大好きな義妹が他人になった  ※毎日21時更新  他サイトでランキング1位

宵月しらせ

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第1章 大好きな義妹が他人になった

第7話 キスの翌日

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 キスをしてしまった翌朝。
 俺がリビングに行くと、飾は朝食の準備をしている最中だった。
 父さんはコーヒーの豆を挽いている。よほど忙しい日でない限りは、落ち着いてコーヒーを飲んで一日を始めるのが父さんの流儀だ。
 そのため我が家の朝食はトーストのことが多い。

「あ、おはよう、るぅ。今日から春休みだね。受験勉強もないから遊び放題だよ。なにする? 新しいゲーム買う?」

 飾は料理をしていた。焼きあがった目玉焼きを皿に乗せ、俺の席に置いてそう笑いかけてくる。
 いつもと変わらない。
 どちらかと言えば、機嫌が良い日の朝だ。
 昨日の夜、俺が突然キスをしてしまって、それから飾が慌てて自分の部屋に入って行って……朝起きたらこの状態。
 まるでキスなどなかったかのようだ。
 父さんがいるからだろうか?
 うん、親がいる前でする話じゃないから、あえて普通に振る舞っているという可能性はある。



 父さんが仕事に行き、俺と飾だけになった。
 これでキスの話をしやすくなったか……と思っていたのだが、飾からその話をするつもりはないらしい。
 ゲームのダウンロード販売のページを端から端まで見て、たまにスマホを手にしてこっちの友達と遊ぶ相談をし、至って普通に過ごしている。

「ねぇねぇ、これおもしろそうじゃない? 対戦もできそうだし、これ買っちゃう?」

 並んでソファーに座る俺と飾の距離は、今までと同じ。
 近づくことも、離れることもない。キスをした後なのに、こんなに自然に過ごせるものなのだろうか?
 それとも、昨夜のキスは、夢の中の出来事だったのか?
 ……なんかそんな気がしてきたぞ。
 そうか、あれは夢だったのか。
 だとしたら、一晩中、これからどうしよう? って考えてたのがバカみたいじゃん。

「これって今持ってるのと似てるんじゃないか? 違うのを探そう」
「そっか。じゃあどうしようかな」

 飾はコントローラーを使って、商品ページを移動する。
 飾はゲーム好きだが、特にPvPを特に好む。対戦できるなら、格闘、レース、シューティング、パズル……なんでもやる。
 ゲームを選ぶ時は、ジャンルで絞ったりしない。割引されている作品に絞り込み、そこから気になったものを片っ端から見て行く。
 なので、たまに操作ミスで、まったく興味がないジャンルのゲームのページを開いてしまうことがある。
 この時、飾がうっかり開いてしまったのは、ギャルゲーのページだった。

【キスから始まる恋――】

 というキャッチフレーズが大きく表示され、次々とキスシーンのイベント絵が流れる。
 主人公は、もともとはどこにでもいるごく普通の男子高校生。ある日突然、毎日誰かとキスをしないと死んでしまう病気にかかってしまう。それで女友達たちとキスをするようになるのだが、最初は死なないためのキスに別の意味が生まれてきて――。
 というような、ずいぶんとご都合主義、いや男子の夢を詰め込んだ設定のようだ。

 ちょっとおもしろそうではあるが、家族共用のゲーム機にダウンロードする勇気はないな。
 それにしても、飾はいつまでこのページを開いているのだろう? 間違えたのなら、さっさと戻ればいいのに。
 視線をテレビの画面から飾に移す。
 飾は顔を真っ赤にして、指一本動かせないほど固まっていた。
 キスシーン程度で、そこまで動揺するほど免疫がないわけじゃないだろうに。

「もしかして、昨日のこと思い出した?」
「そりゃ思い出すわよ。こんなの見たら、いきなりキスされた時のこと思い出しちゃう……しまった、言っちゃった。なかったことにするつもりだったのに」
「演技力すごいな。あまりに自然体なもんだから、完全に騙されるところだった。まぁそんなに顔を真っ赤にしたら台無しだけど」
「しょうがないじゃん、赤面症なんだから!」

 復活した飾はページをバックさせ、ゲーム選びを再開した。
 しかし、時折こっちに視線を送って来る。

「一応聞くけどさ……昨日のあれって、事故だよね? よろけたところに、ちょうどあたしの顔があったってだけ……だよね?」

 もしそんなシチュエーションだったら、唇が触れるだけで済んでいたはずがない。
 そのまま勢いよく歯がぶつかって、折れていた可能性だってある。
 だが、飾がそういうことにしたいなら……そうすることもできる。
 俺が今首を縦に振ってしまえば、あれは事故だったことになる。
 飾はそうしたいのだろうか?
 でも、俺は――。

「あれはキスだよ。ぶつかったわけじゃない」
「……なんでキスしたの?」
「飾のことが好きだから」

 ――俺は、あれを事故だったことにはしたくない。
 あれをノーカウントにしてしまったら、きっと俺はもう飾に本当の気持ちを伝えられなくなってしまう。
 そんなのはイヤだ。俺は飾のことが好きなんだ。
 そして、ここまで踏み込んでしまった以上、もはや気持ちを伝えてしまうしかない。

「家族としてとか、親友としてとかじゃなくて、ひとりの女の子として飾のことが好きだ」
「…………お、おう」

 顔が真っ赤なのは予想通りだが、なんだその返事は。
 どういう感情だ?

「えっと……やっぱなにかしら返事しないとダメ……だよね? 今のを聞いておいて、『じゃあゲーム選びに戻ろうか、お昼ご飯はなににする?』みたいなわけにはいかないよね?」
「ああ………………いや、それでもいいかもしれない。なんか次の言葉を聞くのが怖くなってきた」
「なんで今さらビビるの⁉ いきなりキスしてきて、めちゃくちゃ直球で告白してきて、なんでそこから日和るの⁉」
「もともと時間をかけてゆっくりって計画だったから。ほら、俺たち兄妹だっただろ? 関係性をすぐに変えるのなんてムリだろうから、少しずつ変わっていければと思ってた。キスも告白も、高校生のうちにできればいいか、くらいに思ってたんだよ。なのに、昨日なんか勢いでキスしちゃって、告白も勢いで」
「なんか勢いで⁉」
「でも全部してみたら、急に怖くなってきた。やっぱりあれ、偶然ぶつかっただけにしない?」
「ムチャ言わないで!」
 さっきまでの覚悟がどこへやら。
 キスも告白も、全部自分の都合で進めてしまったことに今さら気付き、申し訳なさでいっぱいだった。

「あーっ、もう!」

 飾は大きくため息を吐き、顔を手で覆う。
 そのまましばらく深呼吸する。
 手をどけた時には、顔色はいつもの色に戻っていた。

「これほどのことを、なかったことにはできないでしょ?」

「……そうですね」
「だから、返事をするよ」
「……反省しているので、キツイ言葉だけはやめてください。立ち直れなくなるので」
「フラれる前提なのね。そういうわけじゃないんだけど」
「……じゃあ、オッケーということ?」
「そうでもない」

 どういうことだ?

「まずね、とても驚いた。あたしたちが恋人とか夫婦みたいに仲が良い、って言われることには慣れているつもりだけど、るぅから実際にそんなこと言われるなんて思ってもいなかったから。これまでは考えたこともなかったからね」
「それは俺のことを異性として意識してなかったってこと?」
「そうね。るぅはあたしにとって最高のお兄ちゃんで、一番の親友。彼氏にしたいかどうかを意識したことはなかった」
「恋愛対象外ってこと?」
「ちゃんと話を聞きなさい。これまで考えたことがないっていうのは、そのままの意味だよ。考えた結果、対象から外したって意味じゃなくてね。だから、これから考えようと思う」
「つまり、返事は――」
「保留。そのうち答えるってことでどう?」
「わかった、それでいい……っていうか、いきなりキスしたことを罵られたり、兄妹なのに告白してきて変態! とか思われてるんじゃないかと心配してたから、保留なら命拾いした気分だ」
「まぁ兄妹だった頃にキスされてたら、保留にしないで怒ってたかもね」
「その頃はキスしようとは思わなかった。異性として好きだと思い始めたのは、兄妹でなくなってからだからな」
「へぇ、そうなんだ。あたしがあっちでの生活と戦っている間に、るぅはるぅでいろいろあったんだね」
「まぁな」
「あたしのどんなところが好きになったの?」
「ずっと一緒にいたいと思える相手だからだよ…………自分から聞いておいて、そんなに顔赤くする?」
「直球すぎて今のはズルい」

 赤面を隠すため、飾はまた手で顔を覆った。
 かわいいな――と思いながら、あることに気が付いた。

 俺がキスしたことを認めなければ、飾は昨日のことをなかったことにしただろう。
 つまり、状況を保留していたわけだ。
 告白してもしなくても、結果は保留。
 飾が望む通りになったのだ。

 顔を真っ赤にした姿を見て、かわいいと思っている場合ではなかった。
 俺が好きになった女の子は、俺をコントロールするのがずいぶんと上手じゃないか。
 先が思いやられる。
 でも、そんな飾とずっと一緒にいたいと思ってしまったのだから、それはしかたないな――。
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