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第2話:変わらない日常と、変わるダンジョン
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10階層は、石造りの通路が迷路のように入り組んだ構造になっている。天井の高さは約5メートル。壁には等間隔で松明が設置されており、薄暗いながらも視界は確保されていた。
「じゃあ、いつものコースで行こうか」
「はい。私も準備できてます」
悠真が剣を抜き、美琴が杖を構える。二人は慣れた足取りで、通路の奥へと進み始めた。
最初のモンスターと遭遇するまで、そう時間はかからなかった。
「ギギギッ!」
甲高い声と共に、通路の角から3体のゴブリンが飛び出してきた。緑色の肌に、ボロボロの布を纏った小柄な人型モンスター。手にはそれぞれ粗末な棍棒を握っている。
「美琴、援護を」
「分かりました!」
これまで何度も繰り返してきた連携が、自然に発動する。悠真が前に出て、ゴブリンたちの注意を引きつける。その間に、美琴が後方で詠唱を始めた。
「炎よ、我が意志に従い、敵を焼き尽くせ――ファイアボール!」
詠唱と共に、美琴の杖の先端に野球ボール大の火球が生まれる。それは狙い通り、一番左のゴブリンに直撃した。
「ギャアアア!」
炎に包まれたゴブリンが、断末魔の叫びを上げて倒れる。残る2体も、悠真の剣技によってあっという間に斬り伏せられた。
「相変わらずの精度だな」
「悠真さんこそ。剣さばきがどんどん上達してます」
倒したゴブリンの体は、黒い靄となって消えていく。後には、ドロップアイテムだけが残された。
「ゴブリンの皮」が2枚、「ゴブリンの牙」が3本。これらの素材は、防具や薬品の材料として一定の需要がある。悠真は手早くそれらを回収し、リュックにしまい込んだ。
◇ ◇ ◇
その後も、探索は順調に進んだ。
コボルドの群れ、オーク、リザードマンなど、10階層の定番モンスターを次々と撃破していく。悠真の剣技と美琴の魔法は、お互いの長所を活かし、短所を補い合う理想的な組み合わせだった。
「悠真さん、右から来ます!」
「了解!」
美琴の警告と同時に、通路の右側からリザードマンが飛び出してくる。爬虫類の頭部を持つ二足歩行のモンスターは、鋭い爪を振りかざして悠真に襲いかかった。
金属音が響く。悠真の剣が、リザードマンの爪を受け止めた瞬間だ。
「今だ、美琴!」
「はい! 雷よ、天より降り注げ――サンダーボルト!」
美琴の杖から放たれた雷撃が、リザードマンを直撃する。電撃に痺れて動きが止まったところを、悠真が袈裟斬りに斬り捨てた。
「ふう……」
額の汗を拭いながら、悠真は剣の状態を確認する。刃こぼれがさらに増えているのが分かった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、まだ何とか。でも、やっぱりそろそろ限界かもしれない」
時計を見ると、11時半を回っていた。予定より少し早いが、そろそろ休憩を取ることにする。
「この先に、休憩に使える小部屋があったはずなんだよな」
「あ、覚えてます。前に一度使った場所ですよね」
二人は記憶を頼りに通路を進む。しかし、10分ほど歩いても、目的の部屋は見つからなかった。
「おかしいな……確かこの辺だったと思うんだけど」
「もしかして、道を間違えたんでしょうか?」
ダンジョンの構造は基本的に変わらないが、時折、微妙な変化が起きることがある。それは、ダンジョンが生きているという証拠だと言われていた。
「あ、悠真さん。あそこに入口がありますよ」
美琴が指差した先に、確かに小さな入口が見えた。ただし、それは二人が探していた部屋とは違う場所のようだった。
「初めて見る場所だな。でも、休憩できそうならいいか」
慎重に中を確認してから、二人は未知の小部屋に足を踏み入れた。リュックを下ろし、しばしの休憩を取ることにする。
◇ ◇ ◇
部屋は予想以上に広く、清潔だった。
中央には平らな石のテーブルがあり、壁際には座れそうな段差もある。何より、モンスターの気配が全く感じられないのが良かった。
「ここ、いいですね。静かだし、落ち着きます」
「確かに。穴場を見つけたかもしれない」
二人は石のテーブルを挟んで腰を下ろした。美琴がリュックから包みを取り出す。
「お待たせしました。今日はサンドイッチにしてみたんです」
「おお、美味しそう」
包みを開けると、色とりどりの具材が挟まれたサンドイッチが顔を出した。卵、ハム、レタス、トマト。そして、ツナマヨネーズ。
「種類も豊富だな」
「悠真さんの好きなものを詰め込んでみました。あ、飲み物もありますよ」
保温ポットから温かいお茶を注ぎながら、美琴が嬉しそうに微笑む。その表情を見て、悠真は4年前のことを思い出していた。
初めてパーティーを組んだ日。同じ高校の1年後輩だった美琴が、突然「一緒にダンジョンに行きたい」と言い出した時の驚き。最初は断ったが、彼女の熱意に押されて、結局一緒に探索することになった。
それから4年。気がつけば、美琴は悠真にとって欠かせない存在になっていた。
「美味い。相変わらず料理が上手だな」
「そ、そうですか? 嬉しいです」
頬を赤らめる美琴を見て、悠真は微笑む。彼女の気持ちに気づいていないわけではない。ただ、今の関係が心地よく、この穏やかな日常を大切にしたいという思いがあった。
「そういえば、来月で探索者になって5年かあ」
「早いですね。でも、悠真さんと一緒だったから、ここまで続けられました」
「俺の方こそ、美琴がいなかったら、とっくに辞めてたかもしれない」
そんな会話を交わしながら、二人は穏やかな時間を過ごした。
◇ ◇ ◇
食事を終え、そろそろ帰ろうかと立ち上がった時だった。
「あれ?」
片付けをしていた美琴が、壁の一部を見つめて首を傾げた。
「どうした?」
「この壁、なんか変じゃないですか? 他の部分と色が微妙に違うような……」
悠真も近づいて確認する。確かに、美琴の言う通り、その部分だけ石の色が薄い。まるで、最近作られたばかりのような新しさを感じる。
「本当だ。しかも、よく見ると継ぎ目がある」
悠真は剣の柄で、その部分を軽く叩いてみた。
コン、コン……ゴン。
「音が違う。中が空洞になってるのかも」
「隠し部屋でしょうか?」
「可能性はあるな。10階層に隠し部屋があるなんて聞いたことないけど」
ダンジョンには、稀に隠された部屋や通路が存在する。そこには貴重なアイテムが眠っていることが多いが、同時に危険も伴う。
「どうします?」
「うーん……」
悠真は少し考えてから、決断を下した。
「ちょっと調べてみよう。でも、何かあったらすぐに逃げるぞ」
「分かりました。私も警戒しておきます」
悠真は剣の切っ先を壁の継ぎ目に当て、少しずつ力を込めた。石灰で固められているような部分が、ポロポロと崩れ始める。
そして――
ガラガラと音を立てて、壁の一部が内側に崩れ落ちた。
現れたのは、人一人がやっと通れるほどの狭い通路だった。奥は暗くてよく見えないが、かすかに空気の流れを感じる。
「本当に隠し通路だったんですね!」
「ああ。でも、慎重に行こう。何が待ち受けているか分からない」
悠真が先頭に立ち、美琴が後ろからついていく。通路は思ったより長く、緩やかに下っているようだった。
「じゃあ、いつものコースで行こうか」
「はい。私も準備できてます」
悠真が剣を抜き、美琴が杖を構える。二人は慣れた足取りで、通路の奥へと進み始めた。
最初のモンスターと遭遇するまで、そう時間はかからなかった。
「ギギギッ!」
甲高い声と共に、通路の角から3体のゴブリンが飛び出してきた。緑色の肌に、ボロボロの布を纏った小柄な人型モンスター。手にはそれぞれ粗末な棍棒を握っている。
「美琴、援護を」
「分かりました!」
これまで何度も繰り返してきた連携が、自然に発動する。悠真が前に出て、ゴブリンたちの注意を引きつける。その間に、美琴が後方で詠唱を始めた。
「炎よ、我が意志に従い、敵を焼き尽くせ――ファイアボール!」
詠唱と共に、美琴の杖の先端に野球ボール大の火球が生まれる。それは狙い通り、一番左のゴブリンに直撃した。
「ギャアアア!」
炎に包まれたゴブリンが、断末魔の叫びを上げて倒れる。残る2体も、悠真の剣技によってあっという間に斬り伏せられた。
「相変わらずの精度だな」
「悠真さんこそ。剣さばきがどんどん上達してます」
倒したゴブリンの体は、黒い靄となって消えていく。後には、ドロップアイテムだけが残された。
「ゴブリンの皮」が2枚、「ゴブリンの牙」が3本。これらの素材は、防具や薬品の材料として一定の需要がある。悠真は手早くそれらを回収し、リュックにしまい込んだ。
◇ ◇ ◇
その後も、探索は順調に進んだ。
コボルドの群れ、オーク、リザードマンなど、10階層の定番モンスターを次々と撃破していく。悠真の剣技と美琴の魔法は、お互いの長所を活かし、短所を補い合う理想的な組み合わせだった。
「悠真さん、右から来ます!」
「了解!」
美琴の警告と同時に、通路の右側からリザードマンが飛び出してくる。爬虫類の頭部を持つ二足歩行のモンスターは、鋭い爪を振りかざして悠真に襲いかかった。
金属音が響く。悠真の剣が、リザードマンの爪を受け止めた瞬間だ。
「今だ、美琴!」
「はい! 雷よ、天より降り注げ――サンダーボルト!」
美琴の杖から放たれた雷撃が、リザードマンを直撃する。電撃に痺れて動きが止まったところを、悠真が袈裟斬りに斬り捨てた。
「ふう……」
額の汗を拭いながら、悠真は剣の状態を確認する。刃こぼれがさらに増えているのが分かった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、まだ何とか。でも、やっぱりそろそろ限界かもしれない」
時計を見ると、11時半を回っていた。予定より少し早いが、そろそろ休憩を取ることにする。
「この先に、休憩に使える小部屋があったはずなんだよな」
「あ、覚えてます。前に一度使った場所ですよね」
二人は記憶を頼りに通路を進む。しかし、10分ほど歩いても、目的の部屋は見つからなかった。
「おかしいな……確かこの辺だったと思うんだけど」
「もしかして、道を間違えたんでしょうか?」
ダンジョンの構造は基本的に変わらないが、時折、微妙な変化が起きることがある。それは、ダンジョンが生きているという証拠だと言われていた。
「あ、悠真さん。あそこに入口がありますよ」
美琴が指差した先に、確かに小さな入口が見えた。ただし、それは二人が探していた部屋とは違う場所のようだった。
「初めて見る場所だな。でも、休憩できそうならいいか」
慎重に中を確認してから、二人は未知の小部屋に足を踏み入れた。リュックを下ろし、しばしの休憩を取ることにする。
◇ ◇ ◇
部屋は予想以上に広く、清潔だった。
中央には平らな石のテーブルがあり、壁際には座れそうな段差もある。何より、モンスターの気配が全く感じられないのが良かった。
「ここ、いいですね。静かだし、落ち着きます」
「確かに。穴場を見つけたかもしれない」
二人は石のテーブルを挟んで腰を下ろした。美琴がリュックから包みを取り出す。
「お待たせしました。今日はサンドイッチにしてみたんです」
「おお、美味しそう」
包みを開けると、色とりどりの具材が挟まれたサンドイッチが顔を出した。卵、ハム、レタス、トマト。そして、ツナマヨネーズ。
「種類も豊富だな」
「悠真さんの好きなものを詰め込んでみました。あ、飲み物もありますよ」
保温ポットから温かいお茶を注ぎながら、美琴が嬉しそうに微笑む。その表情を見て、悠真は4年前のことを思い出していた。
初めてパーティーを組んだ日。同じ高校の1年後輩だった美琴が、突然「一緒にダンジョンに行きたい」と言い出した時の驚き。最初は断ったが、彼女の熱意に押されて、結局一緒に探索することになった。
それから4年。気がつけば、美琴は悠真にとって欠かせない存在になっていた。
「美味い。相変わらず料理が上手だな」
「そ、そうですか? 嬉しいです」
頬を赤らめる美琴を見て、悠真は微笑む。彼女の気持ちに気づいていないわけではない。ただ、今の関係が心地よく、この穏やかな日常を大切にしたいという思いがあった。
「そういえば、来月で探索者になって5年かあ」
「早いですね。でも、悠真さんと一緒だったから、ここまで続けられました」
「俺の方こそ、美琴がいなかったら、とっくに辞めてたかもしれない」
そんな会話を交わしながら、二人は穏やかな時間を過ごした。
◇ ◇ ◇
食事を終え、そろそろ帰ろうかと立ち上がった時だった。
「あれ?」
片付けをしていた美琴が、壁の一部を見つめて首を傾げた。
「どうした?」
「この壁、なんか変じゃないですか? 他の部分と色が微妙に違うような……」
悠真も近づいて確認する。確かに、美琴の言う通り、その部分だけ石の色が薄い。まるで、最近作られたばかりのような新しさを感じる。
「本当だ。しかも、よく見ると継ぎ目がある」
悠真は剣の柄で、その部分を軽く叩いてみた。
コン、コン……ゴン。
「音が違う。中が空洞になってるのかも」
「隠し部屋でしょうか?」
「可能性はあるな。10階層に隠し部屋があるなんて聞いたことないけど」
ダンジョンには、稀に隠された部屋や通路が存在する。そこには貴重なアイテムが眠っていることが多いが、同時に危険も伴う。
「どうします?」
「うーん……」
悠真は少し考えてから、決断を下した。
「ちょっと調べてみよう。でも、何かあったらすぐに逃げるぞ」
「分かりました。私も警戒しておきます」
悠真は剣の切っ先を壁の継ぎ目に当て、少しずつ力を込めた。石灰で固められているような部分が、ポロポロと崩れ始める。
そして――
ガラガラと音を立てて、壁の一部が内側に崩れ落ちた。
現れたのは、人一人がやっと通れるほどの狭い通路だった。奥は暗くてよく見えないが、かすかに空気の流れを感じる。
「本当に隠し通路だったんですね!」
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