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放課後、テストの入った鞄を持って
化学室へ向かう。

なんか、怖いんですけど…

続きが気になって「次のストーリーに進む」を
タッチしてしまったけど
いざ、ゲームに入り込むと緊張してきた。

藤堂先生に、怒られるかも知れないとか
そう言うのもあるけど、理由はもう一つあった。

化学室は、学校の一番奥の方にある。
賃貸物件で言うなら角部屋。
部活も理科系がないみたいなので授業で利用する時以外は、あまり人が来ない場所。

暗くなってくると、化学室の隣にある理科室の人体模型が動くとか、そんな噂があると
さっき、チエコから聞いた。しかもその人体模型を見た人がいるって。

理科系の部活があったとして、藤堂先生が顧問なら、そんな噂どうでもいいくらい
賑わっていたのかも知れないけど。
ひと気のない化学室へと続く廊下は静かで、ちょっと不気味に感じる。

人体模型の噂を聞くまでは、平気だったのに…

私は、そういうのあまり気にしないタイプだから、どうしてかなって思ったんだけど
これはきっと、ヒロインの感情だよね?

ヒロインの感情を体験出来るなんて
本当によく出来たリアルなゲーム。
って言っても、私だけが体験出来ているっぽいけど…

それとも他に、私みたいに入り込んだ人、いたりするのかな?

そんな事を考えながら、西日の当たらなくなった廊下を歩く。

藤堂先生、もう来てるかな?

…いる、よね?

化学室に近付くにつれ、藤堂先生に怒られるかも知れないという緊張感より、人体模型の方が気になりだして来ていた。

化学室の前に着くと、恐る恐る扉を開ける。

人体模型、いませんように

人体模型、いませんように

人体模型、いませんように…



『 ガラガラ』







私「ぎゃぁぁぁあっ!」



化学室の椅子に、黒い何かが座ってこっちを見ていた!

いる!いるしっ!
人体模型、本当にいるよぉぉぉおっ!



??「おい。」



あれ?何か聞き覚えのある声…

よく見ると、逆光で黒くなった藤堂先生が
そりゃぁ、もうこれでもかってくらいの
黒いオーラを放って座っていた。

両手で耳を塞いで。



藤堂「何で、悲鳴なんてあげてんだよ?
あー、耳痛ぇ」

私「…動く人体模型かと…」

藤堂「あぁ、アレな。俺が流した噂か。」

私「え?」

藤堂「何の用もねぇのに化学室に来る奴が増えて来たからな。ゆっくりコーヒー飲めねぇし。」



コーヒー?あの、フラスコで作ってたコーヒーの事?職員室で飲めばいいのに。

あ、もしかしてあの激甘コーヒー飲んでる事、他の先生に知られたくないから、とかだったりする?

でも、人体模型が動くって言うの、嘘で良かったかも。



藤堂「テスト、持ってきたか?」

私「はい。」



うわぁー。黒いオーラが!

恐る恐る、藤堂先生の座っている方へと歩いていく。藤堂先生の隣りの椅子に座ると
点数の書かれていないテストを藤堂先生に渡す。



藤堂「まず、テストの点数な。四十八点だ。」

私「よ…え?四十八…」



化学は、他の教科より力入れて頑張ったのにな…


 
私「あの、それで、どうして点数が書かれていないんでしょう?」

藤堂「アンタさ…」



藤堂先生が両手を伸ばして、私の頬を
『ぱちん』と挟んだ。



私「いて」



な、何?



藤堂「ばーーーーかっ!!」

私「!」



ば、バカ?

藤堂先生の大きな手は、私の頬を挟んだまま。

私が、何か言うのを待っているかのよう。



藤堂「…」



あったかいな、藤堂先生の手…

何か、ドキドキしてきたんですけど。

って、違う違う!
怒られてるのに、何考えてるんだろ私。
しかも、めちゃくちゃ怖い顔で睨まれてるよね。

睨んだ顔も、キレイ…

…おい、私!
変な事、考えるな!
テスト!そう、今はテストの事を

点数が書かれてなかった理由を考えないと!
理由…理由は…

ダメだわ。わかんない…

でも、思てる事はちゃんと伝えよう。



私「私、確かにバカだし、勉強したのに四十八点しか取れなかったけど…
それって、点数が書かれていない理由になりますか?
…私のテストは…点数すら書いて貰えないくらい
藤堂先生から見て…価値のない点数だったって事ですか?

藤堂先生の化学だから…だから
一番頑張った教科だったのに…
どうして、取れなかったのか不思議で…」



藤堂「だろうな。」

私「?」



だろうなって?

私の頬にあった大きな手は、スっと外されたかと思うと、藤堂先生の笑った顔と目が合った。

私の頭を温かい手が『 ポンポン』すると



藤堂「八十三点。」

私「へ?」

藤堂「アンタの本当の点数が」

私「どういう事でしょう?」



藤堂先生が、私のテストを出す。
そして…

藤堂先生が指差したのは、テスト用紙のちょうど真ん中辺り。

 

藤堂「ここから、一つずつズレてる。」



大きめの四角の中には三文字で大きく文字が書かれていて、小さいカッコの中には、小さな字で、文字がぎっしり書かれていた。

誰が見ても何だか、ぎこちないテストだった。

答えを書く場所を間違えていた!って言うより
一つずつ下にズレて書かれていた。

藤堂先生は、一枚の紙を横に並べた。
キレイな字で書かれたテストの答えが書かれてある紙だった。

見比べると、一つずつズレていた答えは
ほとんど正解していたのだ。

ズレていなければ、八十三点。
そういう事だよね?

不機嫌だったのは、こういう事?
だから、点数をワザと書かなかったんだ!

どうして、誰にでも分かるような事に
気が付かなかったんだろう?
私は、申し訳なさそうに藤堂先生の顔を見る。



藤堂「ばーか。」



また、バカって言われた。

でもさっきの「バカ」より心地よく聞こえたのは
それが少し優しい声だったからかも知れない。



藤堂「どうして、書いてる途中で気が付かなかったんだよ。普通、気づくだろ?」



呆れた声で言う藤堂先生だけど、やっぱりその声は、どこか優しい。



藤堂「今度は、間違えんなよ!」

私「はい。」



私の手の上には四十八点(八十三点)と
赤で点数が書かれたテストが乗った。

何だか、申し訳ない事しちゃったな。
八十三点も取ってたのに、こういう事しちゃってるんだもんね。

小学校から短大まで出たけど、こんな事やらかしたの初めてだわ。

いや、コレやらかしたのヒロインだから
こういう場合は、こんな子見たの初めてだ
が正解かな?



藤堂「初めてだ。こんな生徒、今まで会った事ねぇわ。」

私「はい。私もです…」

藤堂「私もですって、オイオイ。また自覚無しかよ、全く…。
本当は、八十三点くれてやりたいところだけど、それ出来ねぇから。わかるよな?」

私「はい。わかってます。
ありがとうございました」



いつの間にか、黒いオーラが消えていた
藤堂先生を残して化学室を出た。





 翌朝、いつものように学校に行くと、何だかいつにも増して騒がしい。もしかして、テストの順位が張り出されたからなのかな?

すると、後ろからチエコが声をかけてきた。



チエコ「ねぇ、やっぱりあの噂本当かな?」

私「噂って、人体模型の?」

チエコ「違うよ。藤堂先生と平野先生が付き合ってるってやつ」

私「え?」



平野先生と言えば、この前、藤堂先生に告って振られたよね?

まさか…!








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