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第7章 じゃじゃ馬姫?

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「街中で身分がバレたら大変ニャ。ここは姫様の言う通り友達になるニャ」

「そういう事なら、私達もう友達だよ」

「ありがとう」

「さあ出来たよ。食べよう」

「わあ、美味しそうだね」

「旨いニャ」

〈フィナンシェは静かに料理を口に運ぶ。シイラはドキドキしながら見ている〉

「美味しい、美味しいです。こんなに美味しいお料理が有るのですね」

「そんなに褒められたら恥ずかしいですよ」

「ほら、シイラも。もう友達なんだから敬語はやめようよ」

「そうだね」

「ありがとう、皆さん」

「(フィナンシェ姫嬉しそうにゃニャ)」

【宮中のフィナンシェ姫の部屋】

「また姫様がおられん」

「お散歩でもなさっているのでは御座いませんか?」

「勉強を途中で放ったらかして、全く」

「侍従長様、血圧が上がりますよ」

【マルシェの魚屋】

「イワシ団子が食べたくてお城を抜け出して来るなんてね」

「城の外にお友達が欲しかったの。月に一度、餡先生が来てくださるのだけれど、待ちきれなくて…そうだわ!その時は一緒にいらしてくださいね」

「えっ?私もお城に上がって良いの?」

「勿論です」

「でもさ、今日抜け出した事がお城の偉い人達にわかったら大変だよね、きっと」

「ええ、口うるさい爺達に見つからないように戻らなければ」

「後で送って行くニャ」

【王宮】

「見張りが居るよ。どうやって出て来たの?」

「出入りの人達に紛れ込んで」

「じゃあ、シイラお願い」

「えっ?」

「その荷物わたくしも持ちます」

「って、まさか!姫様にそんな事させちゃ申し訳無くて」

「もう、そういうのやめてくださいと申しましたのに」

「あ、そっか」

「衛兵がこっち見てる」

「堂々と行きましょう」

〈衛兵の前を通り過ぎる姫達〉

「ちょっと待て、その荷物は何だ?」

〈七都がシイラの背中をつつく〉

「は、はい!ヒラメの良いのが取れましたのでお持ちしました」

「(もう、シイラったらガチガチだよ)」

「お前は、出入りの魚屋ではないな」

「父が風邪を引いたので代わりに私が来ました」

「父親の名を申してみろ」

「はい、イサキです」

「うーん、中を改めるぞ」

〈荷物の中を確かめる衛兵〉

「これは、猫魔どのでは御座らぬか」

「まずいニヤ」

〈近衛騎士が近付いて来る〉

「騎士隊長様のお知り合いでしたか。これはご無礼致しました」

〈姫達を見る騎士隊長〉

「ここからは私が案内する」

「はっ」

「今日は、餡どのは一緒ではないのか?」

「あれから療養所が忙しいのニャ」

「まあ、仕方あるまい。姫様の病を治した医者として、一躍有名になったのだからな」

〈チラッと姫の方を見る騎士隊長。フィナンシェ姫は、俯いてそっと向きを変える〉

【城の廊下】

「厨房は、こっち」

「では、私は失礼する」

〈猫魔の耳元で小声で話す騎士隊長〉

「じゃじゃ馬姫を頼むぞ」

〈そう言うと去って行った〉

「何だって?」

〈キョトンとしている猫魔〉

「猫魔、あの人何て言ったの?」

「聞こえていましたわ「じゃじゃ馬姫」ですって?」

「バレてたの?言いつけられちゃうかな?」

「心配いりません。騎士隊長は、わたくしの味方ですから」

【フィナンシェ姫の部屋】

〈数日後〉

「お茶をお持ち致しました」

「ありがとう」

「失礼致します」

〈侍女が出て行く。ぼんやりと窓の外を眺めるフィナンシェ姫〉

「姫様。お茶が冷めてしまいますよ」

「ええ」

「どうなさったのです?」

「ねえ、女官長。わたくし…どうして王室なんかに生まれてしまったのかしら?」

「姫様」

「ハポネ村辺りの農家にでも生まれれば良かったんだわ」

「そんな事仰って…」

「(七都さん達はどうしているかしら?光さんは、本当に神様なの?そう言えば、大聖堂の神の像に似ている気がするけれど…)」

【ヴェネツィーの街】

「どっちへ行けば良いのかしら?(城からは見えていたのに、外に出たらわからなくなってしまったわ)」

【裏道り】

「(今日はちゃんと金貨を持ってきました。この辺りで一休みしましょう)」

(裏道を奥へと歩いて行く)

「(お腹も空いて来たし、このお店で聞いてみようかしら?)フフフ(こういう所に一人で入るなんて、何だかワクワクするわね)」

【酒場】

「いらっしゃい!」

「こんにちは。あの、お聞きしたいのですけれど」

「道を聞きに来たのかい?食事は?」

「あ、頂きます」

「何にします?」

「何が良いかしら?」

「うちの料理は何だって美味しいよ」

「そうですか?ではお任せ致します」

「はいよ。団、お任せだよ!」

「はいよ!」

〈興味津々で店内を見回すフィナンシェ〉

「あの…」

「何ですの?」

「そのお料理美味しいですか?」

「ええ」

「そうですか、ありがとう。わたくしも同じ物を頂こうかしら?」

「貴女のような田舎娘の口に合うかしらね?」

「まあ、田舎娘?」

「何嬉しそうな顔してるのよ、バカにしてるのよ」

「あら、そうでしたのね、フフフ」

〈尚もニコニコのフィナンシェ姫〉

「おかしな人ね、まあ良いわ。このお料理はね、この店で一番高いのよ。だから私だって月に一度のお給料日しか食べられないの」

「そうなのね、では、その月に一度の特別な日に致します」

「これだから庶民は嫌だわ」

「まあ、わたくしが庶民ですか?」

「バっカじゃないの?何言われても笑ってるのね」

「そうですわね(市民の前ではいつもニコニコ…一種の職業病だわ。でも、わたくしが庶民に見えるのね)フフフ」

〈別の席で声がする〉

「ああ、久しぶりにヴェネツィーに出て来れたわ」

「ようやく休みが取れたな」

「フィナンシェ姫の施術をしてから、国中から患者が押し寄せて来るんだもの」

「(あれは、餡さんと光さん…わたくしに気付いていないようだわ)フフフ」

「あー、お腹空いた。今日は何食べようかな?あ、餡先生と光も来てたんだ」

「あーら、アンドーナツじゃない?」

「あれ?えっと…」

「名乗ってませんでしたわね、サブレですわ」

「ああ、このイヤミな言い方覚えがある。この街でドッグカフェやってたんだっけ?」

「ええ、そうよ」

「あ、フィナ」

「うん」

〈小さく咳払いするフィナンシェ姫〉

「来てたんだ」

「また会えて嬉しいです」

「この田舎娘、あんたの知り合い?どうりで」

「い、田舎娘なんて言っちや失礼だよ」

「七都、早く食べるニャ」

「わたくしもご一緒して宜しいかしら?」

「勿論だよ」

【カウンター】

「はいよ、団ちゃん。持って来たよ」

「おう、良い野菜だね」

「そんじゃあね」

「あ、森さん。今度はレンコン持って来てよ」

「分かったよ。毎度」

「マルシェのおばちゃんニャ」

「森真希さん」

「海苔巻きさん?旨そうな名前ニャ」

「海苔巻きさんじゃなくて、森真希さん」

「時おばさんも八百屋なのに、何でよそから買うのニャ?」

「うちとは扱って品物が違うんだよ。はいよ、お待たせ」

〈時は大皿をテーブルに置く〉

「わあお、旨そうニャ」

「わたくし、食べた事の無い物ばかりです」

「そうなんだ、こんなに美味しい物食べた事無いなんて…って!また一人でお城を抜け出して来たの?」

「ええ、そうです。フフフ」

「今日はここの料理が食べたくて?」

「大聖堂に行きたかったんです。でも、どこだかわからなくて」

「え?大聖堂ならすぐそこだよ。何でこんな裏道入って来たの?」

「わたくし方向音痴なのかしら~?」

「かしら、って、かなりね。まあさ、後で連れて行ってあげるよ」

【裏道り】

〈酒場からフィナンシェ姫達が出てくる。向こうから少年が走って来る〉

「わっ、何よ」

〈七都にぶつかって凄い勢いで走り去る少年〉

「待てーーー!!」

「今度は何?」

〈貴族の従者らしい男が追いかけて行く〉

「あの子をどうするつもりかしら?」

〈酒場の裏の方から声がする〉

「捕まえたぞ、このガキ!大人しくしろ!」

〈顔を見合わせるフィナンシェ姫と七都〉

【酒場の裏】

「このガキ!ただじゃおかないからな!」

「離せ!離せよ!」

「その子が何をしたと言うのです?」

「伯爵様の金貨を盗んだんだ」

「まあ、それで?どうするつもりなのですか?」

「拷問して、牢にぶち込むのさ」

「ちくしょう!離しやがれ!」

〈従者らしい男は暴れる子供を引きずるように連れて行く〉

【メインストリート】

「離せよ!離せったら!」

「捕まえたか?」

「はい、旦那様」

「屋敷に連れて行け。鞭で打ってやる」

「お待ちなさい」

「私に何か用かね?お嬢さん」

「その子を許してやってほしいのです」

「ほう、それで?貴女がこの私の為に何をしてくれるのかね?」

「フィナンシェやめなよ。何かヤラシイ事考えてるよ、このおじさん」

「フィナンシェだと?」

「ワッフル侯爵。確かにこの子のした事は悪い事です。でも、拷問などと…貴方は屋敷で使用人や領地の人々をひどい目に遭わせていると評判ですよ」

「お前はいったい…」

「お忘れですか?先日の晩餐会で貴方のかつらがズレたのをそっと直して差し上げましたわね」

「アハハ、ズレたんだ、かつら。アハ、アハ」

「フィナンシェ姫…まさか、このような所に居られるはずが無い」

「さあ、早くその子を離してやりなさい」

「何を言う?!この子は私の金貨を盗んだのだぞ!」

「こんな小さな子供が金貨を盗むなんて、きっと何か事情が有るはずです」

「事情がどうあれ許すわけにはいかんな。拷問にかけて、その後は奴隷のようにこき使ってやる」

「坊や、金貨を返しなさい」

「さっきこのおじちゃんに取り上げられたよ」

「まあ、そうなのね」

〈クルッと振り返り従者の顔を見るフィナンシェ〉

「な、なんだよ?」

「お出しなさい」

「ちぇっ、わかったよ。なんだい、姫様の名を語りやがって」

「さあ、ワッフル侯爵。金貨をお返しします。この子はわたくしがお預かりして宜しいわね?」

「そうはいかんな。そのこの子は私の屋敷の使用人になるのだ」

「もう我慢出来ない!この人、いいえ、この方は本物のフィナンシェ姫だよ。侯爵だか何だか知らないけど、姫様の方が偉いんだからね!」

「こんな小娘がフィナンシェ姫様だと?フハハハハ、片腹痛いわ!」

「フィナンシェ、何とか言ってやるニャ。それとも俺がやっつけてやろうか?」

「いいえ、猫魔さんは人間相手にやたらな事をしてはいけません」

「フィナンシェ姫様の名を騙る不届きな娘とその一味捕らえたり!」

「仕方ありませんわね」

〈フィナンシェはかつらを取って見せる。そこには美しく長い黄金の髪のフィナンシェ姫の姿が有った〉

「うぬぬぬ、フィ、フィナンシェ姫、本当に姫様で有られますか?ご無礼お許しください」

「もう良い、下がりなさい」

「はっ、し、失礼致します。何をしている?!馬車を出せ!」

「は、はい、旦那様!ただ今!」

〈ワッフル侯爵は慌てて馬車に乗り込み帰って行った〉

「坊や、どんな事が有っても他人の物を盗むのはいけない事ですよ」

「わかってるよ…」

「何か事情が有るのね?わたくしに話してもらえませんか?」

「お姉ちゃん、じゃない、姫様。本当に本物のフィナンシェ姫様なの?」

「フフフ、今はお姉ちゃんで良いです」

〈そして少年は金貨を盗んだ理由を話し始めた〉

「そう、お母様が病気なのね」

「医者に診せるお金が無くて…」

「餡先生の所に連れて行けば良いニャ」

「だって、お金が無いよ」

「大丈夫だよ。餡先生の療養所は町の病院みたいに高いお金取らないし、無いならすぐに払わなくても待ってくれるから」

「本当?」

「本当だよ」

「でも、おいら働く所なんて無いし…」

「それは後で考えるニャ。とにかく早くお母さんを連れて行くニャ」
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