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リアルプロローグ・2

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ホームルームが終わって次の授業が始まるまでの時間
藤堂先生目当てで、職員室の前にはハートの目をした女子の群れが。
扉を開けなければ、中は見えないのに。

もしかして、出待ち?芸能人みたい。確かに芸能人なんじゃないかってくらいの
ハイパーイケメンだったけど…



チエコ「ごめーん。なかなか出られなくてさ」



職員室の前にあるトイレから出てきたチエコ。
そりゃそうだ。この学校じゅうの女子が集まってるんだから
トイレまでたどり着くのもやっとって感じだし。



私「確かにイケメンかもしれないけど、こんなに騒ぐ事かなぁ?」

チエコ「うん、まぁ、この学校の先生達、若くてイケメンぞろいだからね。」

??「何?お前も藤堂ねらいなの?」



幼馴染の東峰智暁とうみねちあきだ。歳は一つ上。




チエコ「あ!イケメン一号だっ!」

東峰「え?何その一号って」

チエコ「入学して一番最初に見つけたイケメンだから一号!
イケメンは世界平和の象徴なんだからっ!」

私「そ、そうなんだ。」



確かに、智暁くんモテてたよね。昔から知ってる幼馴染だし
イケメンがどうとか意識した事なかったけど。


東峰「ごめん、ちょっと通してー」



女子の群れの先にある三年生の教室へ向かう智暁くん。
それに気がついた女子達がまた騒ぎ出した。



1時間目が始まり数学の授業を受けていると具合が悪くなってしまった私は
お腹を擦りながら保健室に向かう。苦手な教科だったから、丁度良かったな。
そんな事を思いながら保健室の扉を開けた。



『ガラッ』



保健の渡邊先生が、こっちを向いた。



私「ちょっと、お腹が痛くて…」

渡邊「あら、大丈夫?顔色、悪いわね」



そう言いながら手早く、湯たんぽの用意をしてくれる。
一ケ月に一度のアレだと直ぐに分かってくれるのは
私がその度に、何度もお世話になっているからだ。

渡邊珠季わたなべたまき。女子生徒にも男子生徒にも人気のある先生で
休み時間になると、渡邊先生を頼って何人もの生徒達が保健室に来る。
たまに行列ができる程。その理由はきっと、どっちの気持ちも
分かってくれるからなんだろうなぁ。

男だけど、女の先生。オカマちゃんって言うのかな。
すごく優しいし、好きな先生の一人。尊敬って言う言葉が一番しっくり来る。
それに顔も整っていて、美人さんだし。


《 あら、そうなんだ。立ち絵見る限り、キレイな お姉さんかと思ったわ。》



渡邊先生から湯たんぽを受け取ると、常備している鎮痛剤を飲んだ。



渡邊「ちょっと職員室に届けなきゃいけない物があるから
落ち着くまで、ベッドに横になっててちょうだいね。」

私「はい。ありがとうございます。」

渡邊「あ、そうそう。一人、寝てる人がいるからね。」



と言うと「しーっ」と、人差し指を口元に立ててから、保健室を出て行った。

そっか、誰か寝てるんだ。まぁ、珍しい事じゃないけど、ちょっと気を使うな。
イビキ、かかないようにしないと。いや、寝てしまえばイビキなんて
かいてるかどうか、わかんないんだけど。

静かにカーテンを開けて、空いているベッドに横になる。
ベッドで寝ている人は、頭まで布団を被っているので
どんな人なのか、わからない。

少し眠ろうかと思ったけど、さっきよりお腹が痛くなってきて
それどころではなくなってきた。

う、痛い…。

湯たんぽを、お腹に押し付けて、鎮痛剤が効いて来るまで大人しくしていよう。



『キーンコーンカーン』


授業が終わるチャイムが鳴っても、ベッドで眠っている人は起きる事はなく
私はと言うと、やっと鎮痛剤が効きはじめて来た頃だった。

休み時間なのに、誰も入ってくる様子がないのは、きっと
渡邊先生が保健室を空ける時、いつもドアノブに掛けて行く
“大人の事情で外出中♡”の文字の入ったプレートのせいかなのかな?

お腹の痛みが大分、良くなってきたので、そろそろ保健室を出ようとベッドから出ると



???「んーー!」



あれ?もしかして、起こしちゃったかな?

見ると、ベッドから起き上がって、思い切り伸びをする藤堂先生がいた。



目が合ってしまった。


藤堂「なんだよ、アンタもサボりか?」



さ、さぼりって?しかも、今“アンタも”って言ったよね?
もしかして、藤堂先生って…



私「違います!お腹が痛くて、少し横になってただけですから。」



そのまま、出ていこうと藤堂先生の使っているベッドの横を通ろうとすると



藤堂「ふーん。そういやぁ、遅刻しなくて良かったな」



あ。私の事、覚えてたんだ。さっきは、お前誰だよって態度だったのに。



私「お、覚えてたんですね、私の事」

藤堂「忘れるわけねぇだろ。思い切りぶっかって来たんだからな。」



わー。やっぱり態度悪っ!しかも、不機嫌そう…

あれ?そう言えば、私の方が先に走って来たはずなのに
どうして藤堂先生の方が先に学校にいたんだろう?

職員室の前の女子達の群れって藤堂先生待ちだったはず…

私は、遅刻ギリギリで教室に入ったし。
もしかして…



私「瞬間移動!?」

藤堂「はぁ?なんだよ急に」



やばっ!口に出てた。



私「いえ、あの。どうして私より先に学校にいたのかなって」

藤堂「気になんの?」



と、藤堂先生が、横に立っていた私の顔に自分の顔を近づけてきた。



ち、近っ!

思わず、後ずさりすると



藤堂「ぷっ…何、そのおもしれぇ顔!ガキ相手に何もしねぇって。くくくくっ…」



な、何かムカつくんですけどっ!
確かに、まだ高二だし先生から見たら子供かも知れないけど
ガキとか、ハッキリ言う事なくない?!



『シャーッ』



カーテンが開くと、いつのまにか戻って来ていた渡邊先生が顔を出す。




渡邊「あらぁ、もう大丈夫なの?」



と私の方を見て言う。

あれ?いつの間に戻ってきたんだろう?



私「あ、はい。鎮痛剤、効いてきたみたいなので。」

渡邊「あら、そう。良かったわね♪だけど初日なのに、ウサギちゃんてば
もう生徒と仲良くなったのねー」

藤堂「別に。つーか、その呼び方、辞めろよ…」

渡邊「あらそう?いいじゃない。
そう言えば、その話し方するのって、私とあと一人くらいだと思ってたけど」



あれ?知り合いなのかな?
それに今、ウサギちゃんって…



私「あの。藤堂先生と渡邊先生って…」

渡邊「そうよー。恋人同士なn…」

藤堂「んな訳ねぇだろっ!ただの幼馴染だ。おい、コイツに変な事言うなよ。」



そう言いながら保健室を出て行ってしまった。



渡邊「あらやだ、フフフッ」

私「あの、ウサギちゃんって…」

渡邊「ウサギちゃんって言うのは、小さい頃からのアダ名なのよ。
下の名前、律兎りつとってウサギって読むでしょ。」

私「あぁ!」

渡邊「本人は、呼ばれるの嫌みたいだけど、どうしても昔の癖で
呼んじゃう時があるのよねー。学校では気をつけなきゃね☆」



ウサギちゃんか。あの藤堂先生からは想像がつかないなー。

この後、初めて藤堂先生の授業を受けたけど、ホームルームの時のあの爽やかな笑顔で
生徒に接しているのを見ると、何故か複雑な気持になった。

どうして爽やかイケメンを演じているんだろう?

とりあえず、渡邊先生にウサギちゃんって呼ばれてる事だけは
ここだけの秘密にしておこう。





『ピピピピッピピピピッ』





『ガバッ!』



私「ヤバイ!寝ちゃった!?」

どうやら、アプリゲームをやりながら寝落ちしていたみたいだ。

…ん?

スマホを見ると、昼の12時を知らせるアラームが鳴ったばかりだった。
眠ってしまったから、かなりの時間が経っていると思ってたのに数分しか経ってない。



私「結構リアルな夢だったな…」



私が高校生になっていて、授業受けたり、保健室行ったり…

スマホの画面には《 プロローグが終了しました。1話へ進みますか?》と言う文字。
プロローグのストーリーを巻き戻すと、さっき夢で見たのと同じ内容だった。

あれ?もしかして私、寝ボケてる?実は、寝てなかったとか?
それだけアプリに集中してたって事なのかな。

その時は、あまり考えずにアプリ画面を閉じた。
また時間が出来たら、続きでもやってみようかな。と、そんな軽い気持ちで。

このアプリが、ただのアプリゲームではない事を知らずに。
そして、アプリに思い切りハマるとも知らずに。


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