東京ダンジョン物語

さきがけ

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第24話:夏の夜の魔法、たこ焼きとかき氷

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和やかな雰囲気の中、会話は続いた。千夏は、見た目の儚さとは裏腹に、とても聡明で観察眼の鋭い少女だった。

「お姉ちゃん、最近、前より表情がずっと明るくなったんだよ」

千夏が不意に指摘すると、紗夜は少し驚いた顔をした。

「そうかな?」

「うん。前はもっと、なんていうか……一人で全部背負い込んでるみたいな、張り詰めた顔をしてた。でも今は、すごく楽しそう。きっと、悠真さんと美琴さんのおかげです」

そう言って、千夏は悪戯っぽく微笑んだ。図星を突かれた紗夜は、照れくさそうに顔を背け、話題を変えようと慌てた。

「そ、それより千夏、今日の調子はどうなの?」

その慌てぶりが、かえって千夏の指摘が正しいことを証明しているようだった。

今度は、千夏の視線が美琴に向けられた。

「美琴さんって、絶対にお料理上手ですよね」

「え、どうして分かるの?」

美琴が驚いて尋ねると、千夏は自信満々に答えた。

「なんとなくです。雰囲気が、美味しいご飯を作ってくれそうな感じがします」

その言葉に、美琴は嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう。今度、病院食以外で食べられるものがあれば、何か作ってきますね。千夏ちゃんのリクエスト、聞かせてくれる?」

「本当ですか!? やったあ!」

千夏はベッドの上で小さく飛び跳ねて喜んだ。

そして最後に、千夏は好奇心に満ちた目で悠真を見つめた。

「悠真さんって、お姉ちゃんが言うほど、本当にそんなに強いんですか?」

真っ直ぐな質問に、悠真は少し困ったように頭を掻いた。

「いや、そんなことないよ。紗夜の方がよっぽどすごい剣の才能を持ってる」

悠真が謙遜すると、隣にいた紗夜がむきになって反論した。

「そんなことない! 悠真さんは本当にすごく強いんだから! この前の19階層のボスだって、悠真さんがいなかったら倒せなかった」

「でも、紗夜の剣技があったからこそ勝てたんだ」

悠真が謙遜すると、紗夜は不満そうに頬を膨らませた。互いに相手の功績を讃え合う二人の様子に、千夏は楽しそうに笑った。

30分ほど談笑した後、千夏の顔に少しずつ疲れの色が見え始めた。会話のペースが落ち、瞼が重そうに瞬きを繰り返している。

「ごめんなさい、なんだか少し、眠くなっちゃった……」

「ううん、気にしないで。今日はたくさん話してくれてありがとう」

美琴が優しく声をかける。

「また来てくださいね。絶対ですよ」

千夏が懇願するように言うと、三人は声を揃えて応えた。

「もちろん」

その約束に安心したのか、千夏はこくりと頷くと、すぐにすうすうと穏やかな寝息を立て始めた。その寝顔は、あどけない少女そのものだった。三人は静かに病室を後にした。

 ◇ ◇ ◇

病院を出て、駅へと向かう帰り道。夏の午後の日差しが、アスファルトに強く照りつけていた。蝉の声が、まるでシャワーのように頭上から降り注いでくる。

「千夏、すごく楽しそうでした。本当に、ありがとうございました」

紗夜が何度も頭を下げながら言った。その声には、心からの感謝が滲んでいる。

「千夏ちゃん、本当に明るくて素敵な子ですね。こっちが元気をもらっちゃいました」

美琴が微笑みながら応じた。

「ああ。紗夜が頑張る理由が、よく分かったよ」

悠真の言葉に、紗夜ははにかむように笑った。

「あの子の笑顔を守るためなら、なんだってできるんです」

その横顔は、強い決意に満ちていた。

三人が商店街に差し掛かった時、通りが祭りの準備で賑わっていることに気づいた。道の両脇には色とりどりの提灯が吊るされ、いくつかの屋台が準備を始めている。浴衣姿の子供たちが、楽しそうに走り回っていた。

「あ、今日はお祭りだったんだ」

紗夜が呟いた。地元の神社で、年に一度の夏祭りが開催されているのだ。

「せっかくですから、少し寄っていきませんか?」

紗夜の提案に、悠真と美琴は顔を見合わせた。ダンジョン探索と病院へのお見舞い。非日常と日常を行き来した一日の終わりに、夏祭りというささやかな非日常が待っていた。

「いいな。せっかくだから楽しんでいこう」

悠真が応じると、美琴も嬉しそうに頷いた。三人は、祭りの喧騒が聞こえてくる方へと、足を向けた。

 ◇ ◇ ◇

祭り会場は、夕暮れ時が近づくにつれて、どんどん賑わいを増していた。浴衣の裾を気にする人々のざわめき、甘辛いソースが鉄板で焦げる匂いと綿あめの匂いが混じり合い、風鈴の涼やかな音色、そして子供たちのかん高い笑い声。それら全てが夏の夜の湿った空気と混ざり合い、胸が浮き立つような独特の熱気を生み出していた。

「わあ、すごい人ですね」

美琴が感心したように周囲を見回す。

「まずは、たこ焼き食べませんか?」

紗夜が指差した先には、威勢のいい掛け声が響くたこ焼き屋台があった。手際よく生地が流し込まれ、丸い形に焼き上げられていく。

「いいね。俺が買ってくるよ」

悠真が人混みをかき分けて屋台に向かい、三人分のたこ焼きを購入した。熱々の舟皿を受け取り、ソースとマヨネーズ、青のりをたっぷりとかけてもらう。

近くのベンチに腰掛け、三人でたこ焼きを頬張った。

「ん、美味しい!」

紗夜が目を輝かせた。

「病院の近くで、こんなに大きなお祭りをやってるなんて知らなかったです」

「来年も来れるといいな」

悠真が言うと、紗夜は少しだけ寂しそうな顔をした。

次に三人が向かったのは、かき氷の屋台だった。色とりどりのシロップが並び、見ているだけで涼やかな気分になる。美琴はいちご、紗夜はブルーハワイ、そして悠真はメロンを選んだ。

シャリシャリと氷を削る音が心地よい。冷たいかき氷を口に運びながら、紗夜がぽつりと呟いた。

「千夏も、元気だったら一緒に来れたのにな」

その言葉に、美琴が優しく応じた。

「来年はきっと、四人で来れますよ。千夏ちゃんも、紗夜ちゃんも、悠真さんも、私も。四人で一緒に」

その言葉には何の根拠もなかったが、不思議な説得力があった。紗夜は美琴の顔を見て、小さく、しかし力強く頷いた。

その後、三人は金魚すくいの屋台を見つけた。

「やってみたいです!」

紗夜が意気込んで挑戦したが、薄いポイはすぐに破れてしまい、一匹もすくうことができなかった。

「あー、もう!」

悔しがる紗夜を見て、悠真が苦笑した。

「貸してみろ。こういうのはコツがあるんだよ」

悠真は店主からポイを受け取ると、水面に対して水平に、そっとポイを沈めた。そして、狙いを定めた金魚の頭の下に滑り込ませ、壁際に追い込んでから、すっと引き上げた。見事な手つきで、あっという間に三匹の金魚をゲットする。

「すごい! どうしてそんなに上手なんですか?」

紗夜が尊敬の眼差しを向ける。

「子供の頃、近所の祭りで鍛えたからな」

悠真は少し得意げに言うと、すくった金魚をそっと水槽に戻してやった。
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