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文豪好き×文豪好き
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「あー……」
志摩子が、ガラスケースの前で唸っている。ケースの中身は、自筆の原稿やお手紙だ。
十二月二十三日。今日は、彼女が少女時代から好きな作家さんの旧暦誕生日であり、ここはその作家さんの記念館だ。冬の金沢は寒いがここは温かい。暖房が効いてるだけでなく。
「大丈夫?」
「大丈夫。このまま召されそうになっただけ」
「やめな? 尊敬する作家の記念館さんで死ぬのだけはやめな?」
私たちの歳だと、本当に洒落にならない。ドキドキが収まらず心臓が「疲れた」ってなる歳だ。でも気持ちもわかる。だって私もここ数年は、太宰治さんの記念館や展示会で「今日が命日かな?」と毎度思っているものだから。自筆のあれそれは、いつ見ても興奮する。
「わかってるよ、そんな失態を犯す愛読者にはなりたくないからね……」
志摩子が、深く頷いた。よし。心が強い。手は相変わらず震えてるけど。
「秋聲さんの誕生日に記念館に来るのは、長年の夢だったから」
「叶って良かったねぇ」
「うん。秋聲さんのものに囲まれて、本当に本当に倖せ……」
私たちの若い頃には秋聲さんの記念館さんはまだ無くて。建ったばかりの頃はもろもろ忙しい時期で。……だから、彼女がこうして嬉しそうに頬を染め、ここに居ることが……そんな風に倖せそうにしていることが、私にとっても。
「……長生き、するもんだね」
「え、アンタが言うの? 私じゃなくて?」
「言うよ。アンタが一番嬉しいときに一番傍に居られて嬉しいんだもん」
私の言葉に、志摩子はきょとんとしたあと。
「アンタは『本当の貴族』だね」
と笑って言った。
Before
「ここで太宰さんが育ったのかあ」
まちの風景を撮りながら、ため息を吐く。電車を乗り継いで来た甲斐があった。
「良かったね、来られて」
「ホント良かった。いつもありがとうね」
「私も楽しいから、いいんだ」
好きな作家さんを辿る旅に、いつもいつもついて来てくれる志摩子には感謝しかない。私が楽しそうな顔をしているのを、自分のことのように嬉しそうに眺めてくれる志摩子。
彼女と一緒に旅をするのが、お互いの好きな本を貸し合うのが、感想を言い合うのが、本当に大好きなのだ。
こんな時間がずっと、ずっとずっと続けば良いのに。
「……でも、これからはちょっと難しいかも」
「え?」
「お見合いしろって、親がうるさくてさ」
私、誰とも結婚なんかしたくないのに。志摩子が、ぽつりと零した。
「私は、ずっと和子と一緒にこうして居たいのに」
俯いた志摩子の肩を、私は思わず抱いていた。
じゃあ戦おう。そう言いたくて仕方なかった。
戦闘開始。あらくれるんだ。
こんな結婚してられっかって飛び出すんだ。私が連れ出してもいい。
その言葉はどれも、私の中から上手に出て行かなかった。
世間とか社会とか。重苦しく偉ぶってる癖に、私たちをなかなか助けてくれないものを、若い私は酷く憎んだ。
憎むだけで、それらに対峙する術すら持たない自分にも、腹を立てた。
私はそれらすべてに、怒りと憎しみをただただ抱くしかなかった。
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