『ペガサスが舞い降りる日』“僕の人生を変えた恋人”

大輝

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第2章 初恋の相手?

僕の人生を変えた恋人2

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次の日、僕達は、さつきさんに牧場を案内してもらった。

「昨日、凛と釣具屋さんで会ったんだってね」

「はい。釣りに行くなら、熊除けの鈴を持って行くようにって」

「そうだったのかい」

「それから、色々教えてくれました」

「知らない人に、やたら話しかける子じゃないんだけどね」

僕達が北海道初心者で、不慣れな釣り場に行くのは、見てもわかったらしい。

そして…

凛ちゃんのお父さん、さつきさんのご主人は、熊に襲われて亡くなったのだと教えてくれた。

だから凛ちゃんは、あんなに熊の事を注意してくれたんだな。

「牧場ウロウロすんな!」

「駿。いい加減にしなさいよ」

「俺はまだ、そいつを信用してねえからな」

「素人に何がわかるー?」

「お父さんも、やめなって」

長次さんは、さつきさんのお父さんらしい。

「今年生まれた仔馬は5頭だけだよ。種付け料高いし、沢山生まれても売れなきゃね」

経営は、相当大変なようだ。

「2歳馬は、トレーニングに出してるからね」

トレーニングに出すのもコストがかかるんだろうな。

牧場に施設が有れば一番良いんだろうけど、小さな牧場では難しいだろうね。

「繁殖牝馬と当歳馬は、見せてあげられないけど、1歳馬は見せてあげるよ」

「生まれたばかりの仔馬を脅かしてもいけないし、子育て中の牝馬は、そっとしておいてあげた方が良いですね」

「子供を守る母馬はおっかないからね。人間だって同じだよ」

「母は強しですね」

「そうそう」

【幼駒馬房】

「1歳馬は3頭だよ。2頭は体質が弱くて育たなかった。本当悲しかったよ」

「この3頭は、買い手がついているんですか?」

「セリに出すんだけど、売れたら良いね」

「中央で走るのかなあ?」

慎二がそう言った。

「うちの馬は、地方だよ」

地方競馬は、良くわからないな。

中央だってまだ良くわかってないけど…

地方で走ると言う事は、そんなに高い値段で取り引きされる馬ではない。

「繁殖の血統も良くないし、高い種はつけられないし」

「どけ!邪魔だ!」

「駿!」

駿さんが1頭の1歳馬を連れて行った。


「ごめんなさいね」

「いえ」

駿さんは、1歳馬の馴致をするのだと、さつきさんが教えてくれた。

「1頭だけ、そこそこの血統の繁殖が居るんだけどね、良い種さえ付ければ走るとは思うけど、種付け料が高くて」

去年は空胎で、子育てはしていないからと、その繁殖牝馬を引いて来て見せてくれた。

「僕、こういうトモの形好きです。ノーザンテースト入ってますか?」

「3代前に入ってるよ。母母父は、トニービンで母父はサンデーだよ」

その配合って!

「もう10歳だしね、そろそろ良いの出してもらいたいね」

母系がノーザンテースト、トニービン、サンデーサイレンス。

それは、あの馬の長女と同じ配合だった。

年も同じ…

僕が恋したその馬を初めて見たのは、彼女が引退する年のエリザベス女王杯のパドックだった。

と、言っても、競馬場に行った事の無い僕は、テレビで見たのだけれど。

その頃僕は、競馬ゲームにハマっていたんだ。

でも…

ダービーぐらいは聞いた事有るけど、桜花賞って何?皐月賞って?

勝てば褒められるけど、さっぱりわからなかった。

とにかく強い馬を生産する事が楽しくて、ゲームをしていたんだ。

その中で、1番好きだった馬がダイナカールだった。

強いナリタブライアンでも、名種牡馬サンデーサイレンスでもなく、繁殖牝馬のダイナカール。

理由は、強い馬を産んでくれるから。

そして、そのダイナカールを一目見たいと思うようになったんだ。

競馬の事を何も知らない僕は、ゲームで繁殖牝馬になっているダイナカールが、現役で走っているのではないか、と思っていた。

そう、引退して繁殖に上がる事さえ知らなかったんだ。

とにかく父に隠れて競馬中継を見てみた。


初めて競馬中継を見たのは、1997年ドーベルのオークス。

まだ幼かった僕は、初めて見るレースで、オッズって何?の世界。

何番人気か良くわからないけど、名前が好きになり「ドーベル頑張れ!」って応援した。

そして…

ドーベルが勝った!

普通なら、そこでハマるのかな?

それでも、競馬を見ると怒られる環境なので、次に見たのが、あの悲しいサイレンススズカの天皇賞だった。

競争中止…

僕にはその意味が良くわからなかった。

ケガをしたみたいだけど、大丈夫だよね?治るよね?って…

でも、次の日の新聞で、予後不良を知って泣いた。

だから嫌なんだよ…もう競馬なんか見ない。

そう思った。

でも…

番組の中で、エリザベス女王杯に、エアグルーヴが出ます、って聞いたんだ。

エアグルーヴって、確かダイナカールの子供だったよな…

ダイナカールの子供を一目見てみたい。

そう思うと、我慢出来なかった。

エリザベス女王杯のパドック。

歩くその姿は、まるで貴婦人のようだった。

馬なのに、人間の女性を見ているような錯覚を起こす。

本当に美しい姿で、凛として気品溢れる彼女に一目惚れした。

顔も美人で、とにかく目が美しかった。

とても賢くて、取材でカメラを向けられると、立ち止まってポーズを取るそうだ。

普段は大人しくて、レース前には自分で体を作ると言う。

パドックでは、寄らば切るぞとばかりの近寄り難 さ、地下馬道で入れ込む気性も好きだった。

そして、馬場に出ると、地下馬道の入れ込みが嘘のように落ち着いている。

レースが始まると、僕の目にはもう他の馬は映らない。

ただ彼女だけを目で追っていた。

実況が聞こえる。

メジロドーベル。

あの時応援していた馬だ。

エアグルーヴ頑張れ、ドーベル頑張れ。

勝ったのは、メジロドーベルだった。

それから、エアグルーヴは、ジャパンカップ、有馬記念と走り引退した。

有馬は落鉄。

結局僕は、彼女の勝ったレースを1度も見ていなかった。

天皇賞を、男馬の一線級をねじ伏せて勝ったなんて、後で知ったんだ。

それから僕は、彼女の本や映像を探して見るようになった。

レース中の骨折で10着の秋華賞と、落鉄で5着の有馬意外、どんなに不利を受けても3着以内だ。

本当に凄く強い。

彼女が居なければ、僕は、今でも競馬を見ていないだろう。


エアグルーヴしか知らない僕は、競走馬はみんな彼女のような美しい馬体をしているものだと思っていたんだ。

でも、どうやらそうではないらしかった。

それで、色々勉強したんだけど…

僕の知識なんて、役に立つのかどうか…

「やっぱり、キンカメを付けたいよね」

「そりゃ付けたいさ。でも、種付け料がね…」

「素人が何ほざいてんだー?キンカメ付けて売れなかったら、どうすんだー?育たなかったら、どうすんだー?」

お爺さんは、そう言った。

最もだった。

「ユキの種付け相手は、ワシが決める」

僕は、兄に電話で相談してみる事にした。

会社から融資しても良いと言ってくれた。

でも、仔馬が売れなかったら、種付け料は僕の雑貨屋から支払う事になる。

400万…なんとか捻出出来るだろうか…?

「舞、お帰り」

「ただいま」

「こんにちは」

僕が挨拶すると、彼女は、軽く会釈して行ってしまった。

舞さんは凛ちゃんのお姉さんで、大人しくて、人見知りする子だそうだ。

獣医さんになる為に、大学で勉強中らしい。

「お父さんも、獣医だったからね」

と、さつきさんは言った。

【葉月家】

東京に帰ると、種付け料の事をお姉さんに相談した。

雑貨屋の経営もまずまずだし、何とかなるだろう。

お姉さんは、早速400万を春風牧場に振り込んでくれた。

僕は、牧場に電話した。

「お金振り込んだって言われても、キンカメ付けられるか、わかんないよ」

今からでは、空いていないかも知れないとの事だ。

種付け権も持っていないし、当然だな…

その日、久しぶりに、僕はペガサスの夢を見た。

ペガサスの夢は、小さい頃良く見たな。

その日の夢の中のペガサスは、雲の上から舞い降りると、低空飛行で僕の頭上を通り過ぎた。

そして、真っ直ぐに天に駆け上がって行った。

1度も地面に足をつけずに、行ってしまったな…


4月になって、春風牧場から連絡が有った。

何とか種付けしてもらえたそうだ。

やった!

無事に止まってくれよ。

サンデーの瞬発力とキンカメのパワーは遺伝してほしいな。

【雑貨屋】

イタリアから小物を、イギリスとフランスから、ティーカップなどの陶磁器類を輸入した。

雑貨屋の次は、アクセサリーショップに回る。

【アクセサリーショップ】

春夏物のイヤリングや、ネックレス、ヘアピンなどを追加注文した。

僕の好みだけでは怪しいので、ちゃんとスタッフの女の人達の意見も聞いて仕入れをしているんだ。

牧場から電話がかかった。

繁殖牝馬のユキが、キンカメの仔を受胎した知らせだった。

良し!

とにかく無事に、丈夫な仔を産んでほしい。

【北海道 車の中】

夏休み、僕は慎二と北海道に来ている。

川釣りは禁漁の所も有るけど、牧場近くの川は解禁のようだ。

まずは、春風牧場へと向かう。

【春風牧場】

牧場に着くと、少しお腹の大きくなったユキに会わせてくれた。

「順調に育ってるよ」

「良かった」

「生まれる時、来れたら良いね」

【春風家の客間】

「あの、これ、うちの店で扱ってる物なんですけど、どうぞ」

「うわー可愛い。貰って良いの?」

「凛には、まだアクセサリーなんて、早いんでねえの?」

「そんなもん貰って、喜んでるんじゃねえぞ」

駿さんは、相変わらずだな…

「舞も、そんな所さ突っ立ってないで、こっちさこーし」

舞さんは、部屋に入ると、弥生さんとさつきさんの後ろに隠れるように座った。

【展示室】

そこには、随分昔に表彰されたカップなどが飾られていた。

「昔は、うちの馬も中央を走ってたのさ」

白毛馬の写真が有る。

「その子の血は、もう残ってないね」

その隣りには…

ペガサスの絵?

「それは、舞が描いたのさ」

舞さんもペガサスが好きなのかな?


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