下げしたり、速歩になったりしてるな。

あ、尻っ跳ねした。

尻尾には赤いリボンが付けられている。

後ろ注意、蹴るよの印。

コユキは、ウルサイ方が走る。

その方がコユキらしいんだけど、気性も成長してきて、少し大人しくなった。

ここ何戦か、パドックでやたら大人しくて心配したけど、それにしても今日はちょっと入れ込みキツいかな?

やっぱり体調が今一つなのも有るのかなも知れない。

凛ちゃんの手にギュッと力が入った。

そう言えば手を繋いでいたんだった。

「コユキ、もう怪我しないでね」

彼女はそう言った。

女王杯の時の怪我は、幸い大したこと無くて助かったけど…

サラブレッドはガラスの脚。

ちょっとした怪我が命取りになる。

もう後は勝ち負けより、無事に引退して繁殖入りさせてやりたい。

勿論勝ってくれたら嬉しいけどね。

エアグルーヴを見ていた時がそうだった。

僕は、彼女の最後の3戦しか見ていない。

勝ったレースを一度も見ていないけれど、あのサイレンススズカの悲しい天皇賞の後だったから、勝ち負けより、無事に回って来てくれる事しか考えなかった。

ずっと見ていたいけど、早くお母さんになってほしいと思っていた。

レースを見たいけど、見たくない。

そんな感じだった。

それで初子があのアドマイヤグルーヴだもんね。

女の子を産んでくれて嬉しかった。

だって、その子供も楽しめるからね。

それに、ママみたいに男馬をやっつけるのも楽しみにしてた。

そして、最後にドゥラメンテを産んでくれたんだ。

コユキは、どんな仔を産んでくれるんだろう?

最近は、そんな事ばかり思うようになったな。

止まれがかかってジョッキーが乗った。

コユキは、地下馬道もカリカリしたままだった。

エアグルーヴを思い出した。

彼女の地下馬道の姿、今でも忘れない。

でも、彼女は、馬場入りしたら落ち着いてたよ。

コユキもそうだと良いんだけど…


【スタンド】

本馬場入場だ。

コユキは、5番。

「コユキ来ないぞ」

「また、後出しだね」

「昨年のエリザベス女王杯の覇者がやって参りました。その実力を今日も見せつけるのか。カネノホマレです」

「リベンジしてくれよー。故障してなかったら、女王杯だって勝ってたんだからなー」

「昨年のオークス馬の登場です。得意の東京コースなら私が主役。カミノクイン」

「さあ来たぞ。一際大きな歓声で迎えられました。昨年の二冠馬のお出ましです。得意のマイルなら1枚上だ。女王の座は譲れない。コユキです」

「コユキ、コユキー」

桜ちゃんが、僕の膝の上で叫ぶ。

凛ちゃんがまた、手をギュッとした。

心配なんだよね。

わかるよ。

桜ちゃんに見張られているから、僕達は手を繋いだままだ。

コユキはキャンターにおろすと、かかり気味に飛んで行った。

待機所でも、しきりに首を上げ下げしている。

「無事に繁殖入りしてほしいの」

凛ちゃんがそう言った。

久々に話しかけられた気がした。

「ユキ、コユキと続く母系は大事にしたいね」

「うん。もしかしたら、その母系がいつか白毛を産んでくれるかも。ううん、それは奇跡だけど、そうなると良いなって思ってるの」

「そうだね。春風牧場の夢。コユキ達が叶えてくれると良いなぁ」

「私が生まれた時にはもう、うちの牧場白毛居なかったからな…」

ファンファーレが鳴った。

ゲート入りだ。

今日は、ちゃんと入ってくれよ。

良し、全馬すんなり入ったぞ。

さすが古馬のお姉さん達はお行儀が良い。

みんな無事に帰って来るんだよ。

きっとみんな良いお母さんになるんだからね。

「スタートしました!コユキ好スタート」

えっ?ロケットスタート?

「さて、どの馬が行きますか?おっと、コユキだ。あっと、逃げるのか?逃げるのか?」

いつもならスタートしてすぐに下げるんだけど…

「コユキがかかり気味に飛ばしている。コユキまさかの大逃げです」

ジョッキーが宥めているんだけど、コユキ大暴走だ。


追い込み馬の大暴走と言えば、僕の好きな馬でスマイルトゥモローが居る。

後方一気でオークスを勝ってくれた彼女だけど、その後は引っかかりながら暴走。

2003年の府中牝馬Sでは、1000m通過56.3秒の大逃げ。

それでも3着と逃げ粘った。

あの時勝ったのは、僕の好きな馬レディパステルだったな。

「コユキ、かなり早いペースで飛ばしています。後続との差は20馬身ほど」

サイレンススズカじゃないんだから…

「そのまま直線に入った。残り2ハロン。後続の馬が差を詰めてまいります。残り1ハロン。コユキは一杯か。カミノクインがやって来ました」

「あれだけ飛ばしたら、一杯になるだろー」

「カミノクインがやって来た!コユキ粘る、コユキ粘る」

ダイワスカーレットみたいに差し返した。

「勝ったのは、カミノクイン。コユキ、どうにか2着は確保か?」

「くそー、また負けたかー。コユキー。いつになったら旨いワイン呑ませてくれるんだー?」

あれだけ飛ばして2着なんだから、良く頑張ったよ。

最後差し返すところを見せてくれたしね。

まあ、とにかく無事に回って来てくれて良かった。

そう思っていたんだけど、宝塚記念に向けての調教が大変だった。

馬場入りを嫌がったり、厩舎で暴れたり…

【栗東トレセンのコユキの厩舎】

「見て下さいよ。暴れて後ろの壁を蹴るんです。どうやったら、あんな高い所まで届くんだか…」

メジロドーベルみたいなヤツだなぁ。

コユキも畳吊るしてもらうか?

馬場入りを嫌がって動かなかったり、後ろの壁蹴ったり、頑固姫スイープトウショウやメジロドーベルみたいに、コユキもやっぱり普通の馬とは違うのかな?

でも、それからしばらくして連絡が有ったんだ。

コユキが馬房で暴れて目の上に怪我をしたと。

大きな怪我ではないけれど、目の淵を少し縫ったらしい。

残念だけど、宝塚記念は回避になった。

ファン投票で選んてくださった方に申し訳ないな。

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